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日陰の恋花  作者: 篠宮 梢
16/40

☆+15 商談②

「ねぇ、柚妃ちゃん、どっちが柚妃ちゃんの彼氏なの?私にだけ教えて?」


 兄嫁の比奈子さんは超のつくほどのド天然さんで、空気を読むと言う事を時として忘れてしまう、非常に困り、愛すべき人だと言う事を、私は今の今まで忘れていた。


 なんだかんだと言いながらも、いきなり秘書課に飛ばされ(無理矢理、業務命令、同意一切なし)、秘書業務になれるまで仕事の帰りが遅く、こうして比奈子さんとゆっくり逢うのは本当に久しぶりで、だから、その厄介な性格を忘れかけていた。


 でも、ここであぁそうですね、と認め、どちらかが彼氏ですと答えたのなら、絶対今日中に家族や親族に知れ渡る!!


 それだけは非常に困る。

 よって。


「お久しぶりでございます、奥様。私の顔を憶えていて下さったのですね?その節は大変お世話になりました(お願いだから、他人のフリをして!!)」


「まぁ、そんな他人行儀にしないで柚妃ちゃん(恥ずかしがらなくても良いじゃない。お義父様には秘密にしておくから)」


 にこにこと、とても30代とは到底思えない微笑みを浮かべ、私が願っているのとは正反対な思惑の色を瞳に宿し、うふふと笑う様は、完全に私の意図を間違えている。


 ナントカしなければならないと焦っていた私は、比奈子さんの次の言葉に、盛大に噎せてしまった。

 そして、言わなくても良い事もつい口にしてしまった。


「あ、ひょっとして、薬指に指輪を付けてる社長さんが恋人だから、言えないの?不倫だったら、言えないものね!!そうなのね?柚妃ちゃん!!」


「・・・・っぐ、げほっげほ、って、なんてこと言うんですか!!私に彼氏はここ最近いませんよ!!比奈子さん、私が処女だって知ってるじゃないですか!!」


「えぇー?どっちも違うの~?なーんだ、つまんないの。」


 この天然兄嫁が、と、言い返そうとした私を止めたのは、急に静かになった4人だった。


 血の繋がらない兄は、まさかの私の処女発言が余程嬉しかったのかきらきらと瞳を輝かせ喜んでいるし、父の弟である義理の叔父さんは少し頬を赤らめていて、壬に至っては、私を般若の形相で睨んでいた。そして、私の要らないカミングアウトに最も驚きを露わしていたのは、何を隠そう、御鹿倉社長、その人だった。


 シーン・・・、と、音一つなく、いや、獅子脅しの音だけがやけに優雅に響く和室、それも、一流料亭での、社運を掛けた商談でのこの失態。


 何も言いだせずアタフタしている私に反し、比奈子さんは暢気にもおっとりと微笑んだ。


「一威さん、良かったわねぇ~。これでもう安心して眠れるんじゃない?」


「あぁ、そうだな。叔父さんもこれで父さんに愚知られる事はないですよ。」


「はい、ようやく胃薬から解放されそうでなによりです。これでようやく芹香さんに心配を掛けずに済みそうです。彼女には随分と心配を掛けてしまいましたからね。」


「芹香さんも喜ぶでしょうね。年上の憬れの姪がまだ無垢だなんて」


 兄嫁、兄、叔父、そして再び兄と続く会話に、私はうんともすんとも言えなかった。

 

 恥ずかしくて堪らない。

 こんなの、ある意味一種の公開処刑でしょ!!


 頬を羞恥で火照らせ、悶絶していた私は、私の隣で声も出さずに、ぶるぶると肩を震わせ、必死に声を圧し殺している上司を横目で見た途端、またカッとした。


 なんでそんなに笑う必要があるのよ!!

 この年で処女なのがそんなに悪いの?

 脱ヴァージンが早いのが、そんなにいいのか、偉いのか!!


「柚妃、柚妃、お前ただ漏れだぞ。ぜんぶ声にして出してるぞ・・・。」


 壬のそんな呆れた声に、私は何も言えなくなった。


 私がそうして、押し黙ってる間に商談は一気にスムーズに進み、壬は満足気に笑み、兄と兄嫁、叔父はそれぞれ和やかな表情を浮かべ、社長は社長で私のカミングアウトにいつまでも笑いが収まる事無く、商談はあっという間に締結され、終わった。

 




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