36話
「へえ~、あんたが噂のハイドっち? うわー、何その顔!? オリビア、やっぱあんた面食いじゃん!!」
ある日、ギルドの受付カウンターでオリビアさんとこの後の予定をコソコソ話し合っていたら、人気ナンバーワンギャル、じゃなかった。人気ナンバーワンギルド職員のリリアさんがひょっこり顔を出した。
「オリビアさん……、秘密にするという話は……」
「ごめんなさいハイドさん……、この子どうしてもしつこくて……」
「だって最近のあんた、付き合い悪いじゃん? 絶対これは何かあるなって思うじゃない。で、何? あんたらもう付き合ってるの?」
「リリア、あんたいい加減にしなさい!! 私たちはまだオトモダチよ! ね? ハイドさん!」
「……あ、はい。オリビアさんとは友達です!」
「へえ~、ふ~ん。オトモダチ、ね? 怪しいけどまあいいわ。……でこの後、どうせ暇なんでしょ? オリビア、たまには私にも付き合ってくれてもいいわよね?」
「仕方ないわね……」
渋々という感じでオリビアさんはリリアさんに付き合うことにしたようだった。今日のデートはなしか……。
「さて帰るか……」
「ちょっとちょっと、ハイドっち。何帰ろうとしてんの?」
鍛冶作業と武器防具類の清算を終え帰ろうとしていると、リリアさんに呼び止められた。俺に話かけている
「え……? さっきオリビアさんと二人で出かけるって言ってませんでした? 付き合い悪いって怒ってて……」
「何言ってるの! 私が用があるのはあんたら二人! 逃がさないんだからねっ!」
「えー!」
「リリア、何かあった?」
「いやー、ハイドっちがさあ……」
う……、マズイ。リリアさんに加えオリビアさんまで会話に混ざってきた。これじゃあまりにも衆目を集めすぎる。
「……じゃあ俺、外で待ってますね!」
即行で完全気配遮断を発動した俺は、すぐにその場を立ち去ったのだった。
しばらくギルドの外で気配を殺して二人を待っていると、筋肉ポーズをとりながら防具自慢をしてくる男、食事を誘ってくる男どもやらを慣れた感じで蹴散らしながら出てきた。
どうしよう。帰りたくなってきた……。
……
「ぷっはー! 仕事終わりはやっぱこれよね!」
イケメンコックが華麗にテーブルの上に3つの美味そうなフルーツパフェをドンドンドンと置きリリアさんがさっそく長スプーンを突っ込んで食べている。俺の視界がカラフルなパフェに美女二人という構図になっておりキラキラしすぎている。眩しすぎて目が潰れそうだ。
あの後どこで何を間違ったのか、俺は陽キャ美女二人とスイーツを食うことになってしまった。
バックレたとしても後が怖いということで、取り巻きの男どもがいなくなってから二人の前にこっそり姿を現し今に至る。
仕事終わりはビールじゃないのか? とも思ったが、三人とも18歳だし多分これで間違ってはいないのだろう。
ここのカフェでリリアさんのお兄さんも働いているらしいのだが、今日は非番の日らしい。この子のお兄さんだ、さぞかしイケメンなんだろうな。
と油断していると。
「はい、ハイドっち、あーん」
「あ、はい」
思わずパクリ。あ、ちょっとリキュール入ってて、ビターでスウィートな大人の味だ。仕事終わりに甘いものって割といいのかもなあ。
「……ちょっとリリアっ、何してるの!! ハイドさんも何してるんですかっ!」
「ウグッ……!!」
そういえばこれって間接キスなんじゃ……、と気が動転しシラタマを喉に詰まらせる俺。オリビアさんはとてもご立腹の様子。
「だってあんたたちはあくまでオ・ト・モ・ダ・チ、なんでしょ? 彼・氏、じゃなくって。んふふ……、あんたには怒る権利なんてな~いの」
「それはそうだけどっ……!!」
顔を真っ赤にして怒るオリビアさん。
「ふふ……、ごめんごめん! あんたらが初々しくて可愛かったから、ついついかいたくなっちゃった。……でさ? 本当のとこどうなの? 親友にようやく春がきたんじゃないかとめっちゃ気になってるんですけど! ね? ここだけの話、教えて」
ずいっとオリビアさんに対して身を乗り出して拝むリリアさん。
「どうって……」
「だぁ~かぁ~らぁ~、本当は付き合ってるんでしょってこと!」
「そんなこと言われても~……」
パフェを食いながらのガールズマシンガントークに華が咲く。俺はそんな二人をどこか遠くに置き忘れてきた眩しい何かを見るように眺めていた……。
そして帰りがけ。リキュールのせいなのか素でそうなのかわからないが、「オリビア~、ハイドっち~、バイバーイ!」とハイテンションで手をふるリリアさんと別れたその後。
「ハイド君、ごめんね。私の友達が騒がしくって……。ハイド君目立つの苦手なのに……」
申し訳なさそうに謝るオリビアさん。
「いえ全然。むしろ新鮮で、こういうのも悪くないって思いました。よかったらまた三人で遊びましょう」
「はあ~、良かった……。ハイドさんあまり喋らないから怒ってるんじゃないかと思った……」
「いえ、お二人とご一緒できて怒るなんて滅相もない。鍛冶師連中に聞かれたら殺されちまいますよ……。じゃあまた、お家まで送りますね!」
オリビアさんを彼女の自宅まで送ったところでこの日のイレギュラーなデート会はお開きとなった。