天才なんで。
「ようこそいらっしゃいました、賢者様。」
人のいい笑顔を浮かべる青年。
カーマインの髪に翡翠の瞳。所謂美形。
その前には、凡庸な顔立ちの日本人が一人。
「・・・」
さて、どうしたものか。考え込む少女の脳はフル回転中。
この国では、王が即位した暁に更なる国の繁栄を願って異界から知識を持つものを召喚するらしい。
というのは、聞いた話である。
実際、このとき召喚された少女・薺も所謂天才といわれるべきものだった。
けれど天才ゆえに、皮を被るのもうまく、見かけこそ平凡そのものだった。
無表情の中に困惑を浮かべ、おずおずと口を開く。それすらの演技であるのだが・・・
「あの・・・知識を差し上げたいの山々なのですが、それにはまずこの国を知らなければなりません。
でなければ、どのような知恵を差し上げればいいか・・・」
その言葉に召喚した張本人である魔術師は、了承した。
ちなみにそのとき思わずニヤリと笑ってしまった薺は、俯き礼を述べることで難を逃れた。
「えっと、わたしは薺といいます。これからよろしくお願いします。」
「僕はサクナです。召喚した責任として、教育係は僕が勤めさせていただきます。」
よろしくおねがいしますねと、穏やかな微笑をたたえる彼にこの世界の常識から魔術にいたるまで全てを学びなんとなくは理解しましたという曖昧な姿勢を貫いた彼女。
実際は教えられたこと全てを理解し暗記していた薺は、自己流の魔術まで編み出した。
「といわけで、勝手な理由で呼び出されたのでわたしも勝手な理由で帰るとします。」
と言ってもとの世界に薺が自分で帰るまで、約1ヶ月。
サクナが薺に惚れて呼び戻すまで約二ヶ月。
化け物並みの天才がトリップ!というお話でした。