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日陰の恋花  作者: 篠宮 梢
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☆+9 社長ってどんな人?

 御鹿倉 弌葉、38歳。


 家族構成、妻の朱音あやね34歳、娘の歌音かのんちゃん5歳。

 三人姉弟の長男で、上に姉、下に妹が一人づつ。

 因みに両親とは別居中。



「って、こんな処かしらね。社長のベーシックなデータは。これ以上の情報を求めるのなら私は降りるわよ?」


 昼時も過ぎ、賑わいもすっかり無くなった社員食堂で、私は同期の友人達に社長がどんな人なのか教えて貰っていた。


 今更と言われようが、どうしてと?聞かれようが、一度気になりだしたらどうしても気になる私の悪い癖は、どうやら次の標的ターゲットを、社長に定めたらしく、私は気付けば友人達にこっそり社長がどんな人なのか探りを入れていた。


 気分はもう立派なストーカー気味の探偵だ。


 社長が動けば自然と視線が社長を追い、社長が秘書室に顔を出せば、社長が望む前にお茶かコーヒーを出し、社長が顔を歪めれば、社長に命じられる前に、社長の近くにいる女性達を追い払ってしまう。


「しかし、柚妃がね~。来留逵さんの事はもう良いのか?まだ好きなんだろ?」


「好きだけど、それは憧れだもん。見るだけ用って言うか、観賞用って言うか。」


「柚妃、それ、同じ意味よ?」


 友人のちょっとしたからかいに転張った答えを出した私に、別の友人がそんな私に鋭い突っ込みを入れる。そんな私達を毛虫でも見るかのような眼で黙って見ているのが、資料課の裏番とも、一部の人達から恐れられている清田きよた 瑛子えいこ女史。 


 彼女がいなければ、5年以上前の資料は見つからないから大変である。


「とにかく、あんなヤバい物件、調べるのは手間なのよ。バレたら首の一個や二個じゃ足りないの。気になるのは良いけど、好きになるのは辞めときなさい。辛くなるわよ。」


 まるで未来を予言するかのような清田女史の言葉に、私は何度も頷いた。

 

 そうだ。過ぎた興味は己の身を滅ぼす。

 どうしても気になるのなら、別の人間を標的にすれば良い。

 例えば・・・。


 ふっと、頭に浮かんだ人の顔は、ついさっき止めると決めた人の顔だった。


(なんで勝手に出てくるの?しかもあの時の顔だし!!)


 ゴン、ゴン、っと、己の頭をテーブルに強く打ちつければ、黒髪の眼鏡をかけた友人、芦平あしひら じんは、ヒクヒクと零れる笑いをなんとか堪えながら、私を宥めてくれた。


 この友人は、やれば出来るのに、いつも本気を出さない瀬戸際営業マン。その営業マンの恋人兼、私の友人で、突っ込み担当なのが、今ではすっかり経理の窓際お局と化した、よもぎ ゆり子。 


 私を含めたこの4人は、皆同期だ。

 4人が集まれば、例えどんな静かなところでもあっという間に祭り騒ぎの様な賑やかさになる。


 周囲の人達からは無能のバカ集団と言われ、扱われているけれど、自分達さえ解かり合っていればいいと皆は言う。


 だから私もどんなに理不尽な事を言われ、押しつけられても頑張ってこれた。


「兎に角だ。ヤバいモンからは手を引け。弌乃宮のオッサンからも言われてるだろ?」


「そうよ、柚妃。この不真面目なチャラ眼鏡の言う通りよ。」


「私も今回だけは壬君の意見に賛成よ。――柚妃、あの人は普通の人じゃ手に負えないわ。」


 口々にさり気なく社長を探るのは止めろと、説得された私は、両手を上げ、降参のポーズを取り、皆に食後のデザートを奢った。


 でも、秘かに静に回り始めていた運命の歯車は、私の知らない所で、降参ソレを許さないかのように、急速に加速し、廻り始めていた。

 


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