31話
風邪をひいてしまった。体温計がないのでわからないが、かなりの熱があると思う。普通に階段の上り下りがシンドイ。咳も出ている。
きっとここのところ働きすぎて疲れていたんだと思う。昨日は仕事終わりに狩人ギルドに寄って、オークの買い取りの交渉をしたりと結構遅い時間まで頑張ってしまった。
いい機会だ、懐にも余裕があるし、体調が回復するまでゆっくり休もう。
カーミラさんに風邪をうつしてもいけないので「熱があるので自分の部屋には近づかないでください……」というと、薬と食事を買ってきて色々と看病的な世話を焼いてくれた。少し多めにお金を払おうとしたら、かかった分だけでいいと言われた。
この人、見た目と言動はぶっきらぼうな感じだけど、実はものすごく良い人なのかもしれない。
……暇だ。寝ていてもやることがない。ただただ頭と体が重い。
俺はベッドで横になりながら、夢を見ているのかもよくわからない朦朧とした状態で色々なことを考えた。
このゲームのような世界は何なのだと。遊戯神様が作った世界だということはわかるが。
思えば俺の人生もゲームのようなものでしかなかった。
受験戦争で点数を争い国立大学に合格し博士号をとって。一部上場企業に勤めた後も主任、課長、部長と上のポジション異動を狙い社内外でザ・サラリーマン的な立ち回りを演じ。
その傍ら株式投資で暴落が来たら底で買い、上がったら売る。配当利回り、各種指標の割安さ、業績予想を見てお金を突っ込み、引き際で売るみたいなことの繰り返しで資産を増やした。仮想通貨取引も基本的には同じこと。
……全部何かのポイントを稼ぐゲームみたいなものじゃないか。
最終的に働く必要がないほどお金が貯まり、MMOしかやることがなくなったけど、それもなんだか虚しくて。
そんなときに神様と出会い、今俺はこの妙な世界に確かに自我をもって存在している。
俺はこう思う。夢は目指して頑張っている間が一番楽しいのだと。夢はなかなか叶わないからこそ尊いのだと。
もし夢が叶った先に何もなかったら、虚無だけが広がっていたら。
もしかするとそれは地獄と同義なのではないか。
だから人の夢は終わらせてはいけないんだ。
「そんなセリフ、どっかの漫画であったよね……」
朦朧とする意識の中、確かに俺は笑えていた。
……
風邪を引いてから三日目の朝、目が覚めると完全に体調は元通りになっていた。これがモンスターの出る町の外だったら命に関わるだろう。今回買った風邪薬や痛み止め、熱冷ましの余りは、常備薬としてインベントリに入れておこう。
あとは暑いからといって裸同然で鍛冶作業をするのはやめよう。きっと休む時に体を冷やし過ぎたのがいけなかったんだろう。
さて、今日は余っていた鉄鉱石で鍛冶作業でもしようかな。もちろん病み上がりなので、体調には気を付けつつだけどな。
俺は出がけに店番をするカーミラさんに改めてお礼を言い、宿を後にしようとしたとき、丁度宿の中にゾロゾロと人が入ってきた。
それは執事のアルフレドさん、警備兵のミランダさん、イワンさんを従えたルチアお嬢様と、オリーブ色の髪色が美しいスタイル抜群な鉱業ギルドの看板娘オリビアさんだった。