いも娘、舞踏会で新笠松音頭を踊る
「見て、あの山盛りのローストビーフ。さすがは辺境の『芋男爵』の娘だわ」
きらびやかな王都の夜会、扇の向こうで交わされる嘲笑を、私はモグモグと咀嚼しながら聞き流していた。前世の記憶を持つ私にとって、洗練された貴族の駆け引きよりも、目の前の霜降り肉の方がよほど価値がある。
この国では、貴族たるもの優雅なステップを踏むのが義務。しかし、田舎育ちの私にパートナーを申し込む物好きなど一人もいない。
華やかなワルツがホールに響き、着飾った蝶たちが回る中、私は最後の一口を飲み干して壁際へ向かった。
(さて、食後の運動といきますか)
私は脳内のプレイリストを切り替える。流れてきたのは、前世の故郷で耳にタコができるほど聞いた『新笠松音頭』だ。
無意識に膝でリズムを刻む。私の体は、洗練された宮廷舞踏よりも、櫓を囲んで踊る土の記憶に忠実だった。右手をかざし、左手を添え、軽快な足さばきでチョチョンがチョン。
「な、何だあの奇妙な動きは……!?」
ざわめきが広がる。だが、止まらない。指先までピンと伸ばし、架空の団扇を仰ぐ仕草は、どんなワルツよりもキレがあった。複雑なステップに慣れた貴族たちにとって、土着の力強さと中毒性のあるリフレインは、未知の衝撃だったらしい。
「あの独特のタメ、そして一体感……美しい」
「もしや、失われた古流の舞踏では?」
一人、また一人とダンスの手を止め、私の「盆踊り」を凝視し始める。挙句の果てには、第一王子までもが「そのステップ、私にも教えぬか」と歩み寄ってくる始末。
翌朝、王都の流行は一変した。
「芋娘」という蔑称は消え、私は『独創的な舞を操る、東方の賢者』として社交界の頂点に立っていた。
いも娘だけに、領内の畑を走り回ってます




