30話
そういえばカーミラさんの宿屋の中に空いている物置みたいな部屋はないだろうか。もしかすると間借りすることができるかもしれない。
案の定、客室として使っていない物置部屋あるとのこと。10日で大銅貨3枚で使っていいそうなので借りることにした。鍵もかけられるので盗難の心配もなさそうだしな。ついでにしばらく鍛冶修行だろうから部屋も10日分、大銅貨11枚で借りた。
それから俺は珈琲豆を入れるような粗い生地の大きな布袋を買ってきて、鉱石を種類とランクごとに分類する作業に没頭した。
翌日は鉱業ギルドで鍛冶作業をすることにした。
人に見えないところで地道にコツコツ努力すべしが俺のモットーだ。目立つところで実力もないのにチヤホヤされるのは好きじゃない。
有頂天になってしまったが最後、「あいつは大したことないのに調子に乗っている」と叩かれ落とされるのがオチだ。
昨日ルベン議長から支援を受けた場合、まさにそうなりかねなかったと思う。
やはり分相応。急がば回れ。実力をつけないうちから結果だけを追い求めるな。コツコツと実力をつけていけば自ずと結果ついてくるものなのだ。
鉱業ギルドのカウンターで昨日集めたDランクの銀鉱石、メテオライト鉱石、ガーネット、Eランクのラピスラズリを、しめて小金貨2枚、大銀貨4枚、大銅貨2枚で売却。
他は使いそうなのでとっておく。
オークが一体あることをオリビアさんに伝えると、狩人ギルドに解体屋があると教えてくれた。後で行ってみよう。
Eランクの武器を作れるようになったので、ドワーフのおっちゃん売店で【Eランク素材武器防具レシピ】とEランク製作に必要な鉄のハンマー、鉄の金床、鉄の火ばさみに道具もグレードアップ。もちろん着火剤など必要な道具も補充。前の使わない鍛冶道具は下取りしてもらってしめて大銀貨6枚、小銀貨2枚もかかった。
鍛冶師とは実は中々にブルジョア趣味なのかもしれない。
今日は青銅インゴットの製作から始めよう。Eランクの道具だったとしてもFランクの装備は作れる。素材はできるだけ無駄にしたくないし経験値も入るので無駄にはならない。
青銅インゴットは銅鉱石にスズ石を混ぜて作る。作っているうちに徐々に品質が上がっているが未だ【劣化品】のクオリティからは抜け出せていない。地道に修行あるのみだ。
鍛冶作業するにもHP・SP両方とも消費するので、ところどころで回復休憩をはさまないといけなかった。確かにこんなに汗ダバダバになりながらハンマーを振って、体力を消費していないわけがない。
鍛冶作業をしていると途中オリビアさんが「作りすぎたので良かったらどうぞ~」とサンドイッチの差し入れをと持ってきてくれた。丁度腹もすいていたのでありがたくもらっておくことにした。
俺、汗くさくないかな……? とちょっとだけ気になったが、オリビアさんは流石ギルドの看板娘といった感じ。全く気にした風もなく他の鍛冶師たちにも愛想よくしていた。
俺みたいな微妙な陰キャ野郎に優しくしてくれるだなんて、オリビアさんは見た目だけじゃなく性格まで良いのだろう。俺の精神年齢が高くなければ一発で惚れてしまうところだ。
……さて、Fランク素材が尽きたことだしEランクの鉄武器に挑戦してみるか!
カンカンカン! ジュワー……。
【鉄のナイフ(粗悪品)】
わかってはいたが、なんかガックリくるものがあるな……。
それからも日が落ちるまで作業し、気が付けばベースレベルが1、ジョブレベルが1、熟練度レベルがFランクが4に、Eランクが2に上がっていた。
作った武器防具をカウンターで売ったが、大銀貨1枚、小銀貨1枚、大銅貨4枚、小銅貨2枚にしかならなかった。やはり品質がイマイチなうちは赤字を覚悟しないといけない職業なのだろう。
俺はステータスウィンドウを開き、必要そうなところにステ振りした。スキルは防具製作Lv2を取得。
Name:Hide(BaseLv9)
Job:blacksmith(JobLv4)
HP:40
MP:60
Status:S(筋力)13+2、V(持久力)4+1、A(素早さ)3、D(器用さ)5+2、I(知能)15、L(運)2+1(Rest0)
Skill:完全気配遮断、言語理解、鑑定、マイニングLv4、鉱石ドロップ、所持重量限界増加(鉱石)、武器製作Lv2、防具製作Lv2(Rest0)
鍛冶熟練度:FランクLv4、EランクLv2
所持金:47690arc
だが金はトータル見て増えているし、ゆっくりだが着実にステータスは伸びてきている。 鉱石素材を自分で集められるようになった鬼畜レアの強運に感謝しなくちゃな。
これでいい。コツコツでいい。俺はこれまでの人生そうやって生きてきたし、この世界でもそうやって生きて行くのだ。スタンスを変える必要などない。
そう。俺はきっと元の世界でコツコツお金を稼ぐ意味がなくなってしまい、「これまで何のために頑張っていたんだっけ?」とある種の虚しさを感じていたのだ。
どこかで生きる意味なんてない、人間は長い歴史の中でたった100年しか生きられないちっぽけで儚い生き物なんだから、と言っている人の話を聞いたことがあるけどけど、それじゃあまりにも虚しいじゃないか。
俺がこの世界で何ができるのかはわからない。でも元の世界もこの世界もきっと神様が作ったものだ。何か意味があるはずだと信じたっていいじゃないか。
だから俺はこの世界で、もがけるだけもがいてやろうと思う。
その先に何が待っているかはわからない。だけどそこにどんな景色が広がっているのか見てみたい。
……俺は心からそう思った。