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20/23

のぞみの仲間

 自分以外の天文部全員を相手に星を見ながら観望会のスタッフのように説明をしてもらった。

 最初は緊張するだろうけど実は絶対に話題が被らない一番手が一番気楽。それでもやりたがる人はいないかったから勝手に糸ちゃんに決めた。

 誰とも被らないようにって言ったら月食時に月から地球を見るとどうなるかを説明。計都(けいと)が好きなんだなぁって。

 ちなみに地球の輪郭が赤く見える。


 課題を出したのはつい三十分前。沖縄観光で遊びきった部員たちにこれは合宿だという現実を突きつけた。

 一人1~5分の持ち時間で星空を案内してもらう。

 ちょうど円形の穴のような椅子があるので円卓はないけど円卓会議のように並び、時計回りに一人ずつ順番に語る仕組みだ。

 後ろに手がつけるので真上の星だって楽々見ることができる。もちろん糸ちゃんみたいに見えていない星を案内してもいい。


 実は私が星空案内人になる時、講義が終わった後に時間が余ったからその時いた人達で部屋のプラネタリウムを使い同じことを即興でやった。

 もちろん全員が全員星に詳しいかというとそうではなく、夏の大三角みたいに誰もが知る星を説明する人も多い。けど、お兄ちゃんみたいに自分の知識を披露するチャンスを逃すまいとする人も多かったので簡単なものもいくらかは最後まで残った。

 ちなみにそのときの私は無難(私基準)にいて座A*(エースター)を紹介。我らが天の川銀河の中心に位置する巨大ブラックホールだ。



 今日は天の川が綺麗だから一番人気はやっぱり織姫と彦星だった。

 織姫のお父さんは天帝だとか、彦星の中国での呼び名は牽牛(けんぎゅう)だとか、一人では語り切れない物語を七夕は持っている。


「あの彦星の別名を知ってる人っている?」


 全員が話し終わって最後に私。

 絶対被らないという自信がある。


 これがどマイナーというのもあるけどそれだけが理由じゃない。


「平安時代の辞書、漢語を当時の日本語に訳した和名類聚抄だと、牽牛は比古保之(ひこぼし)だけじゃなくて以奴加比保之(いぬかいぼし)とも訳されていたんだ」


 ざわっ


 全員が息をのむのを感じた。


 犬の話。

 私が犬を好きなのは全員が知っている。さらに星にまつわる犬の話に碌なものがないのは糸ちゃんがもう共有してくれている。

 だからあの悪夢の再来を予感して部員達が身構えるのも仕方ない。『のぞみ』の件は迷惑かけた。


 でも、その垣根を無くしたいとだって思ってる。

 これも全然良い物語じゃないけどこのタイミングがきっと最適だ。


「あるところにとても綺麗な天女さんがいました」


 主人公の犬飼が天女に一目惚れしたところから物語はスタート。

 犬飼は天女が空に帰れないように羽衣を隠してしまった。


 そして天女を嫁に迎え、月日が経ち、結局羽衣が見つかって天女は空へ帰ってしまう。


 諦めきれない犬飼は、夜明けまでにわらじを100足作って土に埋めてそこにヘチマの種をまく、という助言に従ってそれを試みる。

 でも一晩では99足しかできず、仕方なしに1足()りない状態で実行。


 するとヘチマの種がぐんぐん伸びたので、犬飼は犬と一緒にヘチマの蔓を足場に天へと昇っていく。

 だけど天界までもう少しというところで蔓が成長をやめてしまい、届かない。


 その時、もう1足わらじを作っておけばと後悔する犬飼を飛び越え、先に天界へと昇った犬が犬飼のために尻尾をたらりと垂らす。


「いや待って。もう嫌な予感しかしないんだけど」


 糸ちゃんの若干怯えたような静止を振り切り、言葉を続けた。


「そして尻尾を掴んでギュッッッッッッッッッッッ!!!!!」


「「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!」」


 動物実験のネズミを一発で〆r……安楽死させる方法を知っているだろうか。

 いろいろあるけどこの流れから最初に思いつく方法はその一つで間違いない。


 そう。尻尾を思いっきり引っ張るのだ。


 雫歌ちゃんと糸ちゃんの大袈裟な叫びにビクッとした部員一同に注釈を入れる。

 絶対犬の尻尾を引っ張らないで。


 少々不自然なほど騒がしい気もするけどちょっと前にやらかしたばかりの人間には甘すぎる対応。


「まぁ痛みに関しては大丈夫だよ」


「確かにそういうお話って言われたらそうなんだけどさぁ。いちいちツッコミ入れてもしょーがないってことでしょ」


「そうじゃなくて、たぶん頸椎脱臼して即死だよ。痛みを感じる暇ない」


「ますます駄目じゃん!!」


 頭を固定してないから微妙なとこだけど慣性でたぶんそうなる。成人男性の体重を尻尾で支えるとか正気の沙汰じゃない。

 でももともとふわっとした話なんだし深く考えなくて良い。そういうのは別の人の役目。


「と言う訳で、天に昇った二人、天女さんは織姫星に、犬飼は彦星になりましたとさ」


 笑いながら語りかける。

 もう大丈夫だよと伝える。


「こういうのって当時の倫理観でお話が作られてるから現代(いま)だとモラル崩壊してるっていうの当たり前のことなんだ。だから逸話を語る時は原典知ったうえでアレンジしてみるのもありだよ」


 実をいうと犬の扱い自体はおはなしということもあってそれほど酷くない。酷いのは犬飼の方だ。

 なんて、ちょろっと私の私見が混ざっちゃったけど無事に終了。

 ちゃんと立ち直ったことを証明した。

 できた。







「「おつかれさま!!」」


((ぎゅぎゅっ))


 両側から糸ちゃんと雫歌ちゃんに距離をゼロにされてちょっと窮屈。

 でもありがたいな。

 平気だと思ってたけど意外ときつかった。皆の前では平静を保てたと思うけど、三人になったとたん弱さが出る。


 観望会が終わって流れ解散。

 どうせ私達が最後だから最終チェックとかも買って出た。


「もー、あーつーいー」


 そう言いつつも二人を抱き寄せる。

 二人のフォローがこの程度ってことは成功ってことで良いんだよね。


「まぁまぁ。せっかくだから私達もコイバナでもしよっ。宿組もしてるし」


「全員恋人いないのに成立する?」


「雫歌、夏休み前に告白されてたじゃん。なんて応えたの?」


「なんで知ってるの!?」


「むしろなんで知らないと思ったの。私達、有名人だから隠し事なんて無理だよ」


「あ、私もなんだ」


「当然。のぞみが自販機で大量の小銭を出されて困ってたことは一日で学園中に広まったよ」


 十円玉が45枚出てきたことを思い出してしまった。

 お釣りの取出口って狭いから蓋がつっかえて取るの大変だった記憶がよみがえる。

 せっかく封印していたのに。


 銀行で大量の小銭を気軽に両替できなくなった弊害が巡り巡って私のところにきた。

 もう二度と自販機で買い物はしない。したとしてもお釣りが出るような買い方はしない。

 でもその日やたら十円玉ほしい人と遭遇したのが偶然じゃなくて少しくすぐったい気持ちになる。


「でも私糸ちゃんの噂知らないよ」


「二人はもっと交友関係広げても良いんだからね」


 ふぃっ×2


 糸ちゃんから顔を逸らしたら既に背けている雫歌ちゃんの顔があった。

 必要な事柄だったらクラスでもよくしゃべる方だと思うけど、こと雑談に限って言えばその相手は雫歌ちゃんになる。

 考えてみれば私糸ちゃんの噂を聞けるほど仲良い子いないかも。

 なんというか、浮いているというより敬われてるといった感じで距離を取られてもーいいや、ってなったんだよね。


「で、なんでフっちゃったの?」


 あ、結果も出回ってた。

 そっかフったんだ。


「いいでしょ別に」


「良し悪し聞いてる訳ないじゃん。雫歌がフったから相手の素行調査もできないし」


 恋愛かぁ。

 そこまで得意な話題じゃないからいっつもお兄ちゃんを楯に躱してたんだよね。


「はぁ、女子高生が三人もいて色恋の話がこれだけとは」


 糸ちゃんもないようだ。

 人のこと言えないじゃん。


「私さ、高校入ったら自然に彼氏できるもんだと思ってた。雪従姉(ゆきねえ)みたいに」


「今の時期だとまだお互い存在を認識している程度の関係だったよ。近くなったのは夏休み後半、もっというと中秋の名月からだね」


「他人事みたいに言ってるけどのぞみはそこんとこどうなの?」


「あ、私も気になる」


「えぇ……。私に訊く?」


 答えなんて分かりきってる。

 私自他共に認めるブラコンだよ。


「そうだった。のぞみの(ごう)忘れてた」


「業て。そうはいうけど実際のとこお兄ちゃんよりいい男いる?」


「「……」」


 二人して押し黙るしかないくらいには反論の余地がないらしい。

 いや、彼女いる点が大きなマイナスだと思う。


「今後のぞみを射止めるつもりの人は文化祭を乗っ取るかそれに準じる実績が必要、と。ハードルがえげつない。合掌」


「こっちのクラスにはいないかなぁ」


「私のクラスにだっていないよ」


 どう反応すれば良いか分かんないな。

 今まではこうやって好きな人いませんよと女の子政治を乗り切ってたんだけどお兄ちゃんに箔がつき過ぎて信憑性が増してしまった。

 それは構わないんだけど、この、周囲の人間のレベルが低いですって空気は好きじゃない。興味持てない私も悪いかもしれないけど話題を変えよう。

 私たちにコイバナは無理だった。今度雪月さん参加させて惚気話でも語ってもらって女子高生を磨くとしよう。


「ねぇ」


「ん?」


「どうしたの?」


 せっかく文化祭というワードが出たんだ。

 このタイミングで切り出そう。


「やっぱり文化祭、私たちで乗っ取ろっか」


「よしきた」「もちろん賛成!」


「一人じゃたぶん無理だからいろいろよろしくね」


「知ってる。『のぞみ』ちゃんは一人になっちゃ駄目」


 目が合って、やたら力強く言われた。


 なるほど、ね。

 一人だと駄目。その通りかもしれない。


 孤独な私には何も成せはしない。

 なんか無敵な気分だ。どれだけ多くのことができようと、どれだけ人と違うことができようと、私はのぞみだ。誰かと一緒じゃないと夢は見れない。


 雫歌ちゃんはまめだから調べてくれたんだろうなぁ。

 火星探査機『のぞみ』の失敗の原因の一つに考えられているのは、『のぞみ』が一人ぼっちだったから。

 結果論だけど双子にして機能を二つに割り振れば良かった。それができなかったのは単純に予算の問題。

 そこをクリアできず探査機を一つしか作れなかったから、『のぞみ』は生まれなかった双子の分まで観測機器を詰め込まれた。



 そして、知っての通り『のぞみ』の小さな機体(からだ)ではそのミッションを背負いきれなかった。



 糸ちゃんにも言われちゃったなぁ。

 私は一人では生きていけない。いろんなことができるからって全てができる訳じゃない。


「そうそう、のぞみは意外とポンコツなんだからフォローしないと」


「だね。のぞみちゃんもちゃあんと人間だったんだなぁって安心しちゃう」


「ちょっと!!」


 言い方に悪意がある。

 糸ちゃんもだけど雫歌ちゃんだってよく聞くと私を人間扱いしていない。


 でも良かった。

 二人が協力してくれるならできそうな気がする。



 空を見上げて、流石にそろそろ帰らないといけない時間だと分かってしまう。

 石垣島ということでいつもの空と緯度経度がずいぶん違うけど時間経過で北極星を中心に回転する角度は一緒。

 誤差十五分以内で当てれる自信がある。

 名残惜しいけどそろそろ宿に帰らないといけない時間だ。



――楽しい高校生活が待っていますように――



 ふと春休みに三人で人工衛星の流れ星にお願いしたことが頭を(よぎ)る。

 一学期、二人がいなかったら楽しいと振り返ることはできなかった。

 願い事、叶ったかな。叶ったよね。それともまだまだこれからだろうか。


「明日も楽しもうね!」


 明日も明後日もその次も、二人と一緒ならきっと楽しい日々が待っている。

 いつかその日を振り返った時に笑顔で語り合える時が来ますように。

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