ラノベって口絵のために無理矢理水着にするとこあるよね
水着は糸ちゃんが責任をもってオタク受けするものを選びました。
「うーみだー!!!」
「ネコって水が苦手なんだよ」
「人間もあんまり得意じゃないしね」
「二人とも、海に来たら海だって叫ばないといけないって法律で決まってるんだよ」
「ホント? 逮捕されちゃうね」
「ね」
「ふ〜た〜り〜と〜も〜!!」
「はいはい」
「じゃあ叫びますか」
(((せーのっ)))
「「「うーーみだー!!!」」」
大量にあったはずの部費が一発で消えた。なんなら足が出た。
いやあ、合宿って場所を選べばお金かかっちゃうねやっぱり。
今年は創設初年度ということでご祝儀予算だったからできただけ、来年はガクンと下がるはずだから次は近場かな。
「七月に急遽決めた合宿なのに夏休みに沖縄の宿って普通とれる?」
「そこはまあコネで」
「新設した部のコネとは?」
「そこは考え方が逆なんだよ。コネを持ってるから私が部長に選ばれたの」
「そうだった」
やってみたらできちゃった。
そこそこいるとはいえまだまだ部の人数が少なく身軽に動けるのは利点だ。
あと沖縄というネームバリューは強い。
夜は星見で昼は普通に観光すれば良い。昼過ぎに到着してそのまま海水浴だってできた。
「結構頑張ったんだよ。これが私の本気」
「いや、凄すぎて吃驚だよ」
「私、石垣島と西表島がこんなに近かったことすら知らなかったよ。あと本島からだいぶ離れてることも」
そこは私だってここを介して知った。
沖縄、それも石垣島にしたのは星見の聖地だから。
DarkSkyという国際的な団体があり、世界中の星空が綺麗な場所を星空保護区として認定している。
いつか来たいと思ってた。最初に訪れる星空保護区はここが良い。
「なんで沖縄にしたの? 沖縄以外にも星空保護区はあるんでしょ」
日本の星空保護区は現在4つ。
2018年3月、日本初の星空保護区が沖縄に生まれた。
西表島と石垣島を含めた周辺の島々およびその海域の西表石垣国立公園だ。
次に認定された場所はなんと東京都。
太平洋に浮かぶ離島の1つ、神津島だ。
都心部から南へ約180kmに位置する伊豆諸島の島の1つ。私達がイメージする東京から船で四時間、さらに飛行機で三十分かかる。
3つ目は島じゃなくて町。
岡山県の井原市にある美星町は日本で初めて光害防止条例を制定したところ。町や市といった自治体として星空保護区に認定されたのは美星町がアジア初だ。町の名前も素敵。
最後は去年の八月に認定された福井県大野市の南六呂師。
経ヶ岳の麓に広がる高原で、2005年に環境省から日本一美しい星空に選ばれた場所らしいけどそれだけじゃ足りず、そこからさらに地元の大学と大企業の努力によってようやく申請、認定された場所だ。
この4つのうち、沖縄を選んだ理由は簡単だ。
「だってお兄ちゃんは高一の時に来たんだよ。なら私も行かないと嘘じゃん」
「……むしろその時ついていかなったのを褒めるべき?」
「雫歌、のぞみを甘やかしすぎてない?」
女子中学生と男子高校生の差はすさまじく、当時の私では非常に残念なことにお兄ちゃんについて沖縄に行く許可が下りなかった。未成年は親に逆らえない。いや、誰もが両親の肩を持って当然の行動だったとはその時の私でさえ思ってた。
それでも悔しいから今回はお兄ちゃん呼んでな……受験生の夏休みを奪うのもあれなので、参加メンバーは天文部員のみだ。お兄ちゃんは名誉顧問みたいなものだけど正式な部員じゃないからナシ。
「ところでさっきから気になってたんだけどさ」
「?」
「月の見えないはずの部分見えてない?」
今日は三日月で日の入り前にもう見える。
結構細長いんだよね。実は超正確に定義すると、月齢は新月の時にゼロになるけど太陰暦では新月が一日だから三日月というのは月齢2のお月さまのことになる。
クロワッサンの語源が三日月とはよく言われるけどあれは"三日月"と比べると随分丸い。でもそんなこと言ってクロワッサンの大きさが小さくなってしまうのは作る時だろうが食べる時だろうが嫌なのでこの知識は胸に秘めておく。
閑話休題。
見えないはずの部分、太陽光にあたっておらず月が夜になっている部分のことだろう。
「えー。月は自分で光らない星なんだから太陽に当たってない部分は見えないってー」
少し棒読みが過ぎた。
でもわざとらしく言わないといけないから難しいな。
「絶対知ってる! その言い方絶対理屈知ってるヤツ!」
「まぁまぁ、ちょっと考えてみてよ。そう難しくないから」
空に目を慣らす前哨戦として、私も月の夜の部分をみてみよう。
ホントは夏より冬の方が見やすいんだろうけど糸ちゃんが見えるというならきっと今日は見える日だ。
「太陽光、じゃないよね。それは光ってる方なんだから」
「でも太陽系って太陽以外に光源ないよ」
「じゃあ系外? 砂漠とかだと天の川で影ができるって聞いたことあるけどその程度だよ」
「影? 月でもできるって雪従姉に聞いた気がする。金星は?」
「金星もできるとは思うけどそれが月の夜を照らせる?」
「だよね。金星も自分で光ってる訳じゃないしもっと近くから照らさない限り……」
そこで二人は気付く。
太陽光の反射率では金星に及ばないけど、金星よりずっと月の近くにいる星が存在する。
月から見て一番近くにある星、すなわち
「「地球だ!!」」
「正解。現象の名前もズバリ地球照だよ」
太陽の光が地球に届き、反射して月の間接照明となる。
その光が月で反射して地球に再び届き、私たちの目に入ると月の夜側の部分も見えるという寸法だ。
「金星って雷鳴るしイオも火山活動とかあるから厳密には太陽以外の光源あるっちゃあるけど誤差。やっぱり太陽系の光源といえば太陽だよ。人工光じゃない限りどのルート通って私たちの目に入るかが違うだけ」
「そりゃそうだ」
「地球の方が大きいし迫力ありそう」
「確かに。月でお地球見したら楽しそうだね」
「地球は月より反射率が三倍も大きいからすっごく明るいはずだよ。見かけの面積は地球からみた月の13~14倍くらい。でも月の感覚は捨てた方がいいね。例えば月の出ならぬ地球の出が見れるのってほんとーに限られた一部地域だけなんだよ」
「そうなの?」
「そうそう。月から地球を見れる場所ってどこだと思う?」
「そんなのどこでも……あ~、表面だけかぁ」
「え、え? どういうこと?」
月は地球にいつも同じ面を向けている。
だから、地球から見える場所では地球を見ることができるし、逆に地球から見えない場所だったら月でも見ることができない。
地球から見た月と同じイメージではありえない、同じ位置にいる星。それが月から見た地球だ。
地球の出が見たかったら人工衛星からの写真が一番分かりやすい。
「北極星以外にそんな星があったとは」
「地球イメージだと調子狂うよね」
糸ちゃんに納得してもらい、改めて神秘を感じてもらう。
「というかそれなら地球の出ってないはずじゃ? 月はずっと同じ面を向けてる訳でしょ」
「それがちょっと違ってね。ほぼ、同じ面を向けてるんだよ」
同じようで全然違う言葉。
月がいつでも完全に同じ面を向けるまであと500億年かかる。
だけどその前に太陽が赤色巨星になって吹き飛ばされて宇宙空間をさまようことになると言われてるからその時は来ない。
「いやいや、ちょっとでもズレてたらどんどんズレていくじゃん。ぴったり同じ以外にそんなことできるの?」
「ズレるっていうかブレるんだよ。月の重心って地球に影響されて中心位置から離れた場所にあるから地球中心にブレる感じ」
別におかしな話じゃない。
地球だって地軸がブレているからいつか北極星が北極星じゃなくなる時がくる。非常にゆっくり、26000年かけて一周し元に戻るくらいのスピードで人の身だと実感が厳しい時間スケールだ。
「あー。遠心力で向こう側いっちゃう感じかー。公転してるもんね」
「え? あ、ごめんごめん。月の重心は地球方向にズレてるよ。遠心力は関係ない」
月は地球の周りをまわっているというよりどっちかというと地球に落ち続けているだけ。
だから遠心力は働かずにその重心は表側、すなわち地球に寄っている。
「・・・・・・。そっか。そうなんだね」
思案顔が終わってとっても良い笑顔が返ってきた。
でも付き合いが長いから分かる。
これ別に分かった訳じゃない。
「今理解を諦めたでしょ」
「結果は分かったよ。月が地球に向ける面はちょっとだけブレる。だからそのブレ部分の地域だと地球が地平線から出たり入ったりなんでしょ」
そうだけどさぁ……。
「んー。ならその地域じゃ地球は地平線付近にしか来ないね。そもそも地球の位置が動かないことが普通なんだからそりゃそうなんだけど」
あってるけどさぁ……。
「と言う訳で原理の解説は雫歌か雪従姉にお願い」
「もう聞いたよ。潮汐ロックだって」
雪月さんも既にお兄ちゃんから聞いている。
いや、ここで無理やり押し付けて星を嫌いになられても困る。
それに原理だけじゃなくて糸ちゃんが言う結果だって面白いことばかりだ。
むしろ原理が分かってないことも多いし説明を省けると考えると非常に楽だ。
「地球基準があてにならないこといっぱいあるよ。水星の磁気の赤道は球の赤道よりだいぶ北にあるし、金星は西から昇ったお日様が東に沈むし、火星の夕焼けは青いし、天王星は赤道付近でも白夜極夜になるよ」
実は太陽系基準で考えるのも視野狭窄なんだけどまずは系内の神秘をある程度は解き明かさないと始まらない。
かくれんぼの鬼は子が隠れている可能性の高いところから順に探していくのが基本だ。
可能性を絞り込めもしないのにあらゆる場所を探索なんてできやしない。宇宙は広すぎる。
相対性理論だってまずは(比較的)簡単な特殊の方を学んでようやく一般に手を出せるようになる。
「さて、じゃあそろそろ観望会の準備をしますか」
流石に沖縄の天文台主催の観望会は駄目、ではなかったけど遠慮した。そんなのはなくても星は楽しめる。というか多分私が知ってることの方が多い。お兄ちゃんがこの地に足を踏み入れたということはそういうことだ。流石に研究者には負けるけど、今回沖縄に来るにあたってそれなりに調べたからこの二年にあったことだってそうそう引けはとらない。
観望会に適した場所は事前に聞いておいたから問題なし。望遠鏡も自前のと天文部で購入したものを持ってきている。双眼鏡もお兄ちゃんから借りた。
観望会は行かないけど明日の午前中は天文台を見学させてもらう予定。
またあの里で見たような満天の星を見ることができると今からワクワクが止まらない。
照明は一応目に優しいものを用意したけど月明りがちょっとあるしたぶん点けない方が安全。月が沈んだら観望会終了だ。そうしたらスマホのライトでもなんでも点ければ良い。
そろそろ他の部員も呼んでないとね。私が出した課題にひぃひぃ言ってるはずだ。今日は観光だけだと思って油断してたところにぶん投げて反応を見るのは申し訳ないが楽しかった。




