ある街娘の事情
わたしは所謂、転生者というものだ。
交通事故で死んで、この世界にユファという娘として産まれた。
輪廻転生の理などというものを信じていなかったわたしには、このことを理解するのにいたるまで大分時間がかかった。
そしてこの世界はわたしがもともと生きていた世界ではなく、どうやらちがう世界らしかった。
魔法に精霊にドラゴン・中世ヨーロッパをモチーフとしたような、まさにファンタジーという言葉を具現化したようなせかいだった。
転生したというのに、容姿は前世のまま。
前世の記憶を持って生まれたが、そんなものは邪魔にしかならない。
昔読んでいた小説では、前世の記憶を生かして色々をし役立てるというこちがあったが、所詮わたしは一般人。
前世で学んだ料理をしようにも、材料がない。作ることも出来ない。
科学について教えようにも、まず基礎が出来ていないこの世界でするには無理がある。
他にも色々、都合のいいように世界は出来ていない。
「ユファ、お客さんよー?」
「はーい。」
無事成人を迎えて、わたしはこの世界の首都で宿屋の仕事をしている。
そしてそこで出会った、何故かいまだに前世での記憶が薄れないわたしと、何故かその記憶の中にいる親友と全く同じ顔の客。
「ユファさん!」
その華のように可愛らしい顔に笑顔を浮かべて、こちらに駆け寄ってくるその客。
抱きついてきた彼女を抱きとめた。
「こんにちは、ユキさん。」
名前まで一緒の彼女は、この世界での勇者。
勇者として召喚された彼女。
本当はわたしは事故なんかではなく、彼女に殺されてこの世界に呼び寄せられたなんて事実を知るのは、まだ後のこと。