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ラピュタの科学は人類より150年も前に火星の月を発見している

プロローグはここまで。

これから完結(20話)まで毎日投稿する予定です。面白かったらブックマークや評価、いいねや感想なんでもいいのでよろしくお願いします。

 半影月食と一緒に水星、木星を見た翌朝……になるちょっと前。

 残りの惑星の火星、金星、土星が明方近くに見えるということで私達三人は再び天文台近くの広場にやって来た。

 もちろん許可はとってある。


「さて問題です。火星には衛星が二つあるのですが、その二つの衛星を最初に発見したのは誰でしょう」


 まだ周囲は暗い。日の出までもう少し。

 その間に一足先に昇っていた火星について紹介しておこう。


「ごめんね、のぞみちゃん。私も糸ものぞみちゃんほど詳しくないの」


「雫歌はともかく私はそもそも天文学者なんて何人も知らないもん」


「私だって全然知らないよ」


 ニュートンやガリレオが天文学者だと言っても信じて貰えなかった過去を思い出す。重力を発見した功績やそもそも地動説が天文分野と思われていなくて愕然とした。

 二人とも新型の望遠鏡を発明した人なんだけどなぁ。

 私この春高校にあがるから入学祝いにニュートン式望遠鏡買ってもらったんだけどなぁ。




「正解はラピュタ人です」




 でもそんなの関係なしに火星の衛星については面白い話がある。

 予想通り食いついてきてくれた。


「待って。待って」


「ラピュタってあのラピュタ?」


「えっとね。特殊な力を持つ石が出てきて」


「ラピュタかな?」


「その石の力で空に浮かぶ島のことだよ」


「ラピュタじゃん」


 ラピュタだよ。

 最初からそう言ってる。


 ……ただし


「ガリバー旅行記の方だけどね」


「ラピュタじゃなかった!?」


「え、ガリバーって大きくなったり小さくなったりする人?」


「おしい。小人の国と巨人の国に行った人だよ。その後ラピュタに行ったの」


 ラピュタはラピュタでも映画ではなくそのモデルとなったとされる小説の方だ。

 残念ながら空から女の子が降ってきたりはしない。


「『ガリバー旅行記』は、1726年にアイルランドの作家ジョナサン・スウィフトが書いた小説なんだ」


 初版は名前が違うかったらしいけど今は関係ないので割愛。

 重要な部分はそこじゃない。


「主人公のガリバーがラピュタに行った時、ラピュタの人々は既に火星の二つの衛星(つき)を発見していたって大興奮していたんだよ」


「だからラピュタ人?」


「そう。ちなみに人類が火星の月を見つけるのはそのガリバー旅行記が世に出てから150年以上も後の話ね」


「ん、え? じゃあそのスウィフトって人が火星の月が発見される前にその話を書いたの?」


 そこが一番不思議な部分だ。

 偶然で片付けられる条件はいろいろ揃っているんだけどね。

 ある程度理論に基づいた予想だけど最後は勘が当たった感じだ。


 そもそも現代理論でさえ惑星の定義が決まったばかり、衛星の定義はない。現状は国際天文学連合が衛星と認めたものが衛星だ。


「衛星の数が合ってただけじゃなくて実際の軌道も物語のそれに近かったんだ。衛星の名前はフォボスとダイモスっていうんだけど、クレーターにそのガリバーの作者由来の名前がつけられてたりするよ」


「じゃあそのジョナサン・スウィフトって人も天文学者だったの?」


「ううん。ケプラーの考えを支持したみたい。ケプラーは天文のビッグネームだから覚えといてもいいかも」


「分かんなくなったらその都度のぞみに訊くよ」


「えー。まぁいいや。ちなみに糸ちゃんケプラー式望遠鏡覗いたことあるよ」


 現代で使用されている屈折式の望遠鏡はだいたいケプラー式だ。

 そのくらい有名な人だけど残念ながら普通の中学生――もうすぐ高校生だけど――の間ではあんまり有名じゃない。


 火星の方に手を伸ばす。

 伸ばしてから完全に無意識だったと気付く。

 火星はやっぱり思い入れがどうしても強くなっちゃう。


 幸い二人は特に気にしていないようなのですぐに言葉を続けることができた。


「今年、その火星の衛星に向けて探査機を飛ばす予定だったんだ。フォボスの方ね」


「え、そうなの?」


「うん。MMX、日本語で言うと火星衛星探査計画って言ってね。火星の衛星の欠片を持ち帰る、サンプルリターンを日本主導で実施するんだよ」


「サンプルリターンってあのはやぶさの奴?」


 はやぶさ計画。

 日本が小惑星から星の欠片を入手し、それを地球に持ち帰るという前人未踏のミッションをクリアしたのは今から十年以上前の2010年6月13日のことだ。

 そして二度目の挑戦、はやぶさ2が2020年12月6日に別の小惑星からまたまた星の欠片を地球に持ち帰った。

 こっちは当時小学生だったとはいえはっきりと記憶に残ってる。


 日本という国はサンプルリターンという技術に関して他の国より一日の長があることは間違いない。


「うん。フォボスの起源を解明するんだ。そもそもフォボスがどうやってできたのかも分かってない。地球の月と同じようにジャイアントインパクトなのか、それとも小惑星帯の天体を捕まえたのか。今のところ有力な仮説はこの二つだね」


 はやぶさは弾丸とサンプラーホーンで試料を採取するのに対して今回の計画ではコアラー機構を使って試料を採取するから全然別のことをやるんだよ、という発言をギリギリでのみ込む。

 はやぶさ2が持ち帰った星の欠片は約5.4グラム――ちなみに当初目標としていたサンプル採取量は0.1グラム――なのに、今回の計画ではそれを超える10グラムが目標となっている。

 専門用語の羅列はご法度と知っていながらそれでも黙ることはできなくてつい喋り過ぎちゃう。


 フォボスでは太陽が出ている時間(≠自転の半分)が2時間半くらいで、バッテリー容量の関係でソーラー発電が可能な昼間の内に採取したいから制限時間が90分という話をしても大丈夫かな。

 はやぶさは両方とも着地と同時にサンプル採取と離陸を行なう機体だったから別次元の技術だと言ってもついてきてくれるかな。


「まぁ私が受験勉強してる間に二年延期になったんだけど」


「そうなんだ。ちょっと残念だね」


「でもなんで二年も? 半年とか一年でも良いのに」


「火星の公転周期の関係じゃないかな。火星と地球ってだいたい二年おきに近づいて離れてを繰り返してるから」


 火星が太陽の周りを一周する間に地球は二周ちょっと進む。

 ロケットに無限の燃料を積める訳じゃないから少しでも火星に到達し易いように発射時期が限られてしまう。今年を逃したら次の機会は二年後になってしまうと言うことだろう。

 あとは通信。

 火星と地球の距離が近い時は光速で3〜4分の距離にいるけど遠い時は20分以上かかる。

 ひょっとしたら光よりも速い何かが宇宙に存在しているかもしれないけど人類はまだそれを利用できる段階じゃない。

 つまり探査機から火星の情報を得て、その情報をもとに指示を送るには()()その倍はかかると言うことだ。

 例えばスマホの反応が二十分かかるなら私はそのスマホを使うことはない。

 火星との距離は反応を少しでも上げるための重要なパラメータになる。


「火星って赤色なんだよね。あれ赤?」


「赤と言われれば赤、……なのかな?」


 もうすぐ夜が明けることを示すように金星――明けの明星(みょうじょう)が出てきた。

 五時前から待機しているけど、ほんの少しの時間でだいぶ明るくなってきたように思う。


 土星も金星のそばにいるはずなんだけど見づらいなぁ。

 でも見えなくはないし、なんとかなりそう。

 望遠鏡の倍率を下げて視野を大きくとる。


 みずがめ座を背景に金星、火星、土星の写真を最近新しく買ってもらったスマホで望遠鏡の視界をパシャリ。

 望遠鏡視野で惑星を三つも収める機会はそれほど多くない。今もあんまり使わない倍率のレンズを使っている。

 特に水星と金星は地球の内側を公転しているから日の出と日の入り周辺のわずかな時間しかみることができない。今の時期の火星や土星も日の出前に出て日の入り前に沈むけど、土星は8月、火星は12月あたりで二〇時くらいに夜空に顔を出して一晩中見ることができるようになる(国立天文台 暦象年表調べ)からそっちの方がよっぽど見やすい。今日みたいに陽も出てない内に出かけずに済む。


「白や青の星と比べれば、ね。顔を上げてみて。あの一番明るい星を見てからもう一度火星を見てみて」


 地平線付近から視線を上に向けると夏の大三角が見える。

 今は春休みだからもちろん冬の星座、春の星座と言われている星座がもっとも見やすい。この、冬や春の星座というのは陽が沈んだ後の数時間に現れる星で構成される星座であって、今みたいに明方なら夏の星座だって見ることができる。

 夏の大三角で一番明るい星はベガ。今は首が痛くなるほどの高さにある夏の星の代表格のあの星と比較すれば少し分かりやすい。


「あー。まぁ違う色だっていうのは分かった」


「私も」


 毎日星を眺めている人にとっては結構分かりやすいんだけど、二人が星を見始めたのは私と関わりだしてからだからそこまで歴は長くない。

 でも、私に付き合ってこうやって早起きまでして一緒に星を見てくれる。ちなみに私の家でパジャマパーティだったからみんな碌に寝てない。

 今日が春休みで多少生活リズムが乱れても大丈夫、むしろ乱してこその長期休暇なんて言ってくれた。


 学校があるとどうしても時間の制約が強くなるけど、休暇中はその反動もあって余計に奔放に動き回ってしまう。


「まあ地平線付近の星は空気の影響で赤じゃない星も赤っぽく見えるけどね」


「朝日が赤いのと同じなんだよね。前聞いた。もうすぐ日の出だね」


「本当だね。いつの間にか結構明るくなってる。さっきまで真っ暗だったのに」


 日の光を入れる訳にはいかないからレンズをカバーで覆って望遠鏡の時間は終了。

 これ以上は危険。失明しては元も子もない。


 地球の自転速度は結構速い。岩石惑星最速で自転しているだけのことはある。望遠鏡を覗いているとすぐに星が逃げていっちゃうし、空が白み始めると一気に明るくなる。

 写真に収めようと思うと手早く準備して手早く終わらないといけない。

 慣れない内は大変だった。


 木星以遠のガス惑星や氷惑星は全部地球よりさらに速く回っているからきっと星空を見る余裕なんてないんだろうなぁ。

 いやそもそも地面って概念が難しいか。土星とか水(地球の密度)に浮くってよくネタにされてるし。


「もう金星しか見えないね」


 夜が明ける。

 太陽と月に次いで三番目に明るい星だから夜が明ける時に最後まで見える星だし、逆に陽が沈む時に真っ先に見える一番星もだいたいは金星のことだ。


「日の出もうすぐだね」


「もうこんな()か……いや待って。まだこんな時間じゃん」


 春分の日が過ぎてどんどん陽が長くなる。

 今日でいうと日の出は六時前だ。


「でも本当に良かったの? 私たちと同じ高校に入学するんだよね」


「? なんで?」


「いや、天文部ないじゃん」


 この春から通うことになる高校は私の兄と二人の姉(のような存在)が在籍しているからそこそこ事情は分かっている。

 お兄ちゃんは私よりずっと星が好きだから部活動の範疇を通り越してここの天文台でバイトをしている。私も手伝ったことはあるんだけど、兄がいる以上そこまで日常的な人手は必要ない。

 イベントなんかでは駆り出される機会もあるだろうけど、たぶんこれから星に関わる機会はどんどん少なくなっていくんだと思う。


「うーん。まぁ別にいいんじゃない? 去年みたいに文化祭が星一色になるかもしれないし、イベント事は普通にやるよ」


 去年お兄ちゃんが文化祭を乗っ取ったのは記憶に新しい。

 いや二年生の出し物が全部星や宇宙をテーマにしたものだっただけで全部がそうだった訳じゃないけど、あの一体感はすごかった。

 もちろんお兄ちゃんだけじゃ手が足りなかったから私も手伝った。


「もったいないなぁ」


「のぞみちゃん、こんなに星が好きなのに」


 まぁこんな早朝(より前)の星見につき合わせといて勝手かもしれない。

 でも、そこは気にしてないんだよね。

 部活も手芸部――雪月さんが在籍中――に入ろうと思ってる訳だし。


「星を見なくなる訳じゃないしいいじゃん。きっと他にも楽しいこといっぱいあるよ」






 この時は強がりでもなんでもなくこんなことを言っておきながら。

 高校に入学して、私は二人のおかげでまた一段と星を見るのが好きになった。



 これはそんなおはなし。

M()artian(火星の) M()oons(衛星) eX()ploration(探査)でMMX、企画の段階では今年打ち上げ予定だったからそれに合わせたのに書いてるうちに計画が延期してしまった……。

NASAの火星サンプルリターンもどうなることやら。

宇宙開発もっと盛り上がって欲しいですね。

何もできないけど応援するために小説書きます!

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