66話
感慨も一入、俺は思い出した。結婚は二人の問題なので両者の合意さえあればいいが、その後が大変なのだということに。
知り合いへのお披露目、面倒くさい役所の手続きなんやかや。それは多分元の世界だけに限ったことではなく、こちらの世界でだって多かれ少なかれあるだろう。例えばルベン議長に何も言わなかった場合どうなるのか、とか。失礼な奴だとかそういうことになり、絶対後々面倒くさいことになるはずだ。
特に娘ラブなアーノルドさんへの報告という最難関をまだクリアしてない。前に「娘に手を出す有象無象はこの剣のサビにしてやる……」みたいなことを真顔で言ってたので、本当に切りかかってこないか心配だ……。もうチューしちゃったし、前みたいに「親友です」という言い訳は使えないぞ。
「そういえば、こちらでの結婚って二人の合意以外に何が必要なんでしょうか……?」
「ええと……、アルカナ教会の司祭様にお願いして結婚の儀式をするくらいだと思いますけど」
「なるほど、オリビアさんが心の底から陽キャということがわかりました」
「陽キャってなんですか?」
「いえ、ただの妄言です。忘れてください」
オリビアさんが「結婚しました!」と知り合いに触れ回ることを全く苦に思わないほどのコミュ力があること、すなわち陽キャだということがこれでよくわかった。
元の世界の結婚式みたいな、ある意味男にとっては晒し者でしかない苦行。陰キャの俺に耐えられるとは思えない。
同様に、軽音時代一緒にバンドを組んでいた国税勤めのレディヘ好きな陰キャギタリストのミナミ君は、結婚式ではガリガリにやせ細り、新郎のスピーチでは精神的に追い詰められてむせび泣いていた。
あのクールでクレバーでロックなミナミ君がそんな惨状になってしまう様を目の当たりにした俺が語る、結婚式という仮初の幸せに隠された真実!? である。
せっかくそんな地獄のセレモニーへの出席も辞さないほどの覚悟を決めて聞いたというのに、流石はその美貌で男女問わず衆目を浴び続けてきたオリビアさんは全く気にしている様子がない。
男として情けない限りではあるが、非常に頼もしいことこの上ない。
この先ずっと俺は、まるでキラキラと輝く太陽が出てる間は隠れていられる月のように彼女の影で完全気配遮断して生きていくんだろうな、などと予感めいたことを思った。
「……よくわかりました。今ぱっと頭に浮かんだだけでも、結構やらないといけないことが盛りだくさんです。とりあえず今日はアーノルドさんとマリーさんに一緒に結婚の報告に行くこと。時間があれば教会に行って司祭様に儀式のご都合を聞きましょうか」
「はい!」
それから俺とオリビアさんは仲良く手をつないでオリーブ畑を歩き、街中へと戻った。
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