哀しいセカイ
異世界トリップ、ほぼ最強、ほのかに復讐。そんなお話。
お母さんが異世界に召喚されたらしい。
これはわたしが調べに調べて、考えに考えていたった答え。
一年たっても帰ってこないお母さん。
長女のわたしは家事やらバイトやらで体調は崩しっぱなし。
父さんも仕事が忙しいし精神的なダメージが大きかったせいか・・・わたしの知らない要因もあったんだろうね。
家に火を放って弟と妹を連れて死んだ。
お母さんを連れ戻そうとあらゆる方面から調べて、情報を集めて、やっと・・・やっとお母さんのいる世界を見つけていける方法までみつけた直後だった・・・
わたしの小さなセカイは、粉々に砕けて消えてった。
ねぇ、召喚した人は さ・・・どう責任を取ってくれるのだろうね?
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この国の王妃は、異世界から召喚されたという噂があった。
根も葉もない噂だと思っていた矢先、隣国との面会時に突如目の前に現れた少女・・・王妃を見つけ、その顔にはあからさまに狂喜の色を浮かべた。
「お母さん!」
「あなたは、どなたですか?」
そう問われたときに彼女の瞳に宿ったのは、深い深い絶望・・・いや、失望だったのかもしれない。
だけどそれも一瞬で、次の瞬間には酷薄な笑みを浮かべてこう問うた。
「ねぇ、今あなたは・・・幸せ?」
その問いに疑問なくはいと答える王妃。いつのまにか王妃への呼び方は『お母さん』から『あなた』にかわっていた。
笑みをほんの少し柔らかくしてゆるり頷くと、王妃の手の甲にある紋章を見た。
瞬間に、瞳に宿る憎悪。
「記憶も、時間も奪ってしまうこの呪いは、誰にかけられたものなの?」
「? これは、私を守ってくれるおまじないと・・・」
あまり飲み込めていない王妃はとりあえず説明をしているという感じだ。
そうこうしていたら彼女は王妃の顔の前に手をかざし、王妃は意識を失った。
俺は慌てて王妃の無事を確認しようとしたが視線で止められる。交わる視線がそらせなかった。
『大丈夫』彼女の唇は確かにそう動いた。
「母親を奪われた家族が、復讐しにこないとでも思っていたの?」
静かにそう言った彼女の瞳には、もうなんの感情もうつっていなかった。
ドオオォンッと、すさまじい音と衝撃。彼女の視線の先には緑髪の魔術師。いつ間にか吹っ飛ばされ怪我を負っているのも彼。
名は確かレクイエム。
「レクイエム!!」
「鎮魂歌?へぇ、随分な名前だね。」
誰も動かないのは、動けないからだ・・・
彼女が放っている異様な空気、怒気のせいで漏れている濃い魔力。
皆が金縛りに会っているかのようにその場から動けない。
「くだらない・・・くだらないくだらないくだらないんだよ!
あんたのそのくだらない恋情なんかのせいで!わたし達はバラバラになったんだ!! どうしてくれるの!?ねえ!!」
悲鳴に近い叫びに胸が締め付けられるようだった。
「わたしにとって唯一の小さなセカイ・・・ねぇ?
どうして、くれるの?」
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