1.最高潮(クライマックス)
「があああああぁぁっ!!!」
「何だ!?何でこんなことになった?一体何なんだよ!!!」
庸が叫ぶ。その時、誰もがそう思っていた。
「知るかっ!こっちが知りてえよっ!」
「おい前見ろっ!」
「来るよ!気をつけて!」
その声の一瞬の後、彼らがいた場所は陥没した。巨大なコンクリートが飛んできたためだ。それより一瞬早く彼らは散開し、間一髪直撃は免れた。
……炎に囲まれている。彼らがいる建物は炎上し始めていた。
彼らの目の前には怪物が立っていた。身長二mを越すかと思われる大男だ。体格は彼らの誰よりもがっしりしていた。こっちを見て愉快そうに笑っている。
「……クックククククッ……」
怪物は手には棍棒を持っていた。……棍棒?いや、違う。丸太だ。工事現場においてある足場用の丸太を片手で軽々と持ち上げていたのだった。
……『鬼』。彼らが抱くイメージを表現するには、その言葉が一番似合っていた。
工事中の学校の屋上。周りの一部には、コンクリートの壁や鉄骨がまだ剥き出しの状態になっている。
工事用の資材が投げつけられた周りのフェンスがひしゃげて、足元から折れて校舎の外にぶら下がっていた。……もし、さっきのような一撃を受けて吹き飛ばされた場合、あっという間に四階建ての校舎の屋上から真っ逆さまになる。
「ククク、どうしたお前ら。お前らの力はその程度か」
「や……ろぉっ!」
悔しそうに庸が歯軋りをする。鬼はまだ、かすり傷一つ負ってはいなかった。異様なまでに盛り上がる筋肉と、静脈が浮き上がっているような青い肌が、中途半端な打撃は受け付けないほど硬質化しているらしい。
「どうした相模。もう後がないぞ?」
その言葉に横目で見ると、ほんの二メートルほど先にはもう床がなかった。それでも庸は怯えた様子など見せず、虚勢を張る。
「調子に乗ってんのも今のうちだぜ?」
「ほお、そこまで強がれるのは大したものだ。……けど、死ねよ」
「相模っ!」
慌てて光樹と総一郎が駆け寄ろうとする。しかし、鬼は近くにあったセメントの袋を軽々と投げ付け、それを避けるために二人はバランスを崩した。袋が弾け、周囲に粉が舞い散る。
巻き上がる粉で視界を失った二人は、庸の元へ駆けつけることができない。
「ちっ!」
「相模君!」
仲間の声だけが、鬼と庸の所へ届いた。……しかしそれでも庸は、鬼から目を離さない。
「いい仲間を持って幸せだなぁ?相模」
「……ああ。お前じゃなくてほんとに良かったぜ」
「フッ、あばよ」
鬼が右足を叩きつけると、庸の周りの床が無くなった。