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Q.なんでケモ耳? A.可愛いじゃろ

あらすじのラピュタに関しては3話で解説。

天文に関しては今年(2024年)基準です。

「一番、天辻のぞみいきます」


 小物は基本薄桃色で、壁に貼られたポスターは人工衛星でカレンダーは惑星。

 本棚の中身は小さい頃読んで貰った絵本やお菓子作り系の雑誌と一緒に天文雑誌のバックナンバーが並んでいる。

 そんな私の部屋の中、届いたばかりの制服でさっそくファッションショーを開催中。


 春から通う高校の制服に身を包み、スカートを翻らせて振り向き様に昨日鏡の前で練習したポーズをとる。

 少しだけ首を振ってセミロングの髪を後ろに流してにっこり笑う。

 観客は同じ高校に合格した友達二人だ。


 今は三人で真新しい制服の着こなし方を研究中。

 シャツの時に下着が透けてないか確認して貰って、今はその上にクリーム色のベストを着ている。

 そしてシックな紺色のブレザーと下は濃い赤系のスカートだ。


「どう? 普通の女子高生に見える?」


 身長の所為で幼く見られがちな私としてはこの制服の大人な感じをフルに活用していきたい。


「え? のぞみ、普通の女の子のつもりなの?」


「糸ちゃんに言われたくない」


「確かに、この中じゃ糸が一番普通とかけ離れてるかも」


「ほら、雫歌ちゃんもこう言ってる」


 宮武(みやたけ)(いと)

 海乃(うみの)雫歌(しずか)


 糸ちゃんと雫歌ちゃんは幼馴染だ。


 まず糸ちゃんと関わるようになって、そしてある程度仲良くなったところで雫歌ちゃんを紹介された。

 二人ともクラスどころか学校だって違う。


 一緒にお兄ちゃんの高校の文化祭に行ったのが三人の始まり。

 今では受験も終わって高校では三人とも同じ校舎に通うことになることがもう決まってる。

 もちろんお兄ちゃんと同じ高校だ。


「雫歌、冷静になって。ブラコンって実在したんだよ。絶滅危惧種!」


 糸ちゃんが言った通り、私には兄がいる。

 そして、ちょっと付き合いのある人なら私がお兄ちゃんっ子であることはすぐに分かる。

 星が大好きな兄の背を追うように星を見るようになり、兄と同じ高校を選ぶ時点でほぼ確定なうえ、私自身その言葉を否定しないのだから当然だ。


「糸、それは違う」


 と思ったら雫歌ちゃんの方から助けが来た。

 意外に……もしくは不満に思って雫歌ちゃんの方を向くと少し得意げに糸ちゃんの言葉を訂正した。


「絶滅危惧種だと昔は多かったような印象を受けるわ。のぞみちゃんレベルのブラコンは今も昔も少ないんだし希少種とかの方がより正確だよ」


 さんざんな言われ様。

 援護かと思ったけどトドメだった。

 言い返すような言葉は……一つだけあるかな。


「いや、二人だってシスコンみたいなもんじゃん」


 雪月さんという、実の姉ではなく二人の姉貴分のような人で実際には糸ちゃんの従姉妹(いとこ)に当たる人がいる。

 毎年お盆とお正月に会うだけらしいんだけど二人してやけに慕っているように感じる。


「だって雪従姉(ゆきねえ)だよ」


 糸ちゃんのその台詞が赦されるなら私だって使う。

 だってお兄ちゃんだよ。


「でもまさか雪姉(ゆきねえ)に彼氏ができてたなんて」


「ビックリだよね」


「なに? お兄ちゃんに何か不満でもあるの?」


「ないんだけど、雪姉って彼氏に染まるタイプだったんだなあって」


「久々に再会したらびっくりするくらいに星について詳しくなってて、それ全部彼氏の影響だって言うんだから……」


 そんな雪月さんとお兄ちゃんが付き合い出したのは私がまだ中学二年生の冬頃。

 今が高校入学前だからもう一年以上前の話だ。


 特にお月さまがお気に入りで、ひょっとしたら月に関しては私より詳しいかもしれない。

 年季がある分まだ私の方が知識の総量が多いとは思うけど、それもいつまで持つことやら。



「さ、次は雫歌ちゃんの番だよ」


「に、にばっ……ねえ。これ本当にやらなきゃ駄目?」


「「ダメ!!」」


 現実というのは残酷で、同じ服でも着ている人によってガラリと印象が変わることはよくあることだ。

 小柄な私と大人っぽい雰囲気を纏う雫歌ちゃんではまるっきり正反対。まだ入学もしてないのにすでに上級生の貫禄がある。


「二番、海乃雫歌よ」


「やっぱり髪型?」


「いや、物憂げなあの表情じゃない?」


「なるほど。なんかいい感じの詩集とか読んでそう」


「雫歌、眼鏡とかかけてみない?」

 

 編み込みはほとんどないタイプのおさげ髪が綺麗さを軸に可愛いを纏わせて、いかにも大人のお姉さんですといった美人さんがこっちに微笑みを向けている。

 ぽわぽわした(たたず)まいから親しみやすさを感じてほっこりした気分になれる。


「どう? 雪ねえとどっちが美人さん?」


「雪従姉」「雪月さん」


 ホントは甲乙つけ難いけどネタを振られてしまったので即答。

 いやこれ以外の回答はないよ。


「のぞみも結局雪従姉のこと大好きじゃん」


「そりゃ、私雪月さんと一緒にお買い物とか行く仲だし」


 お兄ちゃんの悪口(という名の惚気)を言い合う仲だ。

 もしくは犬猫論争をしている。私が犬派で雪月さんが猫派だ。


「え、ズルい」


「私もせっかくこっちに来たんだし雪従姉と一緒にお出かけしたい」


「私なんてこっち来て結構経つのに全然会えてない」


 雫歌ちゃんと糸ちゃんから思った以上の反応が返って来る。

 いや、誘えばいいじゃん。月見なら大抵付き合ってくれるよ。月面X探そうとか。


「雫歌ちゃんはネクタイにしたんだ」


「うん。のぞみちゃんはリボンだね」


 女の子の容姿を褒める場合、主に二つのパターンに分かれると思う。

 可愛いと綺麗だ。


 私が言われるのは前者であって、綺麗という言葉はあまり使われない。


 あとこれは持論だけど、綺麗と可愛いは両立しても可愛いと綺麗は両立しない。

 私がいくら素敵な恰好をしようとも馬子にも衣裳、背伸びしているようにしかみえない。

 大人っぽいって自由度があがっていいなぁ。



「三番、糸でーす」


 糸ちゃんは身長私と同じくらい――つまり私より若干高い――だから目指す路線は可愛いになる。

 でもそれはちょっとあざといっていう感じなんじゃ?


「萌え袖! せっかくオーバーサイズのパーカーなんだしこれをやらないとね!」


 女子はリボンとネクタイを選べるんだけど、糸ちゃんも私と同じリボン派。

 そして薄手の白いパーカーを制服の上から羽織っている。


 そして被っていたパーカーのフード部分に両手をもっていき、後ろに回して顔を完全に出す。

 ボブにしては長めの髪は単に切るのが面倒という大したことない理由だったけど、長いと長いで今度は洗うのが面倒らしくそろそろ切ってとお願いされる予感。

 結構なくせっ毛さんだから櫛とかも通りづらい。

 なんとなく予想はつくと思うけど、美容室に行くくらいならそのお金で漫画やラノベを買うタイプの人間だ。


「にゃん!」


「いやそれ私達にしか見えないよ」


「しかも私達は自前のあるし」


 糸ちゃんは自らの頭上にあるネコ耳を器用にはためかせながら、袖を半分出した指で捕まえて顔の横に持って行き、少し傾けるポーズをとりながら鳴き声を上げる。



 私達は全員人の耳とは別の耳を持っている。



 私はイヌ。

 雫歌ちゃんと糸ちゃんはネコ。

 あとは尻尾も持っている。


 私達にとって当たり前にあるもの。

 でも他人(ひと)からは見えないし、なんなら鏡には映らないから自分の耳や尻尾を見ることだって一手間かかる。

 (まぶた)みたいなものだから自分の意志でピコピコ動かすこともできるけど意識し続けることはまず無理。意図的に動かすことはできても動かさないようにすることはできない。

 そんな体の一部は普通の人にとって特別であることを知識として知ってはいてもそれだけだ。


「えー。のぞみのお兄さんならもっと良い反応返してくれるのに」


「そりゃお兄ちゃんには耳ないからね」


 私とお兄ちゃんは血のつながった実の兄妹だけど、残念ながらお兄ちゃんは獣人じゃない。

 私の家族でいうとお母さんと私だけが獣人でお父さんとお兄ちゃんは普通のひと。


 ちなみにお兄ちゃんの彼女さんである雪月さんはネコの獣人だ。

 お兄ちゃんは獣人じゃないけどちょっと特殊な方法で見えるようにしている。

 その縁があって二人はお付き合いするようになった。


 そしたらその従妹+幼馴染の糸ちゃん雫歌ちゃんがついてきた感じだ。


「というかお兄ちゃんにそういうことしないでよ。彼女持ちなんだし」


「じゃあ雪姉がやるの?」




「「「………………」」」


 三人で雪月さんがお兄ちゃん(彼氏)に「にゃん!」と言っている姿を想像してみる。




「いや、そんな雪月さん想像できない」


「だよね。糸じゃあるまいし」


「ひどっ。でも確かに雪従姉がそんなあざといことする訳ないもんね」


「というか糸、のぞみちゃんのお兄さんに迷惑かけてないよね?」


「大丈夫。お兄さん妹いて彼女もいるからか異性と暮らすのに気を使うポイント分かってる感じだし、私この家じゃ基本のぞみといるから何かあってものぞみが教えてくれる」


 今、糸ちゃんは(うち)で生活している。

 ホームステイというやつだ。

 創作物とかではたまに見るかもしれないけど実際そういう世界があるんだとびっくりした。


 なんでも獣人の里(私は初耳、お母さんは存在を知ってた)から通える高校がない――というか少子化で無くなったらしい。


 私が糸ちゃんを普通じゃないと言ったのはこれが理由。

 ブラコンな妹は私以外にもいるかもしれないけど高校でホームステイはいないでしょ。


「のぞみちゃん。いざとなったら私の家で引き取るからね」


「大丈夫だよ。なんか妹できたみたいで楽しいし」


「え、誕生日的に私の方が年上なんだけど」


「昨日糸の洗濯物畳んだのは誰?」


「あー。のぞみかな」


「毎日お寝坊さんな糸ちゃんを起こしているのは?」


「のぞみだね」


 朝ごはんを作ったのも私だ。

 といっても卵を焼いてみそ汁を作ったくらいなんだけど。


「この前無くしたヘアピン一緒に探したのは?」


「……のぞみです」


 見つけたのも私だ。


「スマホの操作が分からないって言って涙目になってたのは?」


「だって。今までずっとパソコンの方使ってたから」


 あー。

 そういえば高校入学を機に初めてスマホを契約したと言っていた。

 確かに一人だとスマホよりパソコンの方が便利かも。

 初心者を揶揄うのはやっちゃ駄目なことだった。


「糸……」


「でも半分はのぞみが悪いんだよ。私がお腹すいたって言ったらクッキー焼いてくれるし、お風呂上がりはドライヤーしてくれるし、この部屋も掃除してるのほとんどのぞみで手伝うって言ってもベッドでゆっくりしててって言われちゃうんだよ」


 半眼の雫歌ちゃんに言い訳するように糸が言葉を連ねる。

 でもほとんど余罪を自白しているだけな気がする。


 糸ちゃんが言った通り、私の部屋は今年から私と糸ちゃんの部屋になった。

 それにしてはまだ糸ちゃんのものが少ない気もするけど、それも増えていくと思う。何せ高校生活は三年間もある。


「ほらっ。もう行こっ。のぞみがお世話になってる天文台の人達に制服見せに行くんでしょ」


 今日は天文好き兄妹として有名な私達がよくお世話になっている天文台の星空観望会がある。

 私がずっとお兄ちゃんと同じ高校に行きたかった事を知っている人達で、もう合格した事は伝えてあるけど制服を見せて自慢したい。制服でファッションショーをしていたのはそれが理由だ。初お披露目といこう。



 バツが悪そうな糸ちゃんに促されて部屋をでる。

 今宵は満月、ちょっとだけ特殊な月が昇る。

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