交易の街 ワインヒル
「騎士がいる街中を?」
「だからよ。普通にしてる方が怪しまれないんでしょ?」
リリアは当然のように言う。一理あるのが腹立つ。
どのみち補給も必要だし、買い出しは必要なことだ。
が、観光までとなると呑気過ぎやしないかとどうしても思ってしまう。
「カイ君もワインヒル、ほとんど見てないでしょ?」
「良いんですか?」
「はぁ……。あまり遠くには行かねぇぞ」
行く気満々のリリアにもう何を言っても無駄だろ。
俺は下手な抵抗を止めて、言うことに従うとする。
確かに息抜きは必要だしな。カイも気を張り詰めてたら調子を崩すかも知れない。
緊張、ってのはそれだけでストレスだからな。そしてストレスはいつか身体を壊す。
そういう捌け口にはちょうど良い街でもある。
そうして俺達はギルド周辺の店だけを回ることにした。
当然、俺はセラ・ノクティスの姿のまま。リリアとカイを連れてギルド支部が面している大通りに出る。ミリアさんは仕事がまだあるとかで、付いて来ていない。
あの人も大概、仕事人間だよな。まぁ身体を壊すような人でもないけど。
「馬車がすごく多いですね」
「ワインヒルは特にな。今までの港町とは全然違うだろ?」
「はい。賑やかでも、賑やかの種類が違うというか」
「飲んだくれも多いしね」
昼を少し過ぎたワインヒルは相変わらず騒がしい。
酒樽を転がす職人。葡萄を山ほど積んだ荷馬車。試飲を勧める店員の声。
エスメラルダやソレイユ。そしてカイの故郷、オリエンスは全て港町。道中に寄った内陸の場所と言えば、リリアと合流した名も無い小さな村くらいなもんだ。
それらに比べるとワインヒルという街はとにかく馬車が多くて道が広い。
小さくまとまった田舎の港町だったエスメラルダ。海運の要所で街の中の移動と言えば船だったソレイユ。
オリエンスは確か、街の中を人力車が走っていたハズだ。
対するワインヒルはとにかく馬車の数が多い。荷物を満載した大型の馬車がいくつも目に入り、更にはそれがすれ違えるだけの道幅があるのはアストレア王国のなかでもワインヒルはと王都以外にはいくつあるかどうか、ってところだな。
「これ、全部葡萄ですか?」
ワインヒルの特徴はもう1つ。街中のいたるところに葡萄畑があることだ。街の郊外の方がその数は多いが、街の中心地でも平然と葡萄畑が点々と存在する。
元々、こんなに大きな街でも無ければ、交易の中心地でも無かったらしいからな。アストレア王国が発展していく中で、ここがたまたまちょうど良かった。
元々ワイン造りが盛んなだけの小さな村や町だった頃の名残がこの街中に点在する葡萄畑ってワケだ。
「そうよ。葡萄には色んな品種があるの。食べるのに向いてるのと、ワイン向きとか、ジュースとかの加工品に向いているとかね」
「そんなにあるんですか」
「例えばこれはワイン向きの葡萄よ。お店で見るような葡萄より粒が小さいのが分かる?」
リリアが妙に詳しい。そういえば、コイツ酒飲みだったな。俺達のパーティーの中で一番の酒豪だったのはん何を隠そうコイツだったからな。
人一倍飲むくせに、次の日にはケロッとしてる。色んな酒場の酒豪たちと飲み比べをして、勝ちまくって来た実績もあるくらいだ。
「お前、酒目当てだろ」
「失礼ね。単純に知識よ」
絶対嘘だ。カイは色々教えてもらって楽しそうにしているが、絶対にただただ酒飲みが酒の知識を拾うしているだけだ。
酒呑み曰く、酒の知識を知っていると酒がもっと旨くなるらしいが、真相は知らん。
そうやってぶらぶらと当てもなく街を歩いていると、カイが露店で売っていた葡萄飴をじっと見ていたので、一袋買う。
俺も隣の露店で売ってた揚げ芋を口に放り込む。チーズの塩気が絶妙に美味い。これも酒飲みのつまみなんだろうな……。




