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日陰の恋花  作者: 篠宮 梢
26/40

☆+25 決断

 恋が、こんなにも苦しかったモノだったなんて。

 こんなに辛くて、切なくて、自分でもどうしようもない位、心を乱される感情だったなんて。

 

 遣る瀬無さと、罪悪感、そしてほんの僅かな幸せに苛まれ、何をする訳でもなくリビングでボヤっとしていた私に、いつも能天気な母の声が降ってきた。


「柚妃ちゃん?どうしたの、柚妃ちゃん」


 どうしたのっ、て。

 こんな事言えるワケないじゃない。 

 それに相談したってどうにもならないし、第一、今更母親ぶられても困る。


 相変わらず、私の事なんて、ちっとも見てないんだね。お母さん。――ううん、違う。弌乃宮夫人。

 

 家にいても、会社にいても、私の存在価値は一緒。

 いればそれなりに便利だけど、いなくても困らない存在。

 却って、家には私がいない方が良いのかもしれないな、なんて、今更ながら思い当たる所が、私が鈍いと言われる理由かもしれない。


(引っ越しでもしようかな・・・。)


 正しくは独立、独り立ち、一人暮らし。


 結婚なんて出来ないし、する気持ちもないから、2LDK位のオシャレなデザイナーズマンションを購入しても良いかもしれない。

 延々と家賃を支払うより、分譲型のマンション一室を買ってしまった方がお得かもしれないし。


(よし。決めた。)


 今の今まで実家暮らしだったから、それなりに貯金はあるし、駅の周辺じゃなかったら立地的にそんなに高くないはず。会社も辞めれば少ないけど退職金は出るし、丁度早期退職を募る回覧がつい最近回ってきたばかり。


 そうと決まれば。


「ねぇ、私、ここの家、近い内に出て行くから」


 私のこの宣言に、8月に入り学校が長期夏季休暇になった為家にいた弟や、丁度遊びに来ていた血の繋がらない甥や姪が、その場で固まった。そして養父は養父で、母は母で、冷たい飲み物が入ったグラスを手から落とし、驚いていた。


 そのみんなの瞳には一様に「何故、どうして」と、私に訴えかけていた。

 いつもなら、「冗談よ」と言っていたかもしれない。

 でも、その時の私には自分の存在意義を家には見い出せなかった。


「良いよね、私だって大人なんだし、誰にも口出しされたくないのよ。疲れたのよね。良いお姉ちゃんぶるのが。もうウンザリだわ。」


 もし、この時清田女史がいたら「随分と早いマタニティーブルーね」と、私を笑っていただろう。

 そんな下らない自分の仮想に、また苦いモノを感じ、嗤ってしまった。


 兎にも角にも、私はここではないどこかに行きたい。

 会社も辞めてしまおう。

 もう、これ以上想いが大きくなる前に。


 

 ――社長の幸せを壊し、奪ってしまう前に。

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