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季節の忘れ物

冬が過ぎ

 鯨が海を()る様に

 そこかしこから 春がぬうっと顔を出す

 春に触れた分だけ雪は静かに溶けていく


 春の通った跡から 冬の忘れ物達が顔を出す


 折れた枝 潰れた木の実 落ち葉達

 片っぽだけの手袋に 点字タイルのカケラ 髪飾り


 中には変わったものもある

 指輪に 錆びた看板 アイスの棒


 路傍の溶け残った雪達は

 揃いも揃って 薄汚れた小石の宝冠を被り うつむきながら立ち尽くす

 いずれ滅びる王族達の様に


 いつしか それらも春に呑み込まれていく

 そして 夏が来る頃には 春の忘れ物達が顔を出すのだ



春が去ると

 夏が雷雲(らいうん)の獅子のごとくまかり通る

 堂々と ただ堂々と

 何の遠慮もなく

 激しい雨と(いかづち)(まと)って歩んで往く


 春の柔らかさを 夏が 塗りつぶして往く


 折れた定期券 泥に染まったハンカチ

 幼児のブーツ


 あるいは

 切手の無い手紙


 柔らかな新芽は

 いつしか色濃い葉となり 強い日差しを遮るように手を伸ばす

 幼子を守る妖精の騎士のように


 夏の獅子はそれらを気にも留めず

 ただ堂々と通り過ぎて往く

 その後に続く 秋の気配に気づきもせずに



夏の気配が離れると

 秋が影の鹿の様にやって来る

 長雨と草木の赤を身に(まと)

 夏の火照りを足元から冷ましていく


 夏の足跡に残された

 アスファルトにめり込んだリングプル

 誰かが捨てた祭り屋台の串

 折れた傘

 それとも 片方だけのイヤリング


 そんな夏の匂いを嗅ぎながら

 おっかなびっくり枯葉を踏んで

 かさかさと秋は 影のように歩む


 カラフルな落ち葉は まだ組み上がっていないジグソーパズル

 ピースは組み上がるとともに 色を失い消えてゆく 


 夏が完全に立ち去った事を確認すると

 秋は足早に通り過ぎて往く

 冬が迫っている事を

 何度も振り返って確認しつつ



秋がいなくなり

 冬が神話の巨人の様に

 高い山から足早に降りてくる


 身を切る風を身に(まと)

 秋の名残の数だけ涙をこぼし

 風の温度を下げていく


 秋が落としていった

 少し色あせた落とし物


 風に砕かれた落ち葉の破片

 枝ごと落ちたナナカマドの実

 リボンのついた本の栞

 もしかしたら 誰かへの届かない伝言


 それらを冬は拾いもせずに

 踏みつけ 冷たく白いため息で覆い隠す


 涙とため息の度に 世界は冷たくなってゆく

 そうして 冬は全てを覆いつくして往く

 

そして冬が去れば

 春が海を破る様にやって来るのだ

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