34話
オリビアさんが連れていってくれたのは、オリーブ畑が一望できる町の高台だった。
女の子とデートなんて何年ぶりだろう。女の子どころかこんなに長時間会話をすること自体久しぶりだ。
トークデッキでも考えないと会話を続ける自信がない。何だか緊張してきたぞ……。
「この町はオリーブの一大名産地なんですよ?」
「へえー、凄い景色ですね……。そういえばオリビアさんの名前ってひょっとして……」
「気が付いてくれました? 髪の毛の色がオリーブの色だったので、それにちなんで両親がつけてくれたんです」
「本当にしっくりくる名前だと思います!」
「えへへ……、ありがとうございます!」
新緑の風が吹き、二人の頬を撫でる。木漏れ日が俺たちを優しく包み込む。
「んー、今日もいい天気! お散歩日和!」
そう言ってオリビアさんがのびをする。美人は本当にどんなポーズをとっても様になるな。
「そこのベンチで今朝渡しそびれたお弁当食べませんか? 卵サンドですけど」
オリビアさんに見惚れているとそんな提案をしてきたので、「俺、丁度お腹がすきました」と乗っかることにする。
俺たちは早速高台のベンチに座って一口サイズに綺麗に切り分けられた卵サンドを頬張る。……うん、上手い。お茶も緑茶だろう。丁度良い温さで美味しい。
「そんなに美味しそうに食べてくれるなら、作った甲斐ありましたね!」
オリビアさんはちょっと嬉しそう。
「いくらでも食べれそうです。炒り卵に入ってるスパイスと葉物野菜が絶妙な味を醸し出しているような……」
「そんな大したもんじゃないですよ~。料理評論家みたいなこと言わないでください!」
オリーブ畑を眺めながらの友達との食事もいいもんだ。いつもぼっちで食べてたから気にしたこともなかったが。
あそうだ、とハタと思い出す。そういえば言っていかないといけないことがあるんだった。
「……ところでオリビアさんに折り入ってお願いがあります。俺たちが友達になったこと、周りの人たちには秘密にしていただきたいのです。ルチアお嬢様やカーミラさんに勘違いさせてしまったでしょう? 俺、これ以上目立ちたくないんです」
目立ちたくないのは俺の本心。特にギルドの鍛冶師連中には絶対にバレたくない。嫉妬や好奇心の目で見られるのが、俺は本当に嫌なのだ。
ここでは誰もいないから顔を晒せるけど、本来俺はフードで顔を隠して歩くような人間なのだ。
それに代償としての顔と注目されやすいことがわかった。これまで以上に警戒しないといけないと思う。これ以上のいざこざは御免被りたい。
出会う人間が全員オリビアさんのような善人であれば良いのだが、そうじゃないからな。
「え~私は気にしないのに……。でもハイドさんが嫌なのなら、仕方ないです。ギルドでは皆と同じように接することにしますね! でも二人のときはちゃんと友達でいてくださいね」
そう言うとベンチで座るオリビアさんが俺の手に自分の手を重ねてきた。小さくて柔らかい女の子の手。ドギマギする。
「あ……、手が……」
「あっ、いえあのこれは……」
お互いパッと手を放し恥ずかしそうに目をそらす。
急に沈黙が訪れる。ザーっと風が流れ、木の葉がこすれる音が耳朶を打つ。お互い照れてしまったけど、すぐに目を合わせプッと吹き出して笑い合う。
……なんか楽しいな。
それから俺たちはしばらくの間オリーブ畑を眺めながら日向ぼっこをした。