☆+11 遠足①
真っ青な良く晴れた空に、適度に吹きつける初夏の風。
着ているのは、蒼いスキニーパンツに、濃い桃色のストレッチポロシャツ。
靴は履きなれたスニーカー。
胸のあたりまである長い髪は、簡単にポニーテールにまとめ上げ、オマケにスポーツキャップを被れば、完璧な遠足用スタイル。
これで日焼け止めを塗れば本当に完璧なのだろうけれど、運が悪い事に忘れてきてしまった。
だけど本当に運が悪い、と実感したのは、遠足のチーム分け。
確かにウチの彩都とかのちゃんの仲は良い。
良過ぎるほど良い。
親バカ、ブラコン気味の兄弟達が嫉妬するほど仲は良い。
それはまあ、なんとか仕方がないと割り切れるけど。
(なんで遠足の付き添いが社長なの?)
切れ長で涼やかな目元。
精錬された動作。
他者をも簡単に従わせてしまえるほどの美声。
そんな完璧な人が一緒の班となれば、自然と欲求不満なご婦人達が、一緒の班になり、お近づきになろうと、鵜の目、鷹の目となる。
身に付けているのは、それこそそこ等辺で売っているような、普通のチノパンに、七分丈シャツ、そして良く履き込まれているシューズと言った、非常にラフなモノなのに、着ている人が完璧と言うだけで高級品質に見えてしまう。
この日の為に、止むを得ず新調した時計を見やれば、もうチーム分けのジャンケンを始めて五分も過ぎていた。
一体、何を考えているのだろうか。
子供たちを放置し、女と言う生き物になってしまっている母親達の姿には、もはや溜息すら出ない。
「ねぇ、ゆきママ。遠足まだ?」
「早く行こうよ、ゆきママ。」
そんな大人達を待ちきれなくなったのは、当然ながら、本日の遠足の主役である子供たち。
その子供達は、彩都やかのちゃんに影響されたのか、私の事を【ゆきママ】といつしか呼ぶようになっていた。
それを訂正しないのは、もう呼ばれ慣れたからで、それに一々訂正していては、それだけで一日がすぐに終わってしまう。
そんな勿体のない時間の潰し方は出来ない。
よって。
「みんな、お手手繋いだら私の後に付いて歩いてきてね。すみません、かのちゃんのパパさん、子供たちが逸れない様に一番後ろから付いて来てくれますか?」
元はと言えば社長が原因なのだから、否、とは言わせない。
そんな念を含め、じろりと睨めば、相手から返ってきたのは仕方なさげな溜息が一つ。
失礼な!!
溜息を吐きたいのはこっちの方よ!!
だいたい、なんで社長が遠足に来るの?
普通は奥さんかお手伝いさんでしょ!?
その態度にむかむかしながらも、私は歩き出した。
この遠足が、私に多大なる影響を与える事になるだろうとは知らずに・・・。