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70話

 そんなこんなでローエンでの残りの日々は慌ただしく過ぎていった。


 アーノルドさんの剣術指南も結婚報告前に比べて一際熱が入っていたようにも思うし、鍛冶も掘り仕事も手を抜かずに続けることができた。旅先で頼れるのはやっぱり先立つものなので、時間の許す限りCランク以下の鉱石を掘って、鉱石で装備を作って売ってを繰り返してお金を稼いだ。


 移動手段をどうするかで迷ったが、長旅の乗合馬車だと人がいて気疲れしそうだったので、一頭立ての幌のない簡素なタイプの荷馬車を大金貨1枚小金貨6枚で購入した。幌のあるような大きな馬車は予算がその3倍はするので手が出なかった。いつかは買いたい。


 馬車の操縦や手入れの仕方は、オリビアさんが商人の試験で習得していたので教えてもらうことにした。


 あと俺たちはまず魔導都市オルフェンを目指すことになるので、ルベン議長にお願いしてオリビアさんにも魔導ギルドへの紹介状を書いてもらった。


 これはきっちり手数料として小金貨2枚取られた。




 ……そしてローエンを出立する前日の結婚式を挙げる日がやって来た。



 アルカナ教の結婚式は概ねキリスト教の結婚式と似ていて礼拝所で司祭様の元で行われるのだが、ちょっと独特なところがあった。


 何と言うか、「アルカナ」というだけあって司祭様もどこか占い師のような雰囲気の衣装を纏い、タロットカードで占うような感じの儀式のようだ。


 俺はアルカナ的な新郎の姿で司祭様の元でオリビアさんを待っていた。


 礼拝所にはルベン議長、リリアさん、カーミラさん、イワンさん、ミランダさんなど知った顔がズラリ。酒豪の兵士団の人や鍛冶師連中などは、この後のレイモンドさんのカフェを貸切った宴会が待ち遠しそうな顔をしているのが丸わかりという感じだ。


 すると不意にアルカナ教の音楽隊が神秘的な音楽を奏で始め、礼拝所にアーノルドさんに手を引かれオリビアさんが入ってきた。


 アーノルドさんは緊張した面持ちで、涙をこらえているように見えた。


 ゆっくりゆっくり歩みを進める二人。


 花嫁を俺に引き渡す段になり、オリビアさんがアーノルドさんの耳元で何かを囁いた瞬間、アーノルドさんの両目と鼻の穴からドバッと涙とも鼻水ともつかないものが噴き出し崩れ落ちた。


 オリビアさんの手が俺に引き継がれ、そのまま式は続行。


 司祭様が「アルカナのカードをここに」というと礼は徐の入口ドアが再び開き、ペットのマメが封筒を二つ首から風呂敷でぶら下げて入ってきた。いわゆる「リングドッグ」ならぬ「カードドッグ」の演出だ。マメはいい子なので、ちゃんと俺たちの元に一直線に歩いてくれた。


 俺とオリビアさんは打ち合わせ通りにマメから2つの封筒を受け取りよしよしと頭を撫でてやった後、アルカナ教のシスターさんに邪魔にならないよう抱っこされた。


 俺とオリビアさんは封筒から「恋人」のタロットカードを二枚出すと司祭様の手元にあるシルクの布の上にそれぞれ1枚ずつ置いた。


 司祭様は水晶玉に手をかざしながら、


「それでは愛する二人の結婚の儀を執り行います。新郎は新婦側の恋人のカードを取り、絵柄を正位置で新婦に向けて下さい。逆に新婦は新郎側の恋人のカードを盗り、絵柄を逆位置で新郎に向けてください」


 と言い、俺たちは司祭様の言いつけ通りにする。


「ではそれを重ね合わせ、私の言葉に続けて宣誓の言葉を述べてください」


 俺とオリビアさんは恋人のカードを正位置と逆位置で重ね合わせる。


「宣誓」

「「宣誓」」


「運命は流転する。恋は新しい生命をはぐくみ、滅びと再生を繰り返す」

「「運命は流転する。恋は新しい生命をはぐくみ、滅びと再生を繰り返す」」


「運命はここに一つと成す」

「「運命はここに一つと成す」」


「カードを180度回転させて正位置と逆位置を交換し、手を放してください」


 ぐりんと回して手を放す。するとカードが宙に浮かんだまま司祭様の手元まで引き寄せられ、シルクの上にあった聖銀と呼ばれる祝福を受けた銀の指輪に吸収された。


「さあ、これでエンゲージリングが完成しました。これをお互いの薬指にはめてください」


 再び俺たちは言いつけに従い、エンゲージリングをお互いの指にはめた。



「では、誓いのキスを」


「「……」」



 いつもの俺ならついにこの瞬間が来てしまったと尻込みするところだが、なぜか気恥ずかしさはなかった。むしろ男としてようやく一人前になれたかのような、どこか誇らしい気持ちで一杯だった。



 俺はそのままオリビアさんの神秘的なヴェールをめくり、誓いのキスをした。

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