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日陰の恋花  作者: 篠宮 梢
18/40

☆+17 嵐一過

 その電話が鳴ったのは、社長にコーヒーを淹れてから更に一時間後の事。

 電話越しでの社長の声は、徹夜明けか、はたまた余計な事に時間を取られた事による苛立ちと疲労でいつも以上に掠れ、冷たかった。


「篠田さん、触れぬ社長に祟りなし、よ?」


「は、はい。」


 私の電話対応に何かを感じたのか、先輩方が口々に私を励まし、生温かい眼差しをくれる。

 それはまるで未だ何も知らない子羊を見守る様な、ある種、居心地の悪い眼差し。


 言いたい事があるのなら言って欲しいのに、先輩方は惚けるか、昼食時だったが為に昼食に逃げるだけ。誰も仕事を変わってくれようとはしない。


 仮にも秘書課は女子社員にとっては、玉の輿&出世コースの王道。

 なのに、そんなものには興味は無いとさっさと逃げて行く。

 まぁ、先輩達はここに仕事をしに来ているだけであって、男漁りに来ている訳じゃない。それは理解しているけど。


(でもねぇー、正直関り合いたくないんだよねぇ~。)


 あの独特な雰囲気を持った社長は、今まで私が付き合ってきた男性とは一味も二味も違う。

 既婚者でなければ、近寄りたくもない。


「ふっ、何も怖がる事なんてないのよ。私は掃除をするだけなんだからね!!」


 いざ出陣!!と、自分自身を鼓舞してから、掃除道具を手に社長室に突撃すれば、部屋にはもう女性がいなかった。


 女性は社長の奥さんで、とてもきれいな人だった。

 流石は、社長夫人。とも思った。


 でも、中味は大変な癇癪持ちの様で・・・。


「あーぁ。こんなに派手に散らかして汚しちゃってくれて。良いのは見た目だけって事?こんなんじゃ料理もしてなさそう。」


「・・・、良く判るな」


「そりゃあ判りますよ。こんなふうに散らかすだけ散らかしてそのまま帰る人なんて、たかが知れてますよ。外面だけが良い女なんて、欠点があり放題なんですから・・・って、社長!!」


 心底疲れ果てたと言う表情の社長が、いつの間にか私の後ろに立っていた。


 おそらく奥さんを送ってきたのだろう。

 曲にも二人は夫婦で、法律上でも戸籍上でも夫婦。

 今社長と奥さんが離婚したら、かのちゃんが傷付く。


 ――シュルッ。


 ん?

 寝るのかな?


 何かを、と言ってもおそらくはネクタイを外す音を聞くともなく聞いていた私は、無残にも砕け散った花瓶の欠片を拾おうとしゃがんだ時、朝きっちりとまとめた筈の髪が落ちてきた。


 と言う事はさっきの布が解ける音は・・・。


「何をしやがってんですか?社長殿」


「いや、なんとなくだ。気にするな篠田。」


「いえ、気にしますよ。折角、玲菜れなが整えてくれた髪を。どうしてくれるんですか。今日の帰りデートなんですよ。」


「デート、か。」


 クツクツと、多分喉の奥で笑う社長。

 多分と言うのは振り返れないから。


 振り替えったらダメだと、何かが私に警告していた。

 振り返ってしまった瞬間から、私の運命が変わってしまう、と。


 なのに。


 グイッと、無理矢理社長によって向かい合わされた私は、哀れにも、社長の瞳の奥に宿る何かに囚われてしまったのだった。


 ダメだと、危険だと注意されていたのに。

 私はその日、その瞬間から彼に次第に囚われていった。

 気付いた時には、どうにもならくなっていた。

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