彼女が魔王とよばれるまで。
シリアスな上ファンタジーが続く。そんなお話。
私の国は平和な国だった。
随分前に戦争をやめた国。
戦争なんて、テレビの向こうの世界のお話。
「結局、こういう事なんだろ。」
幾つもの国が戦争をし始めた。
春に花々が咲き乱れるように、あちこちで戦争の火種は燃え上がった。
人は求める生き物だ。
貪欲に、惨めに。憎しみ合って、大切なモノを護るため、増やすため。
私には力があった。
何度生まれ変わろうと消えない罪があった。
「戦争を考える人は皆、木になるだろう。」
そう、世界中の人間に宣言した。
まず、戦争を指揮していた国のトップ。武器を持った兵士のほとんど。
戦場は悲鳴と苦悶と緑で溢れかえった。
世界中の人間はどこからともなく聞こえる声に恐怖した。
それと同時に、見えない断罪者に感謝したものもいた。
同時に、憎むものも。
そして私は、海のど真ん中に島を創りだした。
見えやすい目標があれば、そこに増悪は集中する。
わかりやすい圧倒的な敵がたった一つある。それだけで、戦争はなくなる。
悪意は私にしか集まらない。
「素晴らしいでしょう?」
私が作った、理想の世界だ。
私は、彼は、ただ安寧が欲しかっただけなのだ。
前世の前世の、そのまた前世。賢者だった彼は、強すぎる力を持つゆえに排他された者たちを集めて、楽園を作った。
水は澄み、緑は青々と輝く、穏やかな風がそよぐ、理想の楽園。
けれど所詮はただの“人”
そんなものがいつまでも続くはずがなく、静かに賢者の体は大きすぎる力に蝕まれていく。
そして楽園も、徐々に崩れていった。
世界と世界の隙間に作られた楽園。残ったのはただの黒い黒い空間。
賢者の名前を呼ぶだけで開かれ、いつか忌み人を突き落とすようになった。
そこは賢者の名前をとって、クロアの監獄と呼ばれるようになった。
そんなものを創りだしたが故の、罪。
「何度も繰り返すもんだろ、結局さ。」
魔法が使える。
現実世界で、強大な力が扱える。未知のものはより一層恐怖を煽る。
いつか私は、魔王と呼ばれるようになった。
そんな私が異世界に呼ばれて勇者になるなんて、なんて滑稽な話だろう。