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13話

 翌朝早朝に目を覚ました俺は、部屋の鍵をソバージュ女に返却して宿を出ることにした。


 ソバージュ女は相変わらず足を組んでタバコを吹かしながら気だるそうに新聞を読んでいた。一瞬目があったが、彼女はちょっとばつが悪そうに再び新聞に目を落とした。


「お世話になりました、鍵ここに置いておきますね。またよろしくお願いします」


 お互い昨日のことは忘れましょう。と心の中で付け加え、俺はフードを目深に被り気配を消し宿屋を出た。



 さて気を取り直して、今日は予定通り銀鉱山に行こう。


 鉱業ギルドでもらった地図によると、銀鉱山はオーエンの町から馬車で6時間ほどの場所にあるとのこと。徒歩だと流石に厳しい距離なので、乗合馬車に乗ることにする。


 西門の方に向かうと、乗合馬車が何台か客待ちをしていた。


 俺は御者に大銅貨2枚を支払い馬車に乗り込んだ。御者によると、銀鉱山の麓には小さな宿場町があるらしく、鉱夫が寝泊りしているそう。成果が出るまで何日か滞在するのもありかもしれない。


 馬車に揺られること数時間が経過したころ、ガタンと音がして、馬車が急停止。


「モンスターの襲撃だ! 護衛のあんちゃん頼む!」


「あいよ」


 一緒に乗り込んでいた剣士らしき屈強な髭面のオッサンが立ち上がり外に出た。俺も完全気配遮断をアクティベートして一緒に外に出る。


 馬車の前の方を見ると、身長150センチくらいの緑色の小鬼のようなモンスターが8体、錆びたナイフやボロボロのこん棒を握り締め、爬虫類のような赤い目をギラつかせていた。


 鑑定をそのうちの一体に発動すると【ゴブリン】と出た。【アルカナ・エクリプス:ゼロ】では序盤に戦闘になるモンスターだが、集団で襲ってくるので油断はできない。


 剣士のオッサンは馬車をかばう形でゴブリンの前に立ちふさがる。俺は、ゴブリンとオッサンの横を迂回して後ろに回り込む。武器は青銅のナイフと鉄のツルハシしかないが、俺はとある目論見があってインベントリから鉄のツルハシを取り出す。


 剣士オッサンにゴブリンが襲い掛かるのと同時に俺は、ゴブリンの頭にツルハシを振り下ろすタイミングでマイナースキル【マイニング】を発動。


 ゴブリンの頭蓋骨を……マイニング!! ズガッ!


「グギャー!!!」


 後頭部をマイニングされたゴブリンは脳漿をまき散らして絶命した。


 そう、頭蓋骨はカルシウムという鉱物だと考えることができるのだ。


 システムを、ルールをハックしろ。ルールに隠れた意図を読み解き、自分の頭で考え道具にするのだ。発想を少しだけ変えるだけで、世界の見え方はガラリと変わり、もっともっと生きやすくなるのだと俺は思う。


 こうした俺の目論見通り「鉱物を掘る際」というスキル発動条件を満たし、攻撃力が3倍になったこと、頭部はそもそも急所でクリティカルヒット判定になったことでゴブリンを一撃のもとに屠ることができた。


 見えないところからの不意打ちにゴブリンは混乱状態に。


 そこから俺は剣士のオッサンをサポートしつつ、ゴブリンの頭蓋骨をさらに2体マイニングすることに成功し、敵を倒しきることに成功したのだった。


 そして3体目の頭蓋骨をマイニングしたところで、間の抜けたファンファーレが鳴りベースレベルが4、ジョブレベルが2に上がっていた。


 3体目のゴブリンを倒したところで、倒れたゴブリンの胸が赤く光りカードが出現。手に取り鑑定してみると【ゴブリンカード(正位置):動物型モンスターに20%ダメージ増加(武器カード)】と出た。1000分の1のレアドロップだ。


 ……


 【Arcana Eclipse: Zero(アルカナ・エクリプス:ゼロ)】はその名の通り、タロットカードがモチーフになっているMMOだった。


 ――【エクリプス】は日食、【ゼロ】は刻。正位置と逆位置の運命が交差する瞬間、【セフィロトの刻】が到来し世界が滅亡する。


 ゲームリリース時のキャッチコピーだ。


 ゲームではタロット図柄(愚者、魔術師、女教皇、女帝、皇帝、教皇、恋人、戦車、力、隠者、運命の輪、正義、吊るされた男、死神、節制、悪魔、塔、星、月、太陽、審判、世界)に対応する22柱の英雄モンスターが存在し、世界崩壊の日時を示す【セフィロトの刻】と呼ばれる期限内までに討伐することがゲームのエンドコンテンツ【セフィロトの木】だった。


 ゲームでは22柱それぞれに設定されている討伐期限が【セフィロトの刻】であり、セフィロト教の神殿への啓示で知ることができる。それを過ぎると各柱の眷属モンスターが人類を襲ってくるという設定だった。


 ゲーム開始時には【恋人】の英雄モンスターを期限内に討伐できず、眷属モンスターであるサキュバス、メデューサ、アマゾネスらの大群に襲われ、世界の人口の8分の1が死滅した後の世界……ということになっていたはずだ。


 ちなみに廃人プレイしていた俺ですら22柱の1柱も倒したことはなく、サーバー内にも倒したことがあるのは10人いるかどうか、という感じだった。


 誰もなしえなかったことを達成することを夢見て、俺たち廃人ゲーマーは日々プレイに勤しんでいるというわけだな。


 この世界がゲームの世界観と全く同じとは限らないので、そこは追々調べてからということにはなるが、もし22柱の英雄モンスターがいるなら、いつかは戦って倒してみたいものだ。


 ……


 この序盤のFランクモンスターゴブリンがドロップした【ゴブリンカード(正位置)】だが、アルカナというタロットカードのコンセプトに従い、タロット図柄の眷属モンスターには正位置と逆位置のカードが設定されている。


 正位置は1000分の1、逆位置は2万分の1の確率でカードをドロップするというのが公式発表だったと記憶している。


 正位置のカードはレアなのに対し、逆位置のカードは鬼畜レアと呼ばれており、正位置のカードが鬼強化された性能になっていた。


 今回出たのは武器のカードスロットに刺せる武器カード。カードは装備部位によって分類されており、武器、頭、鎧、腕、足、外套、盾、アクセサリーの8種類。


 町のカードショップで効果によってピンキリの価格で取引されており、超高額鬼畜レアカードはオークションで売買されたりする。ゴブリンカードはそこまでではないが、ダメージアップ系カードはそれなりの値段がしたはずだ。


 鉄のツルハシを鑑定すると【鉄のツルハシ[2]:鉄製の何の変哲もないツルハシ】と出ることから[2]、すなわちカードスロットが2つあることがわかる。


 ゴブリンカードをツルハシに近づけると、ぼんやりとツルハシからカードスロットが二つ浮かび上がったので、そのうちの一枚に挿す。するとツルハシの名前が【ビーストスレイ 鉄のツルハシ】という名前に変化した。動物型モンスターはよく出没するので助けになってくれるだろう。


 一度カードを挿してしまうと自分では取り外せないが、ゲームではカードショップでお金を払えば取りはずすことができたので、おそらくこちらでも同じだと思う。もしそうでなくても、鉄のツルハシよりも高値で売れるだろう。



 ……次に被害状況を確認だ。


 俺は周りの安全を確認してから完全気配遮断を解除。



「ぐぅ……、やっちまった……」


 ゴブリンを馬車から引き離すためかなり離れてしまっていたが、馬車の方に戻ってみると剣士のオッサンが脇腹の辺りを押さえながらうずくまって倒れていた。


 馬車を襲おうとしていたゴブリンに気をとられナイフの一撃をもらってしまったようだ。


 俺は「大丈夫ですか!?」と駆け寄ると、馬車からも御者や他の乗客が駆け寄ってきた。


 みんなでオッサンの上着を脱がすと、オッサンの脇腹がゴブリンのナイフで割と深めに切り裂かれているのが見て取れた。


「これは不味いです、すぐに手当てをしないと! どなたか回復魔法を使える方、ポーションを持っている方はいませんか!!」


 御者のおじさんが聞くが、乗客から返事はない。剣士のオッサンは額に玉のような汗を浮かべながら苦しそうにしている。あの方法を使いたくはないが、怪我人をこのまま放置するわけにはいかない。


「あ、ちょっと皆さんどいてください!」


 俺は脇腹の傷口に向けツバをペッと吐くと、スキルウィンドウの【民間療法】を連打。ツバが何度も薄く発光し、傷が徐々に、本当にゆっくりではあるがふさがっていった。


 最初は顔をしかめていた他の乗客たちも、オッサンの傷が治るのを見るにつれ、「兄ちゃん助かった!」と声をかけてくれるようになった。


 それから10分以上かけて【民間療法】をかけ続け、オッサンは立ち上がれるくらいには回復した。


 俺がオッサンを治療している間、誰かがゴブリンの胸から魔石を回収してくれたらしく、俺は倒した3体分の小石程度の大きさの魔石をもらえた。


 俺たちは再び馬車に再び乗り込むと銀鉱山へ向かい走りだした。

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