37話
ところで以前掘った鉱石の中に属性原石があったと思うが、それを使えば武器防具に属性を付与することができる。
属性への理解と知識はMMO【アルカナ・エクリプス:ゼロ】を攻略するのに必須のものだった。
【アルカナ・エクリプス:ゼロ】には基本の火、水、土、風、光、闇の6属性と呼ばれているものがある。他にも不死属性なんてのもあるが、とりあえず置いておく。
各属性には有利不利があり、例えば火属性は地属性に強く水属性に弱いという感じのルールが設定されている。
100%を属性なしの攻撃力とすると以下のような感じになる。
火属性で攻撃→地160%、火30%、水60%、光70%
水属性で攻撃→火160%、水30%、風60%、光70%
土属性で攻撃→土30%、火60%、風160%、光70%
風属性で攻撃→水160%、土60%、風30%、光70%
光属性で攻撃→闇160%、光10%
闇属性で攻撃→光160%、闇10%
このように各属性はジャンケンのような関係にある。俺には鑑定スキルがあるので、戦闘中に相手の属性を調べることができる。各属性の武器を揃えれば有利に戦えるはずだ。
そして武器防具に属性を付与するには武器防具の素材ごとの各ランク熟練度レベル4以上が必要なので、今のところEランクの鉄のツルハシに火土水風の各属性を付与するまでしかできていない。
光と闇の属性原石はそもそもDランク鉱石なので、Dランクの熟練度レベル4まで上げないと付与できない。
この間ようやく作れたメテオライト製の防具(劣化品)に光属性あたりを付与したいところだけど、まだDランクの熟練度レベルが2ほど足りていない。
あともう一つ課題があるとすればCランクの鍛冶レシピを得ること。しかしこれが中々難しく、売店で普通に買えるレシピはDランクまでとなっている。
【アルカナ・エクリプス:ゼロ】ではDランクモンスターを討伐し、討伐証を鉱業ギルドに提出することでCランクのレシピを購入できるようになるはずなので、Dランクモンスターを倒す必要があるのだが、現状のステータスでマイニングで一撃みたいなのは無理だと思う。
後はパーティを組んで複数人で倒すしかないのだが、それは俺にとって一番難しいことだった。
……
さて今日はかねてよりオリビアさんと約束していた岩盤掘削デートに出かける予定になっている。
岩盤浴デートではなく、岩盤掘削デート。岩盤を楽しむという意味では岩盤浴と言えないこともないかもしれないが、ガッツリ掘ることになるのでここは岩盤掘削デートと言うのが妥当なところだろう。
そんな馬鹿なデートがあるかという非難の声が聞こえてきそうではあるが、俺たちは鉱山師と鉱業ギルドの受付嬢。この世の中にはそういう変わったデートもあるということでどうかご理解いただきたい。
俺とオリビアさんはローエンから西にある高台の岩盤地帯へと来ていた。気分は完全にピクニック状態だ。お弁当カゴとレジャーシートなんかもってきたくらいにして、まさにルンルン気分。
だが流石にそこは鉱業ギルドの職員。ルンルン気分なのは途中までだった。
「じゃあ、実演してみますね!」
「はい! こんなで場所でまさかとは思っていますが、一応ギルド職員として確認しないといけませんから……」
これはデートする口実にすぎない、と彼女は思っているようだ。
岩盤は地属性なので火属性のツルハシを使うと、通常の160%の効率で掘ることができる。が、石炭に引火して粉塵爆発みたいなことになりかねないので、掘るときは属性のついていないツルハシで掘るようにしている。
鬼畜レアカードの挿さった【マスターマイナーの銀の指輪[1]】と、先日ようやく自分で製作した【メテオライトのツルハシ(劣化品)】をインベントリから取り出し岩盤を掘り進める。
するといつものようにCランク以下の鉱石がボロボロと落ち、その中にはキラリと金色に光る鉱石があった。
……その黄金の輝きをオリビアさんは見逃さなかった。
「これはまさか……、金鉱石じゃないですかっ……! ここ、普通の岩盤ですよね……!?」
「あ、はい……。まあこの間から言っていたのはこういうことでして、どうかご内密にしていただきたいなと……」
「……うん、なるほど。ではハイドさん、もっと掘ってください!」
「オリビアさん、俺の話聞いてます……!?」
「……いいですか、ハイドさん。時は金なり、です!!!」
「ええっ!?」
確かに掘れば金鉱石が出てくるので、そのまんまの意味になるけど。
そこから俺は金の魔力に取り憑かれたオリビアさんの指令(?)に従い、必死に岩盤を掘って掘って掘りまくった。
結果持ちきれないほどの鉱石や宝石類を掘ることができた。
もちろん俺はくたくた。
「オリビアさん、ちょっと休んでもいいですか……?」
「ハイドさんごめんなさい。ついつい鉱業ギルド職員としての血が騒いでしまいました……」
疲れ切った俺を見て、申し訳なさそうな顔をするオリビアさん。
「これだけ掘れば十分でしょう。それより俺、腹が減りましたよ……」
「はい! じゃあ、ご飯にしましょう!」
オリビアさんは鼻歌を歌いながらレジャーシートを広げ、ごはんの準備を始めた。その間俺はインベントリからタオルと水や着替えを取り出して身綺麗にし、さっそく頂くことにする。
「オリビアさんのタマゴサンドはいつ食べても美味い」
「ふふ……、そんなに褒めても何もでませんよ!」
ひとしきりサンドイッチと紅茶を堪能する俺。
なんだか眠くなってきたぞ……。
俺が眠そうな顔をしているのに気が付いたオリビアさんが「こちらで寝てください……」と膝枕を差し出してきた。
「ええっ! それは流石にお友達のライン越えでは……!?」
「友達だって相手を甘やかすものです。ほら、私は全然構わないですから……」
「はい……」
かなり照れくさかったけど、睡魔と膝枕の誘惑に抗うことができず、俺はオリビアさんの提案に従うことにした。
……頭の下が何だかふわふわしていて気持ちがいいし、ほんのり甘い匂いがする。ここはきっと天国だ。
目を閉じれば木洩れ日に爽やかな風。このまま寝落ちしたら確実にいい夢が見れるだろう。
……どのくらいそうしていただろうか、ふと気が付けばオリビアさんの手が俺の頭を優しく撫でていた。
「……一生懸命頑張ってくれたご褒美です」
彼女は微笑みながらそう言ったのだった。
しばらくそうしていると、不意にオリビアさんの全身に緊張が走るのを感じた。
「……ハイドさん、あれ!」
慌てて飛び起きてオリビアさんが指差す方を見ると、体長3メートルを超えるだろう巨大なモンスターの影が見えた。