20話
翌朝久しぶりに目覚めは良かった。今日は市議会での仕事を控えているが、それほど緊張はしていない。
俺は身支度を整えると、ルベン議長に言われた通り町の中央やや北寄りにある市議会会議場へと向かった。
「皆の者静粛に。これよりガープ銀鉱山のヒルトンとの共同開発関連法案について、7日間の審議に入る」
ざわつく会議場の壇上で、ルベン議長がローエン市議会の開会を宣言した。ルベン議長の隣にはローエン・グリモワール伯爵と思われる威厳のある人物が一際豪華な椅子に座り長い髭を撫でくつろいでいる。
ルベン議長によると、この都市では支配者たる貴族とその臣下たる市議会議員の合議制で政治が執り行われているとのこと。
俺は会議場の一般傍聴席に座っていた。会議は一般人に公開されているが、出席できるのは市民権を得た者に限られている。今回俺が入場できたのはルベン議長が俺の市民権を認めてくれたおかげだった。
改革派の中心に陣取るは、一昨日銀鉱山で密談をしていたミゲル議員とヤフコフ議員。鼻息荒く、ふかふかのソファーで偉そうにふんぞり返っている。
偉そうにしていられるのも今のうちだ。俺の作戦が実行されれば7日間ももたないと予言しておこう。
ミゲル議員とヤフコフ議員が発言席で声高らかに、銀鉱山の共同開発の必要性を訴え始める。がそれを制止し、ルベン議長が「だがその前に、貴殿らに問いたださねばならぬことがある」と発言。
俺はここで完全気配遮断をアクティとベートし、ステータスウィンドウを開きMP切れに気を付けながら、改革派議員二人のいる発言席に移動する。
「ガープ銀鉱山の爆破を貴殿ら二人が爆破を目論んでいること、銀鉱山の共同開発に反対する保守派議員の娘を拉致し、この場で言い憚られるようなことをしようとしている、と。真偽のほどはわからぬが、告発が私のところに来ている。貴殿らの返答やいかに」
ルベン議長は感情を押し殺し、冷静を装って二人を問いただしているが、それが超怖い。ちびりそうだ。
だがミゲル議員とヤフコフ議員はどこ吹く風。
「証拠もなく、なに言うてはりますのん? 言いがかりはやめてくれなはれ!」
「そうやそうや! 名誉棄損やで!!」
と逆に激昂を始める始末。改革派の下っ端議員たちも勢いづき、しきりにヤジを飛ばしている。どこかで見た風景だな。
そう確かに証拠はない。しかし、状況証拠なら作れる!
俺はミゲル議員とヤフコフ議員の頭の上にファンシーなクマちゃん柄とウサギさん柄の女の子が履くような下着を乗せた。ついでに口紅で頬にキスマークもつけてやった。
「ところで君たちは頭の上に何を乗せているのかね?」
とルベン議長。
二人は頭に手にやると手ぬぐいと勘違いしたのか下着で額の汗を拭き、目の前で広げてみせた。
頬にキスマークをつけ、両手で子供用のパンティをびよーんと伸ばして見せつける二人。ざわつく会議場。そこかしこで「ロリコンよっ……!」、「変態議員、恥を知れ!!」、「ルベン議長の娘さん、確か13歳だったよな……、まさか?」といった声が上がる。
「これは何かの間違いや……!! ええい、こんな状態では審議もクソもないやろ!! 議長、ワイは改革派筆頭として一時休会を提案するで!!」
とミゲル議員が真っ赤になりながら口角泡を飛ばし、そう吐き捨てた。
確かに騒然としている状況では審議どころではないのは確かである。
俺も今ここで彼らの政治生命に止めを刺すつもりは毛頭なく、一般傍聴席に戻るとルベン議長に向かってOKのサインを出す。
「貴殿の提案は理解した。ローエン・グリモワール伯様もよろしいですな? それでは本審議は一時中断とし、明日同じ時間に本会議場で審議継続とする。では閉会」
こうして市議会1日目は幕を閉じた。