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19話

 宿屋にチェックインした俺は、ようやく部屋で一息つくことができた。


 部屋で買ってきた飯を食い腹を満たした後、ソバージュ女……、もといカーミラさんから大き目の桶を借り身綺麗にすることにした。カーミラさんの名前は、チェックインしたときに流石にこれだけ何度も世話になっておきながら覚えないのは失礼だろうと思い聞いた。


 カーミラさんは相も変わらず気だるそうにタバコを吹かしながら店番をしていたが俺が名前を聞くと、ちょっと嬉しそうに「なんだい坊や、あたしに惚れたのかい?」なんて冗談めかして答えてくれた。ノンデリかもしれないが、サバサバした性格みたいだ。


 こういう人は気を使わなくて良いので別に嫌いじゃない。嫌いじゃないことと、女性として好きになれるかどうかは違うので難しいけど、友達になりやすいタイプであることは確かだ。


 友達としてなら全然OKなんだけど、カーミラさんはどうなのだろう。


 俺はそんなことを考えながら、井戸のある中庭で水を汲むと石鹸とタオルで全身の汚れを落とし、髭をカミソリで剃り、ボサボサの髪の毛をカットして整えていく。


 毛の処理は先ほど購入した手鏡を観ながらやっていたわけだが、後頭部を上手く切ることができない。


 するとそこを通りかかったカーミラさんが見るに見かねてか、「あんた不器用だねえ、見てらんないわ。いいからそれ貸しな!」と言って右手にもっていたハサミを奪い取られた。


 彼女に髪を切ってもらっている間、「あんた臆病すぎるのよ。もうちょっと他の人を頼りな。あんたを認めてくれる人間は、案外自分で思っているより沢山いるもんさ」と言われた。


 俺は「……そうかもしれませんね」と返す。


 それ以外はお互い無言だったけど、いつもは気まずく感じる沈黙が不思議と嫌な感じはしなかった。


 その時俺は、まずは人の名前をちゃんと覚えて呼んでみることから始めようと思った。


 それが人に興味をもつきっかけになるのだと。そのおかげでカーミラさんからアドバイスをもらえたのだとこうして気が付くことができたのだから。


 部屋に戻り窓を開け、夜の空気を肺いっぱいに吸い込んでみる。夜の虚無に融け込みたいといういつもの衝動は起こらず、リンと鳴く虫の音が心を落ち着かせてくれる。


 今日は久しぶりに良い夢が見られそうだ。

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