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日陰の恋花  作者: 篠宮 梢
25/40

☆+24 想いの代償

 一、二、三・・・。

 もう六日も生理が遅れてる。


 私の取り柄は健康だけだったのに、今回のこれは由々しき事態。


 あの面倒な事と付き合い始めて今年でかれこれ16年目。

 その16年間、アレは一度として遅れる事なく、狂うこともなく、毎月決まった日に決まった日数で訪れていた。


 それが、今月に限ってこない。

 正直、思い当たる節が幾つかあるから、やたら滅多に医者にはいけない。


 主に思い当たる節の候補としては、


 ①やっぱり、先月の一夜の過ち説。

 ②①を気にしすぎての精神的ストレスからくるもの。

 ③考えたくないけど若年性更年期。


 うーん…。

 これなら私的には②の方がありがたい。もし①か③なら悲しい上にやるせない感が満載で、最悪の場合、修羅場になりかねない。



 ――ピピッ



 小さな電子音がなり、体温の計測終了を教えてくれる。

 その体温計をみれば案の定、微熱。


 やけに眠かったり、気怠いなどの倦怠感が続いてるなと思ってたら、やっぱり。

 食欲も減退してるし、何もないのにイライラしたり。


(やっぱり妊娠かなぁ~?)


 いや、でも今月だけかもしれないし…。


 一番手っ取り早い方法は市販の妊娠検査薬?(今までそんなものと縁が無かったから、正式な名前は分かんないけど。)を使って、陽性か陰性のどちらかであるかを確かめてみる事。


 うん。

 これはもうアレだね。調べてみるしかなさそう。


 ちらりと周りをそれとなく窺ってみれば、昼休みに入ったせいか秘書室にいたのは、私と萌先輩だけという、なんとも好条件なタイミングだった。


 今朝、出勤前に買っておいて良かった。


 そうとなれば、と、私は少しの勇気を振り絞って立ち上がり、萌先輩に声をかけようとしたとき、グラリ、と、急に強い立ち眩みに襲われ、まるで砂で造られたお城が波に攫われ、崩れ落ちるようにして倒れてしまった。


 それと共に寒くなってくる身体。


 動きたいのに動けない。

 部屋に飾ってある花の香りがキツくて、甘くて、気持ち悪い。


「柚妃ちゃん?」


 あぁ、萌先輩に迷惑掛けちゃう。

 こんなことになんか巻き込みたくないのに。


 床に倒れたまま、ピクリとも動かなくなった私に、萌先輩は直ぐに私の異常を察してくれたらしく、医務室に電話を入れ、秘書室に内勤医さんが来てくれるまで、私の隣で私の体を支えていてくれた。






「え・・・?」


 その言葉は、私に少なからずショックを与えた。

 

 自分でももしかして、と疑ってはいたけれど、実際にそれがそうだと認められてしまうと、途端に怖くなってくる。

 

「どうやら思い当たる節があるみたいだね。どうする?今なら中絶も出来るけど。どっちみち、病院には行かないとね」


 中絶・・・。

 妊娠・・・。


 このまっ平らな私のお腹に新しい命が宿っていると言う。


 たったの一回。

 たったの一回、あの日、抱かれただけなのに。


「父親は誰だかは聞かないけど、よく相談「相談なんて出来ません!!」」


 私の突然の剣幕に、倒れた私を見てくれた先生が、驚きと困惑で瞳を瞬かせた。

 それは私を心配して、今まで傍で介抱してくれていた萌先輩も同じだった。

 

「言えません、言えないんです。あの人には、あの人には言えないんです!!」


 もっと真剣にあの時に抵抗さえしていれば、こんな事にはならなかった。

 あの日、どんなに頼まれても、歌音ちゃんを迎えに行くんじゃなかった。


「言えないんです・・・っ、」


 ボタボタと流れる涙は、贖罪かどす黒い喜びか。

 それは判らないけれど。


「でも、中絶だけは、しません・・・。」


 折角授かった命。

 私を選んでくれた命。

 あの人の、私が好きになってしまった御鹿倉社長との赤ちゃん。


 今は未だまっ平らな、目立ってもないお腹を擦り、私は落ち着くまで医務室にいた。



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