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いかないで染井吉野  作者: 花田 黎
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第六話 ガーベラ

 授業やバイト、慣れない家事でせわしなく過ぎていった前期、テスト期間も終わり補修もない私は、連続講義はあるもが少し早めの夏休みを迎えた。なので初めての木曜日の早番である。早番は本来回転一時間前の9時開始なのだが今日は7時にはお店に来ていた。なぜかというと…


『あ、橙田さん。悪いんだけど今週の木曜日は7時出勤ね、一緒についてきてほしい場所と早番業務覚えてもらうから』


という店長さんの指令である。うちの花屋は基本的に店長さんが仕入れを行い、主に早番担当の舞さんが店頭業務や仕入れした花の業務を行っている。今日は仕入れから学ぶため卸市場で花を選ぶところからシフトに入ることになった。いつも遅番業務が主な私だが、店長や舞さんが仕事にこれなくなったときに代打できるように、とか、お盆で補助ができるようにするためだ。

 ということで今日は眠い目をこすり少し早めのシフトになっている。

「おはよう橙田さん、やっぱ眠そうだね…でも申し訳ないんだけどもう出発しないと回転間に合わないから頑張ろうね。一回で覚えなくても大丈夫だから、お盆以降は比較的落ち着くから何回仕入れについてきても大丈夫だからね」

と言いつつ店長さんも眠そうである。店長さんは基本朝から晩までお店にいるから眠いのも当たり前だと思う。私だったら過労死しちゃいそうである。いくらバイトがいるとは言えど在庫の仕入れや売り上げの計算は店長さんがしてるし、舞さんや竜さんが休みの日は一人でお店をまわしているときもある。

「じゃあ橙田さんは助手席でよろしく。後ろは花積むからね。」

初めての助手席と市場に緊張と不安を抱えながら車に乗ると早速発車する。静かな社内と安全な運転に少しうとうとしていると目的の市場に到着した。

「ついたよ、ここが市場。花が売ってる花き棟はこっちだよ。」

店長さんの声にハッとして周りを見渡すと、大きな市場に到着していた。急いで車を降りて店長さんの後をついていく。

「黒木さんいらっしゃい、どの花仕入れに来たの今日は?」

どうやら顔なじみらしい花屋さんに到着すると気前のよさそうなおばさんが親しそうに話しかけてきた

「今日はね…」

花の種類をぽんぽんとあげていく店長さん。昨日は定休日だったので私たちバイトはお休みだったがもしかしたら店長さんは昨日のうちに買い足す必要のある花や売れ行きや季節を考えて花を選んでいたのかもしれない。なんてことを周りの花をみながら考えた。うちの花屋と違って周りにも花を売っているところが多くあるしなんだか賑やかな空間。花のショッピングモールのような感覚になっていた。

「あれ!?そういえば見ない顔じゃん!珍しく新人雇ったの?しかも若い子じゃない!」

気が付いたら店長とおばさんの話は終わっていたらしくおばさんがこちらに興味津々と言わんばかりの表情を覗かせていた。

「うん、4月から新人で雇った子。授業の関係で遅番が多かったんだけどこれからお盆もあるし早番業務も覚えてもらおうと思って連れて来たんだ。橙田さん、自己紹介お願い。」

「4月からお世話になっています、橙田柴乃です。よろしくお願いします!」

「柴乃ちゃん!うちは色塚生花の由紀子!よろしくね!」

「色塚生花には開店当初からずっとお世話になってるんだ、たまに安くしてもらったりしてる、基本的にはここから仕入れることが多いから覚えといて。」

「お盆の卸手伝ってもらってんだから少しまけるくらいどってことないのよ、うちの店は仲卸って言ってデパートとか商店とかにも仏花卸してるんだけど盆はなかなか追いつかなくて手伝ってもらってるの、こんな色男に手伝ってもらうんだから少し安くするくらい当然の事よ…あ、引き止めちゃ悪いわね。これ、確認して頂戴」

そういって由紀子さんはそこそこ多めのさまざまな花を持ってきた。

「もうすぐお盆だから少なめに仕入れてる。嵐の前の静けさってやつだよ。お盆は基本的に俺と短期のバイトさんで仕入れに行くけどこの3倍か4倍が毎日続くと思っててね。」

標準サイズの荷台にそこそこ大量に積まれた花を見て絶望する。これの数倍と考えると今日の車には積みきれないであろうと考えるとそれだけの花束を作ることになるのだろう。ああ、さっそく気が重くなってきた。

「あ、今日はここだけじゃなくてもう一店舗行くよ。だからこれだけじゃないからね」

「あら浮気者、私たちじゃ満足できないってこと?」

「違うよ由紀子さん、せっかくだし橙田ちゃんにもいろいろ見てもらおうと思って、あとは何かあったときの保険もかけときたいからね。」

「まあそうならしょうがないわね。いっつも買ってもらってるしそれに免じて許してあげるわ。」

「ありがとうございます。じゃあ由紀子さん、またね。」

「はいよ、まいどあり!」

店長さんが荷台を押しながら奥へと進むのでそれについていく。市場っていうと果物や野菜とか食べ物のイメージが強かったけど花にも市場があったんだなって思った。その後ある程度周り、もう1軒行った後、仕入れた花を車に乗せて再び職場へ向かった。

「さて、ここから忙しいよ」

車を降りる前、店長さんがそう言っていたことを思い出して勝手に震え上がる。お店に到着すると舞さんがすでに待っていた。

「おはよう二人とも!橙田ちゃん、初めての市場はどうだった!?」

「お花が多くて、建物が大きかったです。あと、由紀子さんがすごく元気でした!」

「うわあいいなあ!!私も由紀子さんに会いたい!」

「舞が行くと由紀子さんとの話が長くなるからだめ。」

ばっさり切れらた舞さんを横目に店長さんは花を下ろし始める。

「舞、落ち込んでないで早く仕事して。間に合わなくなる。」

「はーい」

早番の業務覚え、スタートです。



「早番者は基本的に水揚げと店頭準備、店頭準備はもう舞が済ませてある。慣れれば10分くらいで運び終われるよ。まあ水揚げも慣れたらすぐだよ。メモの準備はいい?」

慣れてきてそんなに開くことのなかったメモ帳を開く。どうやら店長さんが説明するらしく、ほとんどの花が舞さんの元へ運ばれていくと、舞さんは慣れた手つきで作業を進めていった。私も店長さんの説明を聞きながら必死になってメモをとる。けど手つきに夢中になったり、どうすればいいのか分からなくなって何回も聞き直したりした。申し訳ない。そんなこんなで早番の説明が終わり開店準備が整う、10時開店に対してただ今の時刻9時50分、さすがの手つきである。私に説明したり、実際にやらせてもらったから時間はいtもよりかかっているはずなのに開店時間に間に合うんだから二人って本当に仕事が早いんだな、と感動した。

「あとは店頭とかバケツ洗ったり配達したりだから遅番とか中番業務と変わらないね。配達は今はほとんど竜さんが担当してくれてるから説明はまた後でだね。まあ配達は常連さんのとこが多いから今日ほど緊張することないと思うよ…多分」

「遅番は片づけとか割とまったりだったので早番がこんなに戦争だとは思いませんでした…」

「戦争か…確かに開店準備は戦争かもしれないけどその後は割とまったりだから安心して大丈夫だし、予約が無ければ多少開店時間が遅くなっても問題ないよ。」

「ありがとうございます…多分最初の方はそんな手際よくできる自信ないので…」

「まあ水揚げって慣れるまでちょっと時間かかるもんね。慣れたら何も考えなくても手が勝手に動くようになるから大丈夫。頑張って少しづつ覚えようね。」

「はい…」

今日は雨、もしかしたら客足が少ないかもしれないから早番者の業務内容を覚えられるように頑張ろうと思った。


ガーベラ:花言葉は『挑戦』

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