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便利屋セイルは女神にならない ~使うほど身体が侵食される女神変身スキルで、訳あり少年を守る話~  作者: 伊崎詩音
交易の街 ワインヒル

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交易の街 ワインヒル


全員に緊張が走る。相手が騎士に相当する誰かだと言うだけで、俺達にとっては危険な相手になる。

無論、いきなりドンパチすんのはNG。だからと言って、雑に動くのはもっとNGだ。


「夕方じゃなかったの?」


「予定より早く到着したのかも知れません」


「そもそも誰かもわからんし、俺達に用事があるかもわからん。丁寧に行くぞ」


ミリアさんは表情を変えず、机の上にあった書類を手早く回収する。こんなん逃亡ルートを開示しているのと同じだからな。幸い、後は出るだけだったから何の問題も無い。


俺とリリアも即座に動く。カイの外套を着せ、今から出るところだったという風体を強調する。変装も問題なし。


今の俺は女神の姿。偽名はセラ・ノクティス。女神の姿を元に更に付け毛での変装状態で、カイの親族風を装っているのも変わらない。それをリリアとチェックして2人で小さくOKサインを出し合う。


少なくとも、指名手配されているセイル・ノクティスには見えない。いきなりバレる、ってことは無いハズだ。


「このまま親子設定で行く?」


「お前が面白がってるだけだろ」


「使えるものは使わないと」


舌打ちだけで返事をする。リリアの言う通りだ。誰だかわからないが『ブルーリオン騎士団』でもベルゼルト卿の私兵騎士でも、聴取はして来るだろう。


そしてそれは情報共有される。それに対して整合性は取っておくに越したことはない。後で裏取りした時に情報が嚙み合って無くてバレるなんて、バカバカしいにもほどがある。



気に入らないが、今は俺の感情なんてどうでも良い。


「カイ」


「はい」


「何を聞かれても、自分から余計なことは言うな。嘘を吐く必要も無いが、話は合わせろ。何より聞かれたことだけに答えればそれで良い」


「分かりました」


声は震えているが、返事はしっかりしている。割と冷静だな。相変わらず、頭が回ると言うか大人びているというか。

ビビらず怯えず、カイが年相応の子供らしい感情や行動を表に出せるようになればいいんだけどな。


それをするには、今このシーンを乗り越えねぇと。


良いことかどうかはさておき、旅を始めてから、少しずつ自分で判断出来るようになっている。今回も自分の意見をしっかりと俺達に伝えてくれた。それは間違いなく良いことでカイの成長でもある。


俺はカイの手を握った。子供らしい高めの体温の指先が、すぐに握り返して来る。


「大丈夫だ。何があっても離すな。俺達は仲間だ」


「はい」


足音が、部屋の前で止まる。扉が三度、軽く叩かれた。スルーしてくれたら一番良かったんだがな。残念ながらそうはいかないらしい。

仕方なく、ミリアさんがこれに応えるために扉の前まで向かった。


「ブルーリオン騎士団です。少々お話を伺いたく」


低めだが、よく通る女性の声だ。女性騎士とは珍しい、というのが真っ先に浮かぶ感想だ。探索者もだが、騎士なんて基本は肉体労働。しかも場合によっては血みどろの戦いをする必要も出てくる職業だ。どうやったって女性の母数は少なくなるのは仕方ないことだろ。


そんな女性騎士の声を聞き、ミリアさんが俺達へ目配せをしてから返事をする。


「どのようなご用件でしょう。現在、内部資料の閲覧と担当探索者への説明中でして」


「行方不明者の捜索です。少しでも情報を集めたいためお話を伺いたく」


「正式な捜査令状をお持ちですか?」


「勿論。必要であればご掲示いたしましょう」


ミリアさんがそれっぽい内容で遠回しに大した用事じゃないなら後にしてくれ、と伝えると、相手は正式な調査を行っているので協力をお願いしたいと伝えて来る。しかも、ちゃんと正規の手順を踏んで、その証拠も示すと言う。


流石はブルーリオン騎士団。この手のルールは徹底しているな。これだと、下手に拒否った方が心象が悪い。

こうなったら捜査には協力した、という体裁を取った方が安全だ。


「ワインヒル支部長の許可も得ています。長く時間は取りませんので」


「わかりました。内部資料もありますので、少々お待ちいただいても?」


「えぇ、勿論」


ミリアさんの態度は普段と変わらない。淡々としていて、騎士を相手にしても一歩も引かない。向こうも無理矢理扉を開けることはしなかった。


事務的で淡白にも見えるが、業務上の手順としてはお互い完璧なんだろうな。粗野な探索者には無い、品ってヤツかな?


「どうぞ」


「業務中に失礼します。私、ブルーリオン騎士団。黎明隊隊長のエルナ・リュミエールと申します」


ミリアさんがドアを開けると、まず彼女は一礼と共に自分の身分を明かしていた。


……って、おいおい騎士団の部隊長クラスだと? 確か、階級で言えば上から数えて3か4番目くらいになる。つまり相当なお偉いさんで、実力者だ。

そんな奴が行方不明者の捜索? ブルーリオン騎士団はそんな暇じゃないだろ。どうなってんだ。


出来るだけ顔に出さないように、状況を訝しむ。それはミリアさんもリリアも同じだろうよ。こんなん、下っ端がやる仕事のハズだ。

何だって、ベルゼルト卿もブルーリオン騎士団もカイにこんなに必死になる。いくら加護スキル持ちとは言え、ただの子供だぞ?


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