69話
旅に必要な準備は【ファランクス・システム】だけではなかった。
オリビアさんの防具も俺の手で作ることにした。俺が二つの防壁を築き改良に改良を重ねていくことが、オリビアさんを守るになる。そう思うと燃えてくるものがある。
装備はオリビアさんのS(筋力)を確認すると5しかないとのことだったので、重たいものは装備できない。
例えばミスリル防具のフルセットだとS(筋力)が35くらいないとまともに動けない。
なので一部だけにミスリルを使う形で魔獣の皮をメインに防具を作ることにした。売店で油を売っていたユグノーじいさんに「魔獣の皮で何か良さそうなのないですか?」、と尋ねてみると「立派なグレートディアーの皮が入ったぞい」とのことだったのでありがたく大銀貨8枚で買うことにした。
グレートディアーはその名の通りDランクの鹿の魔物だ。立派な魔力を貯めるための角が特徴で、攻撃魔法も使うはずだ。
ちなみに魔獣の皮素材もF~Cランクで丈夫さが変わり、取り扱うには鍛冶スキルのレベルと熟練度が必要。先日Cランクのスカイドラゴンの素材でレシピにない新しい武具を作ったけど、今回もDランク素材とミスリルを掛け合わせて新たな武具を作ることになるだろう。
今回はオリビアさんの武具を作るので、彼女の体を測りながらの作業になる。旅で長く着るものなので、きちんと体にフィットするように調整して作らないと体がこすれて靴擦れみたいな状態になりかねない。
なので今回は、特別ゲストのオリビアさんと一緒の作業ということになる。
というわけで作業開始。
トンテンカンと少量のミスリルとグレートディアーの皮をつなぎ合わせて防具を製作していく。グレートディアー装備自体はDランク鍛冶レシピにあるので、それをミスリルで改良したものという感じで作れば失敗にはならないはずだ。
だが 【グレートディアーのブレストアーマー】を作るときちょっとしたハプニングがあった。当然オリビアさんの胸のサイズに合わせて作らなければならず、サイズを測りつつ微調整を繰り返すわけで。
「……ああん!」
「ちょ、オリビアさん変な声出さないでください!」
「だってハイド君が変なところ触るんだもん」
「触ってません!」
という一幕があった。
周りの鍛冶師連中は耳をダンボにし、オリビアさんが「えっ」な声を上げるたびに体をビクッ! ビクッ! と震えさせていた。俺にそんな見せつけ趣味みたいなのはないのだが……。
しかし俺が当初理想としていたハイディングライフとは、オリビアさんと結婚したことでかなり離れてしまったかもしれない。またハイディングしたいという衝動に駆られて極端な方向に行かなければいいけど……。もう一人だけの人生じゃないのだから。
それはさておき。
俺はできた品々を鑑定してみた。ラインナップは以下の通り。
【グレートディアーのブレストアーマー(ミスリル補強・上級品)】
【グレートディアーのグローブ(ミスリル補強・上級品)】
【グレートディアーのブーツ(ミスリル補強・上級品)】
【グレートディアーの帽子(ミスリル補強・上級品)】
【グレートディアーのマント(ミスリル補強・上級品)】
最上級品じゃないのでカードを挿すことはできないけど、レシピにない装備を初めて作ったにしてはまずまずの結果なんじゃないかな。
売店のユグノーじいさんに出来た物を見てもらうと、「グレートディアーの皮だけで作った防具よりもミスリルで補強した分だけ防御力が上がっているぞい!」と嬉しそうに立派な髭を揺らしながら教えてくれた。
グレートディアーの皮は防御力だけじゃなく、ファッションとしての色合いもオシャレで、オリビアさんは装備を気に入ってくれたようだった。
今後は自分のものだけじゃなく、オリビアさんの装備の改良も頑張ろう。