28話
のどかな自然が辺り一面に広がる中、硬質な何かが岩肌にぶつかる音だけが木霊している。特段人影はなく、それはある種の異様さを醸し出していた。
そんな中、俺は完全気配遮断を使い存在を隠しつつ、ひたすら額に汗しながら岩盤を【マイニング】を使って掘る。
途中、槍をもった豚頭のEランクモンスター【オーク】が音を不思議に思ってかブヒブヒ言いながら近寄ってきた。
だが俺は完全気配遮断を使用中のため全く気付かれることなく背後に回り込み、敵の頭蓋骨をマイニング。オークはプギャーと悲鳴を上げ脳漿をまき散らしながら倒れた。オーク1匹程度ではレベルが上がらなかった。
オークは一応売れるかもしれないのでインベントリに入れておこう。まあまあ重たいが仕方がない。
オークはFランクのゴブリンよりちょっと強い序盤辺りのモンスターだ。もしかするとこの辺りに村落があるのかもしれないので警戒しておこう。
それからも岩盤を掘って掘って掘りまくった。
……やはり鉱脈でも何でもないただの岩盤にもかかわらずレア鉱石がドロップする。実験は成功のようだ。
落ちた鉱石はレア度Cランク以下のものが落ちた。ランクが高い鉱石ほどドロップ確率は低い。Cランク鉱石が落ちるのは、体感この間堀った銀鉱山で銀鉱石が落ちるくらいの確率だと思う。
Cランク:金鉱石、ミスリル鉱石、サファイア、ルビー、属性原石(闇、光)
Dランク:銀鉱石、メテオライト鉱石、属性原石(火、土、水、風)、ガーネット
Eランク:鉄鉱石、ラピスラズリ
Fランク:銅鉱石、スズ石、石炭
落ちた鉱石をランク分けするとざっとこんな感じ。普通にその辺の岩盤を掘っただけでこんなレア鉱石が落ちるのヤバすぎだろ。
Fランク素材レシピによると、スズ石と銅鉱石を精錬すると青銅インゴットができるらしい。これで当面の青銅インゴット分のお金を節約できるな。
「あ、そうだ。所持限界重量の70%超えないよう気を付けないと……」
鬼畜レアカードを使っているときは完全気配遮断は必須のスキルなので、SP自動回復が切れないギリギリのところまでしかできない。町に入る時もこっそり入る必要がある。
考えてもみてほしい。
もしこんなチート能力がバレたらどうなる? 銀鉱山をめぐるいざこざで市議会が紛糾し、未遂とはいえ少女誘拐事件、鉱山爆破事件が起きたのは記憶に新しい。
銀鉱山ですらそんな状況なのに、さらにその上の鉱物である金やらミスリルやらの出所が悪意ある人間にバレてしまったら、俺は一体どうなってしまうのか?
……想像するだに恐ろしい。
ここは警戒心強くいこう。Cランク鉱石を売るにしても、きちんと信用できる人、秘密を守ってくれる人だと確信がもてるまでは見せてはいけない。
しかし、今処分できないCランク鉱石をどうする? ずっとインベントリに入れておくわけにもいかない。どこかに倉庫みたいなものでも借りるか? でもそんな金はないし……。
「あ、そうだ。信用できそうな人ならいるじゃないか」
俺はとある人物の顔を思い出した。鉱山の関係で世話になった人物。俺に対して悪意はないだろうし、金に目が眩んで悪さをすることもなさそうな人物。
……うん、何とかなりそうだな。
俺はこれからの行動と相手の反応をシミュレーションし、上手くいきそうだとアタリを付けることができたことに若干安心する。まあ、もちろん油断は禁物だけど。
それからも俺は重量ギリギリになるまで岩盤堀りを続け、適当なところで切り上げるとローエンに戻った。