☆+22 一夜の誤ち
R-15?
なんで、一体どうして。
一体何がどうなってこんな事になっちゃってるの?
ご飯を食べ終わった歌音ちゃんにせがまれ、一緒にお風呂に入り、歌音ちゃんの広い部屋にある、やっぱり大きなお姫様な天蓋付きベッドに横になり、童話を読んでいた所までは何とか覚えている。
その時に自分が身に着けていたモノが、真っ更なバスローブだったのも、何とか覚えてる。だって、それしかないからと、歌音ちゃんが泣きそうな顔で言うから、それを着るしかなかった。
そんなことは置いといて、問題はどうしてそのバスローブが今肌蹴ちゃってるのかと言う事。
しかも好きだと自覚したばかりのヒトの前で。
今の状況を詳しく説明するのならば、目の前には明らかに酔ってらっしゃると一目瞭然で判る社長。
一方、背中はと言えば、どういう理由か最高級の肌触りのシーツに沈んでいて。
さらに言えば、唇は社長によって絶賛塞がれている最中です。
息をも吐かせない執拗なキスは、長い間、恋愛ごとから遠ざかっていた私にしては苦しく、慣れないモノだった。
チクリと、首筋や胸の谷間に痛みを感じ、そこへ目をやれば、私を自分の所有物だと言うように、紅い痕を次々と咲かせていた。
抵抗すればいいのでは?と仰る方もいらっしゃるのではないかと思いますので、一応弁解しますよ?
えぇ。しようと思いましたよ。そして実際抵抗はしましたよ。
幾ら好きな人だとは言え、相手は奥さんと可愛らしいお子さんをお持ちで、私はその人の単なる部下で社員。 それを痛い程判っていたから、正気に帰ってほしくて、抵抗はしましたよ。
でもね、それがいけなかったようで、敢無くバスローブの腰ひもで両手を括られてしまったんですよ・・・。
あぁ、何たる非力。
何たる不甲斐なさ。
何たる邪悪で欲高い私の身体。
あっという間に蕩かされてしまった私の身体はもう相手が為すまま。
だから罰があたったんだよね。
一時でも人の旦那さんを奪ってしまったから。
「朱音・・・。」
ぽつりと、漏れた呟き。
そう。
社長は私の事を自分の奥さんだと思い込んで私を抱いている。
ミシ、キシ、ギシっと軋む大きなベッド。
身体は熱いのに、心は空しくて、冷たくて、張り裂けそうで。
こんなにも社長はあの奥さんを求めているのに、あの奥さんは他の人を見ている。
あの人が奥さんではなく、恋人だったら、婚約者だったのなら、ここまで私は悲しくも辛くも感じなかった。
でも現実は・・・。
想いを遂げた社長は、私を奥さんだと思い込んだまま、そのまま眠りに落ち、私はそれが嫌で、苦しくてたまらなくて、あまりの激しさに緩んだ両手の拘束を自分で解き、ふらつきながらも予めまとめておいた着替えや荷物を持ち、私がここにいたという痕跡を消して、社長の家から逃げ出した。
初めては好きな人が良い、とずっと思ってた。
でも、こんなのは望んでは無かった。
好きでいる事は望んだけど、身体の関係までは望んでいなかった。
今夜の事を社長が覚えていたら、傷付くのは社長だけじゃない。
歌音ちゃんも傷付くし、他にも傷付く人達はいる。
でも、それは多分無いのかもしれない。
あれだけ酔っていたんだから。
あれだけ、酔っていたんだから。
自分で自分を励まし、騙し、私は携帯で呼んだ深夜タクシーに乗り込み、家に着くまで声を押し殺して泣き続けた。
そんな私をタクシーの運手手さんは気遣ってくれ、家に着くまで何も聞かないでいてくれた。
バスローブ姿で如何にもと言う、姿形にも何も聞かないでくれた。
「お大事にして下さい。お休みなさいませ」
タクシーを降りる際に掛けて貰った言葉に、私はまた涙を流してしまった。
家に着いた時間はもう明け方だった為、私は一睡もせずに、お風呂に入って、出来るだけ何時も通りを心掛け、残りの有給は母の代理として、しっかり仕事をやり遂げ、翌日からまたいつもの日常に戻った。
でも、その日から私は極力、社長には近寄らないよう、関わらないように、以前にも増し注意し、存在感を消して行動するようになっていた。
不倫を勧めているワケではありません。
その上で、お読み下されば幸いです。