表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/23

蛇足編1 ほうき星と仲間たち

紫金山アトラス彗星が頑張ってるみたいなんで投稿します。

午後にもう一本上げます。

 ドリブル中のバスケットボールを持つと持たないの中間くらいでゴールを見る。

 いけそう、かな。


 バスケットボールは他の球技と比べてボールが重たい。そのため遠くへ飛ばすにはコツがいる。

 女子高生の身で長距離(ロングレンジ)のシュートを決めることができる人は限られている。

 まして素人である私がそれを狙うと考えない。考えても入るとは思わない。


「えっ?」



――ポスッ――



 呆然とするディフェンスの上で弧を描き、リングにすら触れずゴールを決める。

 5人制のバスケなら三点(スリー)だけど今やってるのは3on3なので2-0。

 開幕三秒。最初のゴールで流れは完全にうちだ。








「いえ――い!!」


――パンッ――



 雫歌ちゃん、糸ちゃんとハイタッチ。

 10分足らずの3on3ミニゲームの結果は21-19。

 私達天文部チームがバスケ部チームに見事勝利した。


「あー。舐めてた。認めるよ。後輩連中が勧誘したいって言ってた理由も分かった。身に染みた。結構ガチ目に負かされるって噂は本当だったんだな」


 女子バスケ部の部長さんも敗北宣言。

 三年生は引退しているから二年生だ。


 相手の土俵なので当然こっちに有利な条件を提示した。

 勝因はアップの差。

 向こうはこの試合を練習前のウォームアップ程度の認識で軽い準備運動しかしていなかったのに対してこっちはこのためにガッチリ準備してきた。もちろん他にもファールとか長距離シュートの点数だとか細かいハンデはいろいろもらってる。

 私達攻撃パターンの練習しかしてないから最長でも10分の3on3はとっても都合が良かった。何度かシュートは外したけどそれでもリードは終始天文部チームだった。


「特に天辻だな」


「私得点は一番低いですよ」


 私が5点。糸ちゃんが6点。私達の中で一番背の高い雫歌ちゃんが10点。

 守備? まぁ棒立ちよりは邪魔だったんじゃないかな。ボールの軌道に届かないなら手のひらで相手の視界を遮れば良いって聞いたけど私がマークしていた部長さんはそれをしてもついぞシュートを外さなかった。


「あれができるのウチじゃ私だけだ。正直私が出てなかったらもっと点数広がってただろうよ」


 部長さんは部長さんだけあって特別上手いらしい。部内でミニゲームをすれば部長さんがいるチームが勝つくらいの実力者。

 確かに最初の油断で2点もらったけどそれを含めて私は結局3本しかシュートを決めていない。一回ライン踏んじゃったんだよね。実践だとやっぱり難しいや。


 対して部長さんが決めた点数は両チーム最多の11点。

 マーク相手との身長が全然違う私が徹底的に狙われた。上を抜かれ続けるのはなかなかにストレスだったけど最終的に勝てれば良い。


「試合中に後ろで何が起こってるのか見えてるのか?」


「馴染みない場所だと無理ですけど、この体育館は授業でも使ってるので」


 音の反響でだいたいの距離は分かる。

 わざと死角を作ってそこに糸ちゃんか雫歌ちゃんを誘導すれば得点につながるから前半はやりやすかった。こっちの点数が12,3点を超えるくらいから通用しなくなって焦った焦った。


「はぁ……」


「どうです? ウチののぞみちゃんは?」


 雫歌ちゃんが自慢げに私のプレイを評価する。

 よく分からない。確かにいろいろサポートはしたんだけど今日の主役は雫歌ちゃんのはずだ。


「いや、雫歌ちゃん私の倍の得点とったんだよ」


「確かに海乃も上手かったな。うちの部員にも見習わせたいくらいだ。ただエース運用にしてはやっぱり背が低い。私達には通用しても余所相手ではどこまで通じるか分からん。全く通じないってことはないだろうけどな。宮武含めてなんで全員天文部なんだって悲鳴を上げたい気分だ」


「ボール遊びは昔から得意なので」


 頭のイヌ耳は伊達じゃない。

 残念ながら部長さんには見えないけど。


「なぁ。今からでもうちに入らないか」


「私に天文で勝ってから言ってくださいね」


 事実上の拒否。

 だけどそれを実行したのが私だ。


「あー。じゃあブラックホールってなんだ?」


「? ……あっ、天体じゃなくて重力圏だって話ですか?」


「そうだよちくしょー」


 この学校の生徒、特に上級生はお兄ちゃんの所為でこのレベルのひっかけ問題をノータイムで普通に出してくる。

 今のはちょっと危なかった。

 重力が大きい星、という回答だったら言い負かされていた。


「ま、そういう訳でよろしくお願いしますね」


「文化祭でバスケ部が天文部に全面協力だろ。分かってる。うちの連中もやりたがってるし私も去年は一つ上の一体感を羨ましいと思ってた」


 やっぱりこれが最大のハンデ。

 向こうは負けても良いと思ってる。

 気持ちで負けたら終わりって言葉があると思うけどその通りだ。


「よし、バスケ部の説得完了だね。あと何が残ってるの?」


「これで半分くらいは制覇したかな。運動部は陸上とテニス系が残ってる。ちょっと厄介で勝てる方法模索中」


「一昨日は演劇と野球とサッカーだったよね。昨日は男バスに交じってバスケの練習しかしてないから今日はもう目標達成?」


「うーん。私と雫歌はこれから海外卓上遊戯部にいくけどのぞみは暇だなぁ。来る? ドイツ語読めないと辛いけど」


「あー。糸ちゃん達昨日私がドリブル練習してた時それやってたんだね」


「そうそう。私はある程度読めるから向こうが持ってきたゲームの攻略を一緒に考えてた」


 糸ちゃんに文化祭乗っ取り企画を宣言した後、私達はあらゆる部活に勝負を挑んでは協力をお願いしている。

 夏休み期間中に終わらせないといけないからなかなかのハードスケジュールだ。

 でも動画を2、3紹介されて明日までにできるようになっといては酷すぎると思う。


「最初は全然だったけどなんとか間に合ってよかったよ」


「待て待て。練習1日? それであれができるようになったのか!?」


 私の失言(?)でバスケ部がざわめく。

 完全にゼロからという訳でもないけど授業でやったくらいの下積みしかない。

 それを言ったら部長さんが目の色を変えた。


「宮武糸。取引だ。天辻のぞみを今日、……とそっちが都合良い時で良いからもう2、3日バスケ部の練習に参加させてくれ。代わりに陸上とバド部に勝てそうな案を教えてやる」


「先輩から見て成功率は?」


「私なら半々。でも天辻なら七割くらいでできるんじゃないか?」


「のぞみの出張は文化祭後になるかもしれませんが良いですか?」


「贅沢は言わない。今年度内ならどこだって良い」


「のぞみ、今日の予定決まったじゃん。じゃあ先輩。追加の練習日はまたおいおい連絡しますね~」


「おう、宮武も海乃もいつでも歓迎するぞ」


 速攻で売られた。

 ……天文部の部長は私なのに。






 バスケ部のみんなと汗を流し、帰ってからシャワーを浴びつつ洗濯機にも働いてもらう。

 なんで運動部でもないのに連日体操服を洗濯しているんだろうという疑問はナシだ。

 いや、部活してる人は皆練習着だったから体操服私達だけだったけど。

 靴は体育館シューズを使おうと思ってたけどサイズが同じ娘がいたから試合中はバッシュというものを貸してもらえた。

 その後の練習は体育館シューズでやってたけど確かに専用の靴の方が動きやすかったな。何が違うんだろ。


「どうだった? 楽しかった?」


「まぁね」


 ベッドに寝そべり連日の疲れを癒す。

 このまま熟睡できそうだ。


「他の一年生は練習初日の次の日もれなく筋肉痛だったらしいよ」


「いやここ最近は男子に混ざってたしそれと比べるとやっぱり軽いよ。昨日男バスだったから余計にね。ちょっと身体動かし足りなかったから帰りに走りに行ったし」


「ま、だよね。男子の運動部はこれでもかってくらいハンデくれるからむしろ女子より楽だった。勝負ついでに練習混ぜてもらって対女子の仮想相手もできたから一石二鳥」


 例えば男バスは1on1をベースに私達の防御時(ディフェンス)は二人掛かり(要するに2on1)、攻撃時(オフェンス)は守備なし(なんと1on0)で対戦した。もちろんスリーでハメた。先に二点シュートを撃たせた時点でほぼ私達の勝ちだ。


 男子は同じ条件で良いからもう一度勝負させてと言われることが多く、初見殺しや付け焼刃戦法が何度も通じる訳ないのでだいたい向こうが勝って終わる。

 私が7本目のスリーを外して負けた訳だけど向こうはスイッチ入ったみたいで雫歌ちゃんとダブルチームだったのに全然止められなかった。スリーしか無いと分かっていたのに向こうはむしろ余裕すらあったね。流石に本職の男子には敵わないや。

 私としては文化祭を手伝ってもらうという条件さえ守ってもらえたら構わない。


 あと思いっきり身体を動かすのはやっぱり気持ちいい。

 一昨日は糸ちゃんも野球で千本ノック(実際は百本くらい)の打つ方を楽しそうにやっていた。

 可愛らしい体躯で声が小さーい! なんて誰より大きな声を出してだいぶ気に入られたみたい。

 ちなみに私がやっても糸ちゃんみたいに上手く飛ばせなかったから早々に交代させられた。


「特に何もしなくても勝てる部もあったけどね」


「調理部とかのぞみの独擅場(どくせんじょう)だった」


「いや、卵やバターを常温に戻すのめんどくさがる人達には負けないって」


 オーブン用の温度計を持って行ったら何それと言われたのは記憶に新しい。

 糸ちゃんもアウトドアの部に火起こしで圧勝したりと最初はこっち側の得意分野だったんだけど流石に全部活に挑むのは無茶だったかもしれない。そろそろネタが尽きてきた。バスケ部の部長さんみたいにちょくちょく他の部に通じる弱点教えて貰えなかったらもっと切羽詰まってたはずだ。実は結構応援されていたりする。

 海外遊戯部には負けて、また明日も対戦するらしい。

 向こうは今まで身内でしか遊んでいない、またはそもそも遊んだことのないゲームを消化するのが目的だそうだ。

 ゲームを買ってから一度も遊ばずに積んでるの意味がよく分からなかったけど糸ちゃん曰くそういう世界らしい。

 明日は私もこっちに参加することになった。


「どっちかというと全校生徒と仲良くなるのが目的だからね。少なくとも夏休み毎日学校に来るような行動的な人は全員顔を合わせておきたい」


 本気で文化祭を乗っ取るつもりなんだなぁと感心する。

 うちの高校の文化祭は九月の終わり。夏休みを除くと準備期間は一か月程度しかない。

 そりゃあ確かに乗っ取ろうって言ったのは私だけど、手段も何もない思いつきを実現させることができるなんて誰が思おうか。

 というか乗っ取るの今年だったんだね。来年の文化祭を見据えて今年から行動していけたらいいな程度だったのにあれよあれよという間に現実味を帯びてきてしまった。

 現時点でもある程度実現できてしまう。


「まさかこんなに順調にいっちゃうなんて」


「計画自体は前から練ってたもん。のぞみは文化祭のテーマでも考えながらどっしり構えといて」


 いや、部活対抗戦に一番駆り出されてるの私なんだけど。

 大将と一番槍の両方をやってる感覚になってるんだけど。

 良いけどね。頼りない部長よりずっと良い。


「やっぱり彗星(すいせい)かなぁ」


水星(マーキュリー)じゃなくてえっと、ん?」


彗星(コメット)


「そうそうコメット。コメットの方だよね」


 文化祭で人手が集まりつつある。

 糸ちゃんのおかげだ。


 そして天文部が提案するメインテーマだけど、雫歌ちゃんがすごく彗星を推していて、その気持ちはすごく分かるしたぶんそれになるんだろうなぁとは思ってる。

 対抗馬の新星って地味だしちょっとね。

 私も今年撮った彗星の写真がある。


「彗星ってそういえばどんな星? 尾があるくらいしか知らないや」


「良い質問ですね」


「……」


「……」


 原始の時代から人は常に星を見てきた。

 ただ、学問として庶民に定着してからの歴史となると実は結構浅い。そして急速な観測技術の発展により知識の共有より新発見のペースの方が断然早い。

 私だって実験結果をまとめるより実験そのものの方が好きだし人の研究を見ることだってあるけどそれを一つ一つ定義づける作業は大変だろうなと思う。


 まぁ何が言いたいかというと、だ。


「それ衛星の時にも聞いた。()()()()やつ」


「まぁそうなんだけど、コマが見られると彗星かな」


 国際天文学連合(IAU)が彗星と言えばそれが彗星だ。

 衛星も似たような感じ。


「こ(れ)マ(ジ)?」


「天体が太陽光を受けて表面物質が揮発して天体だけじゃなくてその周りもうすぼんやり光って見える天体のことだよ。コメットの語源はコマからきてる」


「……今地球のこと言った?」


「将来彗星の定義が決まったら惑星は除く、ってなるだろうね」


 実際ややこしいのだ。

 発見時は小惑星、今は彗星なんてざらにある。

 そもそも水みたいな分かりやすい揮発物質は地球付近まで来てくれないと揮発してくれない。

 今でも未発見な小天体は遠くにあるか小さいか、太陽光の反射率が極端に低いか、何かしら見つけづらい要因がある。

 それにコマがあるかないかなんていちいち確認してなんかいられない。そもそも太陽系にある小天体は数えきれないほどある。


「例えば『♩』(こんな)感じの彗星とその尾があるとするじゃん。どっちに進んでるか分かる?」


 せっかくだし糸ちゃんに彗星について知ってもらおう。ノートを取り出してお絵描き。黒丸が彗星の本体。

 上に伸びる棒は尾を表した図を糸ちゃんに見せてすっごく意地悪な問題を出す。

 どのくらい意地悪かというと、この問題には正解がない。


「え、(した)だよね。いや待って。そう訊くってことは下じゃないの!?」


「下の可能性もなくはないけど下の可能性が一番低いよ」


 バレてしまっては仕方ない。

 ちょっと残念とか思ってない。


「実はこれだけじゃどっちに進んでいるか分からない、が正解なんだ。糸ちゃん、彗星の尾がどうしてできるか知ってる?」


「知らない。考えて分かるやつ?」


「うーん。地球にいると難しいかも」


「えぇー。やっぱり宇宙人だったかぁ」


「いや、私も考えて辿り着いた訳じゃないから。ごめんね。確かにそう考えると自慢できるほどの知識じゃない」


 ん?

 やっぱり?


 糸ちゃん普段私をどういう風に思ってるんだろうか。そりゃあ普通の人には見えないイヌ耳と尻尾を持ってるけどそれは糸ちゃんだってネコ耳を持ってるんだから一緒。


 だいたい宇宙人って何?

 宇宙に住んでるの? 言いたい内容を正しくくみ取ると異星人じゃない? 仮に人型の地球外生命がいたとしてどこかの星に住んでたらその星の、○○星人になる訳でしょ。その星は宇宙にあるかもしれないけど地上にいる限り()()人じゃないじゃん。それとも真空の宇宙空間そのものに住んでるとでもいうんだろうか。いや待って。母星が既に住めない環境になって宇宙船で旅をしているなら宇宙人と言っても……


「思考が脱線してどうでもいいこと考えてるよね?」


「彗星の尾って太陽風に彗星の欠片が吹き飛ばされてできるんだよ。だから進行方向とは関係ない。いや、ちょっとだけ関係あるやつもあって尾が二本になることもあるんだけど、尾が一本ならそれは太陽と反対側にあるんだよ。もう一本も軌道の影響受けるけどほぼ同じ方向」


 糸ちゃんに思考を突っ込まれたので即座に打ち切って知識で圧倒する。


 流石に尾が伸びてる方向に進むことはないけど真横に進んでいるとかなら普通にあり得るのが彗星だ。

 彗星の尾はひこうき雲みたいに自分が一瞬前にいた場所に現れるものとは違う。


 尾ができるのは太陽の反対側。

 磁場で守られている地球ではフレアでも発生しない限り意識しにくいけど太陽からの風は非常に強い。

 例えば火星にはその昔、表面に豊富な水、それこそ海があったと考えられている。火星に磁場があった時は問題がなかったけどそれがなくなり、やがて太陽風が火星の海を吹き飛ばした。


 海を吹き飛ばせるんだから彗星表面の塵やイオンを吹き飛ばすくらい訳ない。

 そしてそれは地球から肉眼でも確認できるほど大きな天体ショーとなる。

 尾は軽いイオン(気体にさらにエネルギーを加えた状態)と重い塵(要するに固体)で二つに別れ、それが両方とも見えるならもう大彗星だ。


「誤魔化してる気配がする」


 その通りだけど認めるのは癪だ。

 なんとかしてこのまま押し切りたい。


「尾と反対方向に進んでるってことは太陽に向かって一直線で進んでるってことなんだよ。だから可能性低いって話」


 わざと飛躍した論理で隙をつくる。

 これで糸ちゃんが引っかかってくれれば……。


「バレバレ。でもいいよ。なんで太陽に一直線だと可能性低いの?」


 駄目だったか。

 なんかこう、人間としての格の差を見せつけられたような気がする。


「だって太陽系ができて50億年だよ。もうその軌道の彗星は全部太陽に飲み込まれちゃってる。それがなくても太陽に向かうのは難しいのにね」


 一応今でもサングレーザーと呼ばれる彗星は太陽に向かってるように見えるくらいの軌道を持つけどそれでも太陽に厳密な意味でまっすぐ進む軌道なんて聞いたことがない。


「え、そうなの? だってみんな太陽に向かって落ちてるんでしょ」


「糸ちゃん。太陽にロケットをぶつけるのって冥王星にロケットを送る倍くらいエネルギーいるんだよ」


「うっそ!? え、ホントに? え?」


 混乱してる混乱してる。

 地球から太陽までの1auを詰めるより冥王星までの40auの方が簡単なことが直感的に分かりづらいんだろう。


「地球の公転速度知ってる?」


「あーそういうこと。公転速度は知らないけどもう言いたいことは分かった」


 糸ちゃんそればっかり。

 まぁ具体的な数値は関係ないか。これは慣性を知っていれば分かる。


「ロケットには地球の速度がそのまま乗ってる。そのまま打ち上げるだけなら地球と同じ軌道を回るだけ。それを加速させて地球より外側、減速させて地球より内側に行くんでしょ」


「……」


「正確には違うんだけどなぁって顔?」


「地球から直接送る場合はそうだけど実際は違う場合もあるからどう答えようかなって顔。太陽に飛ばすために一回木星経由することもあるから」


 例外なんていくらでもある。

 正解なんて一つじゃないし、正解に辿り着く道となるとさらに多く無限と言っていいほどある。


「あぁ、例のスイングバイとかいうの。木星の地球質量いくら?」


「317」


「意外と小さい」


 地球の300倍以上の重さを軽いと言えるスケールは恒星になる。

 むしろ地球が意外と重たいと言うべきかもしれない。

 糸ちゃんもだいぶ宇宙スケールに馴染んできたようだ。あとは惑星用の物差しと恒星用の物差しを使い分けるだけ。


「そりゃあ、大きかったら太陽系第二の恒星になるからね」


 その300倍の重力を使って太陽に向かわせた探査機がある。

 日本の探査機じゃないから有名じゃないけど他の国の探査機だって面白いのはいっぱいある。


「ちなみに木星の重力に捕まった彗星も結構あるよ。木星族彗星って感じでまとめられてる」


「あー。ハレ―彗星とか?」


「え、っと……。ハレー彗星はハレー型彗星なんだ。木星族と対比させたかったら海王星族って呼ばれてるね。この辺厳密な定義難しいから文化祭向きではないかも」


 彗星の尾くらいならもう少し簡単に説明できるとは思うけど細かいとこ拘り過ぎるとお客さんに楽しんでもらえない。

 調整が難しい部分だ。

 どうしても知ってほしい知識が専門的過ぎる。


「来年でも良かったかなぁ」


「文化祭のっとるの?」


「そうそう。ちょっとしっちゃかめっちゃかだし、実際に一学期と比べようもないくらい今忙しい訳じゃん。私達だけじゃなくて天文部の皆まで巻き込んでさ」


 放課後ワイワイやるだけの部活が毎日必死に活動するガチ系の部活になってしまった。今はフルメンバーがフル稼働してる。

 そりゃあやるって言った時に反対する人はいなかったし今はまだ士気も高いけどこれが一ヶ月もつのか不安になる。


「これは持論なんだけどさ」


「うん?」


「一ヶ月やってできないことは一年やったってできないよ」


「……」


 真剣な声になった糸ちゃんに反論できずに黙り込んでしまう。


「私、里では一番時間があったけど何かできたのは期限があったものだけだよ。しかも期限破ってもノーペナならやってない」


 そうだろうなとは思う。

 立ち止まってしまってからもう一度走り出すのは骨だ。


「ま、難しいこと考えずに目の前のことやってこ!」


「はいはい。だからって今度は倒れるまで頑張らないでよ」


「分かってるよ」


本当(ほんとー)に分かってる?」


「分かってるよ。私が倒れたらこの企画立ち消えることになるもん。倒れるのだけは絶対ダメ」


 おっと。

 思ってたより悪化している。


「そんな責任感じなくても良いんだよ?」


「責任というか、事実でしょ?」


 当然のことのようにあっけらかんと言い放つ。

 事実かどうか問われると事実だけどそれを念頭において活動するのは違う気がする。


「いや、今まで消費型だったし生産型の活動が楽しすぎてすぐ寝食(しんしょく)わすれそうになるから……」


 目を逸らされた。

 でも思ってたよりマシかな。


「大丈夫、他の皆だって好きでやってるよ」


「だと良いな」


「天文部だけじゃなくて協力してくれる他の部だってそう。だから私たちの役目は止まらずに突っ走ることなんだよ」


「まったく。……無茶はさせないからね」


「大丈夫。今回はそれも込みで頑張るから」


 本当に大丈夫かなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ