1.図書委員の俺が、今日ついに美女たちに追い詰められた。
新作です。ぜひ読んでください。
良い作品かどうか、自分でもよく分かりません……
たぶん、良くないかもしれません。
(日本・東京 野寮学園)
広大な図書館の中、図書委員の清空介は、ペンを走らせながら奇妙な人生哲学を綴っていた。
観察こそ善行なり。特に他者と社会の観察は有益だ。
自分がその中にいない以上、参加感など存在しない。
よって観察者にはネガティブな感情は生じず、
かえって人付き合いの知恵や、他人の失敗から学ぶ機会を得られる。
「没入」でもしない限り、観察行為が害を及ぼす方法など、 実は存在しないのだ。
残念ながら、ほとんどの人間はこの事実に気づかず、 この喜びを理解することもない。
観察者に必要なのは、雑念のない集中力と、
個人的感情を一切排除する能力——
だが人間は所詮、感情の生き物。
後者は絶対に不可能ゆえ、理論上は「高度な理性の思考力」さえあれば十分である……。
「あの………」
貸出カウンターの前で、女子生徒がもじもじと声をかけた。 どうやら話しかけるタイミングを探っているようだ。
「本を探していただけませんか?」
「構わない。」
清空介は顔を上げず、サインペンを置いた。「何の本だ?」
「『羅生門』と『山月記』です。」
「その二冊か……」
彼はゆっくり立ち上がり、彼女を書架の間に案内した。
「第三列あたりにあったはずだが……」
女子生徒は慎重に彼を見ていた。 本が見つからない心配ではなく——
目の前の少年が、野寮学園に伝わる「究極の孤狼」だからだ。
授業と図書館以外では、ほとんど姿を見せない。
ただの透明人間というだけでなく、 その思想が周囲と完全にズレているのだ。
「清空介?あいつ、ただのコミュ障妄想野郎よ~」 クラスメイトたちはそう噂していた。
だが、今目の前で本を探してくれている彼に、
「避けたい」という気持ちはまったく湧かなかった。
「はい、これだ。」
清空介が二冊を差し出した。
「あっ、ありがとうございます!」
彼女は慌ててお辞儀をした。
「どういたしまして。」
彼はカウンターに戻ると、またノートに向かった。
「虎になったら、一山に二虎はおらぬものな……」
「ひょっとして……『山月記』の李徴が虎になる話ですか?」
彼女の耳にその独り言が届いた。「あの、どうしてそんなことを?」
「別に。さっきの本の例えで、今の心境を表現しただけだ。」
(……まさか、文系病男子!?)
「どうした、君?」
「い、いえ!なんでもありません!」
女子生徒は手を振り、小走りで図書館を出ていった。
「所詮、モブキャラクターか……」
清空介は再び思索に没頭した。
「やはり観察者こそ、笑い者にならない唯一の存在だ。」
「あなたが、清空介?」
彼は図書館の入口を見上げた。
そこには、新任の野寮学園生徒会長——
雪代紗凪が立っていた。
風に揺れる漆黒の長い髪。
そして、どこか軽蔑を含んだその視線に、
全身がざわついた。
「何か……ご用ですか?」
彼は黒髪ロングの美少女に、うつむき加減で尋ねた。
「私は雪代紗凪。現在、生徒会長を務めている。 生徒会のため、ひとつ協力してほしいことがある。」
彼女は悠然と歩み寄り、白い指先をカウンターに添えた。
清空介は即座に視線をノートに戻した。
どうせすぐ帰るだろう。その後は自由だ。
「下を向いて……私を見られないのか?」
美人は首を傾げ、有名無実の人物を観察した。
「それとも、話す気すらない?」
「ちょっと待ってください。」
スマホのアラームが鳴った。
彼は引き出しから薬の瓶を取り出し、 マグカップの横で白い錠剤を一枚飲み込んだ。
「で、何の用ですか?」
「生徒会の威信を高めるため、
あなたに『生徒会によって更生された人物』を演じてもらう。
それを全校に公表する。」
雪代紗凪は片腕をカウンターに突き、 獲物を睨むように言った。
「成功すれば、生徒会から得られる特権は少なくない。」
「断る。」
清空介は顔を背け、腕を組んだ。
「道化役など、務めない。」
「では、三日間考える時間をやろう。」
彼女は手を放し、堂々と彼の前に立った。
「三日後、再び説得しに来る。」
颯爽と去っていく美人を見送り、 清空介はようやく椅子にもたれた。
「今日は一体、何の因縁だ……」
高校二年生の彼は、野寮学園の裏事情を熟知していた。
もちろん、あの書棚の陰に隠れている“ある人物”も。
「出てこいよ、探偵さん。」
「バレてたんですか!?」
(数秒後)
「ちゅ~」
チェック柄のハンティングキャップを被った青髪の少女が、 そろそろと書棚から這い出してきた。
「君は……?」
「千島青瑚です!
探偵部部長、よろしくお願いします!」
彼女は震える声で答えた。明らかに緊張している。
「あの!私、あなたを調査してもいいですか?」
「調査?つまらない。」
「ひゃっ!」
千島青瑚は思わずびくっとした。
本人は何も態度を示していないのに。
「食堂に行く。失礼する。」
清空介は首を振った。
今日は運が悪いらしい。
カップを置き、カウンターを跨いで、
彼は図書館の扉へと歩き出した。
「ちょっと待ってください!」
「ん?」
振り返ると、足先を地面に擦り、
手を背中に回した千島青瑚がいた。
……まあ、いいか。
「何だ?」
「探偵部部長として、
野寮学園で最も謎の『孤狼』——
つまり、あなたを知りたいんです!」
「それは中二病的な呼び名で、意味などない。」
彼は再び背を向けた。
「俺を知ることは極めて危険だ。
関わらない方が身のためだ。」
「そんなこと、許されません!」
彼女の声は確固たるものになった。
「警察が事件を放置したら、 犯人がのうのうと暮らしてしまうじゃないですか!」
「つまり、俺が犯人だと?」
「ち、違います!あなたは犯人じゃないです!
ただ……何があなたをここまで孤独にさせたのか、 知りたいんです!」
「俺と世界。」
「えっ?」
気まずい沈黙。
清空介は思った——
さっさと飯食って、この子を振り切ろう。
「食堂に行く。
話したいなら、今日の午後五時、ここへ来い。」
「わかりました!あ、ありがとうございます!」
千島青瑚は嬉しそうに頷いた。
「えへへ、『孤狼』のすべてを聞き出します!」
「あれ?」
再び彼を見ると、もう姿はない。
清空介は既に図書館を駆け抜け、食堂へ向かっていた。
(晴れ渡る庭園にて)
「あの天然ボケ、五時にはもういないわ!」
清空介は得意げに食堂へ走った。
「俺の正体なんて、絶対に暴けない!」
さすが、野寮学園“八大ミステリー”筆頭の男!
この庭園にはほとんど人が来ない。
庭師たちも、背が低く地味な彼を無視していた。 誰が気にするだろう?
食後に文房具でも買おうかな~ 俺の人生哲学、完璧すぎるよな。 彼は小道を曲がり、食堂の裏口を目指した。
「清空介先輩!お待ちください!」
「はぁ!?」
振り返ると、千島青瑚が後ろをついてきていた。
「なぜ追ってくる?」
「一緒にランチしましょう!
それに、今すぐ先輩の秘密を知りたいんです!」
「言わない!」
清空介は足を速めた。 よたよたとついてくる彼女を簡単に振り切った。
「うわっ!」
千島青瑚は転んで四つん這いになった。
「背中、痛い……!」
「大丈夫か?」
彼は思わず手を差し伸べた。 他人の怪我は見過ごせない性分だ。
「へいっ!」
(千島青瑚は突然、彼の片腕を抱きしめた!
二人はそのまま地面に倒れた)
「はぁ?」
「離してください!」
「やだー!」
二人はもつれ合った。
清空介は彼女の鉄の様な握力を振りほどこうとしたが、 逆に再び引き倒されてしまった。
「何事だ?」
周りの生徒たちがざわめいた。
「まさか痴漢?」
………………
(12時30分、職員室)
「……わかっています。」
千島青瑚はうつむき、涙目だった。
「清空介先輩を尾行したのは、私の間違いです……」
「反省してるならいいわ。」
担任の先生はため息をつき、 暇そうにしている清空介に目を向けた。
「清空介くん、あなたにも落ち度はあるわよ。」
「え?俺が?」
彼は左手で自分を指差した。
「尾行された被害者が、 『存在自体に魅力がある可能性』を疑われるなんて、 そもそも俺には魅力などないんですが?」
「そんな言い方、よくないわよ!」
先生は腰に手を当て、不満げに言った。
「それに、あなた、 『千島さんを騙すつもりだった』って言いましたよね?」
「うっ……口が滑っただけです。 窮地を脱するための方便ですよ。」
「それが窮地なの?」
先生は千島青瑚を指差した。
「探偵部部長には校内調査権がある。 『断る』の一言で済んだでしょう?」
「千島さんに害を加える気などありません。」
清空介は視線を、哀れっぽい彼女に向けた。
「嘘をついたんですか……?」
千島青瑚は震えながら言った。
「部長という立場の人間さえ、信用できないんですか?」
「まず、立場のある人間こそ、最も危険だ——」 清空介は彼女を侮蔑した。
「それに、君は普通じゃ——」
「ばしっ!」
先生の拳が天辺に炸裂した。
「いてっ!」
「後半はナシよ、清空介くん!」
先生の厳しい視線に、 彼は黙ってうなだれた。
「……はい。」
(午後5時)
「どうしてここにいるんですか?」
先ほどの弱気はどこへやら。
千島青瑚は木製の椅子に座り、 ペンとノートを構えていた。
(……まあ、話してもいいか)
「俺の人生、退屈そのものだ……」
彼は壁にもたれ、世界に失望したふりをした。
「幼稚園→小学校→中学→高校……以上。」
「以上!?!?!?」
千島青瑚は紙を丸めて立ち上がった。
「知りたいのは、 先輩が『孤狼』になった理由です!」
「孤狼?それはただのあだ名だろ。」
「違う違う!
友達が一人もいない理由を知りたいんです!」
「友達?いらない。」
清空介の断言に、彼女は目を見開いた。
「いらない!?!?!?」
(彼女は口を開けたまま、硬直)
「何が珍しい?」
「えっ?本当に友達いないの!?」
「ああ。」
(5分後)
「マジで?」
「マジだ。」
「そ、それじゃ先輩、可哀想すぎます!」
「そんな目で見るな!」
(ノック音)
「藤原くん、どうぞ。」
「えっ?」
千島青瑚は入り口を見た。
交代に来た男子生徒は、 高身長・筋肉質・端正な顔立ち——
まさに野寮学園トップ層の模範生。
「清空介、代わるぞ。君は……?」
「あっ!千島青瑚です!一年生、探偵部部長!」
「藤原奏斗。 生徒会書記。三年生だ。」
「す、すごい……!」
「いえいえ、 清空介くんの方が遥かに凄い人物だよ。」
「藤原、黒歴史を言うなよ。」
清空介は睨んだ。
藤原は苦笑いして黙った。
「先輩……」
千島青瑚は急に振り向いた。
「友達いないって言ってましたよね?」
「……彼を除いて。咳咳——」
清空介は即座に訂正した。
(十数分後)
「今日の調査はここまで!」
千島青瑚のノートはすでに十数ページに。
「どこからそんなに書くんだ……」
「創作じゃないですよ!」
「じゃあ、行くぞ、藤原。」
「うん。」
校門に向かう途中、 清空介は千島青瑚がまだ後ろをついてくることに気づいた。
振り返ると、彼女は周囲をキョロキョロしながら、 “偶然”を装っていた。
「千島青瑚さん。」
「はっ!はいっ!」
彼女はビシッと姿勢を正した。
「こ、こんにちは、先輩!」
「……」
清空介は頭を抱え、
ある計画を思いついた。
「一つ頼みがある。」
「はいっ!何なりと!」
「目を閉じて、五秒数えてくれ。」
「了解です!」
(1、2、3……)
(よし……逃げろ!)
「先輩っ!?」
千島青瑚が、猛ダッシュで校門を抜ける彼の背中を追った。
「実は他にも聞きたいことが——」
「やっと振り切った……」
彼は笑みを浮かべたが、
次の瞬間、校門前のダークグレーのレクサスLSに激突した。
「な、なんでこんなところに車が……?」
「ん?」
助手席のドアが静かに開いた。
降りてきた令嬢は、光沢ある白銀の髪を風になびかせていた。
「雪代静流様だ!見てください!」
生徒たちが押し寄せ、清空介は隅に追いやられた。
「静流様にお会いできるとは、生涯の幸いです!」
「サインをお願いします!」
狂乱する群衆を見て、 清空介はため息をついた。
——金持ちの令嬢か。今後は迂回しよう。
「成り上がり者の群れめ……」
「なんだって!?」
近くにいたオタクが耳を尖らせた。
「俺たちは静流様の忠実なファンだ!
お前みたいな凡人が何を偉そうに!」
「は?」
清空介は目を擦り、鋭く睨みつけた。
「お前らはただの媚び犬だ。
汚らわしくて触れたくもない。」
「暴言だ!静流様を侮辱した!」
「まずい、逃げないと——」
振り返ると、運転手が立ちはだかっていた。
「お嬢様が、あなたを呼んでおられます。」
「車の修理代、払えませんよ!」
「野寮学園の『孤狼』とは、
このような浅ましい人物だったとは。」
雪代静流の視線は、朝の紗凪と同じく、
鋭く、冷たく、容赦なかった。
「先輩……」
千島青瑚が心配そうに見守っていた。
「君は……雪代紗凪の姉か?」
「理由はわかっているでしょう。」
清空介は悟った。
致命的な厄介事を引き寄せてしまった。
「あの件は、承諾しない。」
「ならば……」
運転手が電卓で修理費を計算し始めた。
「ちっ——」
「損得は、理解しているでしょうね?」
静流は左手の人差し指を軽く曲げた。
「わかっているなら、車に乗りなさい。」
「無理です……」
彼は毅然と顔を上げたが、
家のこと思い出し、プライドを捨てた。
「……今日だけだ。」
「決定権は、私にある。」
紅顔の禍水、誠に恐ろしや——
清空介は自嘲した。
質問:なんで清空介は「孤狼」なのに、図書委員なんてやってるの?
回答:だって、本の管理なんて誰もやりたがらないし! ……先輩以外は!
正解:ハズレです~。
実はこれ、作者の神の手が勝手に動いちゃっただけなんですよ。
「ええええええええっ!?」




