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日陰の恋花  作者: 篠宮 梢
15/40

☆+14 商談①

(なんで、なんでこんな事になってるの?)


 今、私は、非常に気不味く、場違いな所に居る。


 目の前には、義理の父である人の右腕とも言われている専務に、普段は料理人として働いている兄と、兄の奥さんの三人が、私と壬、そして社長に対面するように座っている。


 場所は兄が経営している【弌佳】ではなく、弌乃宮グループが経営している、【櫻苑】の神楽坂本店。


 あの遠足から三日。

 父に持ちかけた話を忘れかけていた頃、私宛に私用の携帯電話に父から連絡が入った。


 何かと思えば、食器を使うかどうか検討してあげるから、【櫻苑】に来なさいとのこと。


 その父の言葉を聞いて、まず私が最初に思い、感じたのは、確かに私は食器を使ってくれるのかとは聞いたけれど、本気で考えるとは思っても無かった。と言う事と、マズイ事になったなと言う事。


 会社側には、私が弌乃宮グループの総帥の、血の繋がらない娘だと申告していない。

 それが会社側にバレたら、非常にメンドクサイ事になる。


 私が勤めている会社は、未だ血族主義が根強く残っている会社で、利益優先と考えている幹部は嘆かわしい事に、腐るほどうじゃうじゃいる。


 そこで私が【MIKAGURA】と並ぶほどの大企業の経営者一族の親族と知れたら、職場を変えなくてはならない。


 そんな事を考えながらも、父の言葉は絶対だと理解していた私は、自社ブランドの皿を幾つか専用のアタッシュケースに入れ、カタログも何部か鞄に入れ、営業部の壬に連絡し、いざ出かけようとした処で、最悪なタイミングで社長と遭遇してしまい、社長は私と壬の出掛ける姿を見るなり、何処に行くのかと尋ね、壬は真意の知れない(実際は面倒くさい)笑みを浮かべ、【櫻苑】に営業ですとサラリと答えてしまった。


 【櫻苑】は、良く芸能人や政財界の人達がお忍びで来る所と知られていて、そこの店に商品や食材を使って貰えるのは限られたごく一部とも言われている。


 その理由が、数ある料亭の中で、わざわざ安くも無いお金を出し、【櫻苑】の味と、雰囲気を愛して下さるお客様の為だと、私は知っている。


 そんな【櫻苑】にクビ擦れ擦れの営業マンの壬を連れて行くのが、社長には理解出来なかったのだろう。

 壬は壬で、この営業に何らかの興味があったのか、いつもの怠惰な雰囲気を隠し、社長を無視し、私が呼び出していたタクシーに乗り、私と社長が乗ったのを確認すると、タクシーの運転手に行き先を告げ、目を閉じた。


 その凡そ45分後、私達はこうして現在進行形で義理の兄達と、座敷で対面しているのだ。


 専務であり、父の弟である人は、壬と早速商談しているし、兄は兄で、社長と腹の探り合いをしている。

 そんな二人の背後に、ハブとマングースがいるように見えるのは、私だけなのだろうか。


(うぅ、気まずい。気まずいったらない。)


 お茶と共に出された水羊羹を突きながら、無言で俯いていた私に、さり気無く大きな爆弾を落としてくれたのは、専務でもなく、兄でもなく、兄嫁たる・比奈子さんだった。


「ねぇ、柚妃ちゃん。どっちが柚妃ちゃんの彼氏なの?私にだけ教えて?」


 天然は、時には恐ろしい武器なのだと、私はその日、初めて実感した。  


 

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