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対等じゃない

すみません。これ昨日の分です。今日の分はまた今日中に投稿します。

 学生としての本分は何かと問われれば勉強と答える人が多いだろう。


 それは大学受験に必要な科目の学習以外にも社会性を身につけるだったり、スポーツか何かに打ち込む経験だったりを指すこともあると思う。

 でもそれは授業を疎かにして良い理由にはならない。


 と言う訳で中間試験を間近に控えた休日のこと。

 試験期間だから天文部もお休み中――個人の活動はセーフ――だから大人しく勉強することになった。


「お邪魔します」


「どうぞどうぞ。何かつまめるもの持ってくるね」


「お構いなく、って言いたいところだけどのぞみちゃんのお菓子とっても美味しいから頂きます」


「はーい。ちょっと待っててね」


 雫歌ちゃんを家にお呼びして二人で試験勉強をすることになった。春休み以来かな。

 あの時は糸ちゃんもいたけど今日は不在。クラスの友達と遊びにいってる。


「試験勉強? こ、今回はパスするよ。私は外交担当だから内政は任せる。何か大きなイベントする時は外部の協力が不可欠。そのためには普段から交流しておかないと信用も何もないじゃん。何ができて何をしたいのか、お互いにそれを知っておきたいの。だから私が遊びまくっているように感じるかもしれないけどこれは必要なことなの」


「うん。私の目を見てもう一回言って」


 正直結構助かってるから何も言わないけど、成績自体は親御さんに伝わること分かってるのか時々不安になる。

 私がかばえる範囲ってそこまで広くはないんだよ。

 そんな感じで勉強したくないという負の欲求に従った糸ちゃんを見送ったのが今朝の話。

 一応名目上は糸ちゃんも勉強会らしいんだけど、糸ちゃん曰く勉強会で勉強するのは私や雫歌ちゃんみたいに元からできる人だけなんだそうだ。一応まだもうちょっと日はあるからって油断し過ぎな気もする。


 まあ糸ちゃんはおいといて。

 昨日の内に作っておいたアイスボックスクッキーと、雫歌ちゃんが持ってきてくれたちょっと良い紅茶を淹れる。

 ポット温めて、牛乳も温め過ぎないくらい温めて。


「おまたせ~」


 今日のためにお兄ちゃんには全教科の一学期の中間試験の問題と解答を引っ張り出して貰った。

 中学まではそんなことしてなかったからあるか不安だったけどちゃんととっておいてくれていた。流石お兄ちゃん。

 私は理科系もう終わらせているから歴史とかやろうかな。



「のぞみちゃんってやっぱり授業の実験でも張り切るタイプ?」


 一つ目の科目が終わって雑談しながら採点中。

 と言っても完全に分からなかった問題はもう答えを見ちゃったからあとは合ってることを確認する作業が続くだけだから意識は会話に向いている。


「むしろ私授業の実験嫌いな方だよ」


「えっ。そんな人いる?」


 学校の実験なんて夏休みの自由研究でもない限り実験でもなんでもない。

 結果が前提にあって、実験してから実験した意味を教えられるあの感じがどうも苦手だ。


「なんか意外。理科は全部できると思ってた」


「できるできないで言ったらもちろんできるよ。ただ実験って一番大切なのは動機なんだけどそれを強制的に決められるとぶっちゃけ面白くもなんともないし書けと言われても定型分しか出て来ないの」


 モチベーション(英語)を勝手に決められてモチベーション(日本語)があがるはずがない。

 まぁ学校みたいに生徒をたくさん集めて実験をするとなると個人の興味関心に付き合うなんて絵空事だから仕方ないっちゃ仕方ない。だから私が個人的な実験をするために学校をおやすみすることも仕方ない。糸ちゃんを口実に私利私欲を満たしている気がするけどそれも仕方ない。


「その点この前の電波観測の奴は楽しかった」


「先生頭抱えてたよ」


 残念なことに私は星の人であるお兄ちゃんと血のつながった妹なんです。

 前例があるからね。

 前例主義は使う側にあるとすごく便利だ。文句はお兄ちゃんを認めてしまった二年前に締め切った。


「本来は出席日数足りない人のための制度らしいね。今の私の状況だと先生たちが断るのは難しいんじゃないかな」


 私はできるけど後続はあんまりいて欲しくない学校から提示(おねがい)された条件は中間、期末で全科目良い点をとること。

 学校には天文部の創部をさせてしまったという負い目があるから私相手に強く出ることができない。

 分かっててそこを突っついた私はあんまり良い子ではないと思う。


「それもあるかもしれないけど、のぞみちゃんほどエネルギッシュな子は応援したくなるんだよ。だからすんなり通ったんだと思うよ」


 同じ意味の言葉でも誰が言ったのかで天と地ほどの差がある。それと同様に、同じ行動でも誰が行なったかで周りの人の受け取り方が全然違っちゃう。

 私にできる事は少しでも良い意味に受けとってもらえるように結果を残すこと。

 そんな感じで期待を裏切らないためにもちょっと良い点をとっておきたい。


「と言っても一学期の中間なんて中学の復習かそれに毛が生えたくらいの難易度だからそれほど難しくはないよね」


「だね〜」


 お兄ちゃんの過去問を全部といた訳じゃないけど普段の授業も大して難しいことはしていない。

 雫歌ちゃんも難易度自体にさほど興味もなく、出題傾向や問題数の時間配分が知りたいだけ。

 お兄ちゃんは言っていた。最近のトレンドはとうてい答えきれる問題数じゃないくらい出題していかに理解しているかよりいかに速く解けるか、その能力を問われているらしい。

 大学を就職予備校と捉えるなら難しすぎるくらいだけど研究機関と捉えるならこれくらいはできないと、と息巻いていた。


「うーん。一年だからかな。別に問題数自体はなんとでもなるね。時間余っちゃった」


「こんなもんなんだね」


 日本史の過去問を二人でやり終え、二人とも一問ミス。点数配分の関係で私の方が点数は低い。

 これ平均どのくらいなんだろ。

 

「私日本史……、ううん。歴史全般そんなに好きじゃないなぁ」


「そうなの? 意外」


「のぞみちゃんもさっき言ってたよね。できるできないで言ったらできるよ」


 実力的には苦手じゃないけど心理的には苦手。

 こんな台詞、雫歌ちゃんにしか言えないし言わない。嫌味にしか聞こえないことくらい分かってる。お互いに。

 でもきっと雫歌ちゃんなら言葉通りに受け入れてくれるって思ってた。これもお互いさまだったみたい。


「歴史って基本的に人の死の積み重ねなのよ」


「えー。それちょっと見方おかしくない?」


「近くの歴史好きって人にどの時代が好きって訊いてごらん。十中八九、三国志か戦国時代、幕末って答えるよ」


「あー。それはそうかも」


 呂布、信長、龍馬。全員戦乱を生きた人物だ。

 この人達に限らずその時代を代表する人は全員壮絶な人生を歩んでいる。


「平安や江戸の平和な時代で文化がいかに発達したかとか、北海道をいかに開拓していったかとか、そういうのは好きだけど授業じゃ全然やらない。みんな人殺しの話ばっかり。正直辟易する。ホラーとか推理小説もそうだけど正直人殺しをコンテンツにしてほしくない」


 少し考えてみる。

 言っている意味は少し分かる。戦争や死を題材としたゲーム、小説、漫画。確かにそういう見方をしたら楽しめそうにない。今まで触れる機会もなくて考えたこともなかったけど言われてみればその通りだ。

 私だってアークトゥルスのことを珊瑚星と言われたら悲しい。


「ガリバー旅行記あるじゃん。火星の衛星のやつ」


「それで覚えてるののぞみちゃんだけじゃない?」


 いやそんな訳ないじゃん。

 ……ないよね?


「まぁまぁ。そのガリバーが日本に来たことあるの知ってる?」


「え、そうなの?」


「ラピュタから帰ってくる時に日本経由したんだ。その時オランダ人のフリをしたんだよ。その当時日本は鎖国状態にあったからね。交流があった国は限られていたからファンタジー世界からの出入り口に使われるくらい神秘の国だったんだよ」


 過去の書物は歴史を学んでいないと分からないことがある。

 雫歌ちゃんに聞いた感じこういう系の逸話はきっと好きなはずだ。


「他にも、ガリバーはキリスト教徒だったから絵踏みを見逃してほしいと懇願したんだ。帝に頼んだって書いてあったんだけど、江戸が出てきたし天皇じゃなくて将軍の誰かだよ。当時のヨーロッパから見た日本は、エンペラーが二人いる奇妙な国だったんだ」


 歴史は国語や数学みたいに生活に直結する知識は少ない。

 それでも義務教育に含まれているのは理由がある。天文学みたいな碌に入ってない分野とは明確に違う。

 好き嫌いを問わず知って欲しいことだから学ぶことになっている。


「どう? この話は好き?」


 どうせなら楽しく学べる方が良い。

 こうやって寄り道をするのはその方法の一つ。この楽しさを雫歌ちゃんにも知ってほしい。




「……。のぞみちゃんはすごいなぁ」


 だから、雫歌ちゃんが諦めたような声を出す意味が分からなかった。

 なにか間違ってしまったような。


「そんなことないよ」


「あるよ」


 少し強い口調で繰り返された。

 怒らせてしまったのかもしれないけど心当たりが全くない。


「ごめんね。のぞみちゃんは悪くないんだ。ただちょっと……。うん」


 確かにその感情は怒りじゃない。

 綺麗な水面(みなも)が石を投げられてぐしゃぐしゃになる。気持ちが落ち着かない。


「のぞみちゃんのそばにいれば私も特別になれるんじゃないかって勘違いしただけ」


 一線をひかれた。

 私と雫歌ちゃんの間に生まれた溝が広がっていく。


「なんていうかな。のぞみちゃんと私の人間としての格の差を自覚しちゃって自己嫌悪しただけ。ホントごめんね。私とのぞみちゃんは対等じゃない。分かってたはずなのにね」


「どうしてそんな寂しいこと言うの。私と雫歌ちゃんが対等じゃないってどういうこと?」


「そのままの意味だよ。のぞみちゃんは太陽みたいに輝いていて。私みたいな輝けない存在とは違う」


「……私は雫歌ちゃんと対等な友達だと思ってるよ」



「それは施す側の理論だよ!! 施されれば施されるだけ惨めになる!!!!」



 たぶん雫歌ちゃんはここまで言う気なんてなかった。

 声を荒げる気なんてなかった。


 だって、言った瞬間傷付いた表情をして、しまったって面持ちになって。

 最後にまたあの諦めた目を見せた。


 雫歌ちゃんは私の顔、どんな風に見えたのかな。


「ごめん。今日は帰るね」


 そして、出してあった過去問の解答用紙のコピーをささっとしまって私が止める間もなく部屋から出ていってしまった。

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