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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短めのおはなし

龍神の花嫁〜誰もなりたがらないので、資質がない私が龍神の花嫁になっても、よろしいでしょうか?今更婚姻を止めさせようとしても、もう遅いです

「龍神は、花嫁を喰らうに違いない。だから、年頃の娘が皆、逃げ出したのだ」


「おい! お前。お前が、あのお方の花嫁になればいいのだ!」


 とある里で、誰が龍神の花嫁となるか、揉めていた。


 花嫁になりたくない、()()の娘たちは、さっさと嫁に行ってしまい、あとは里長の娘くらいしか残っていなかったのだ。しかし、里長は大切な娘を嫁に出したくない。


「あのお方は優しいお方です! そんな風に押し付けるような言い方はおやめください!」


 そんな龍神の友人であるリシャは、必死に龍神を庇っていた。龍神と親のいないリシャは、よく二人で遊んでいたのだった。一世紀も前に、前の花嫁を迎え入れた龍神について、人間たちには情報が少ないが、リシャは龍神が悪いものだとは思えなかったのだ。


「そういうお前も、もしも自分が花嫁にされるとなったら、嫌なんだろう?」


「あのお方の花嫁としての資質が、私には足りません……。もういいです! 私が、あのお方の花嫁となります! しかし、あのお方に断られたら、別の()()()()()()()()()()()方を花嫁として、差し出してくださいね?」


「お前が行くなら、ちょうどいい!」


「そうだそうだ!」





 そう言って、人の里を追い出された少女は、あのお方と呼ばれた龍神の元へと向かうのであった。







「というわけで、私があなたの花嫁として送られることになってしまいました……資質が足りませぬのに……」


「僕は、優しいリシャと一緒にいられることになって、嬉しいよ」


「ありがとうございます。龍神様」





 そう言って、二人は夫婦となったのであった。









ーー五年後


「リシャが龍神に、奪われたんです!」


「定めを破って、花嫁として連れて行ってしまったんですよ!」


「今日が婚姻の日になると騒いでいます!」


 都から来た龍神との対話人である交渉人に、リシャの里の人々は口々に叫んでいた。



「きっと美しいリシャに目をつけていたんだわ!」


「里一番の美人になったリシャは、龍神なんかではなく、豪商人に嫁に行けば、いい暮らしができたのに!」




「……定めを破って連れて行ったとなれば、龍神界でも問題となりますでしょう。話を聞いて参ります」



「「「ありがとうございます! 交渉人様」」」





「どう思われます?」


 龍神の元へと向かう交渉人たちが話しながら、歩いていく。


「そのリシャという娘は、よっぽど美しい娘なのだろう。龍神が定めを破るとは考えにくいが……」


 そう言って交渉人の一人が里を見渡すと、しっかりと龍神によって里は管理されていた。少なくとも、龍神は、人間との契約を守っているのであろう。










「あら、お客さまですか?」



 山を登り、川を越え、龍神の住まいに辿り着いた交渉人が一人の少女に声をかけた。

 そう言って振り返った少女は、絶世の美女であった。齢十五歳になろうかという美しい少女は、あどけなさも残しながら美しく、人だけでなく龍神をも惑わせてしまいそうな容姿であった。



「ふふふ、今日は私たちの正式な結婚式なので、お客さまが多いのですね。主人の元へとご案内いたしますわ。こちらへどうぞ」



 交渉人たちにそう言って、龍神の元へと案内をする。交渉人たちは、少女の愛らしさに惚け面だ。



「貴方。お客さまですわ」


「うん?」



 そう言って振り返った龍神も、言葉にならないくらい美しかった。

 人外の美しさを持つ龍神との、交渉に長けた交渉人が驚愕するくらいの美しさであった。こちらも十五歳になろうかという龍神にしては幼さの残る容姿であった。


 その横に、青年と言っていいであろう年頃の龍神が座っていた。こちらも美しいが、少年の龍神ほどではない。



「ほぅ……人間の交渉人か。龍神の長のめでたい日に如何なる用かな?」


 青年と言っていい龍神が鋭い眼光を向け、交渉人へと向き直る。





「そ、その……」


 訪問する日を完全に間違えてしまった……いや、最短の日程で組んだのだ。これ以上遅かったら、村人の言うリシャという少女は、定めを破って龍神の花嫁とされてしまったであろう。そう思い直した交渉人の一人は、口を開く。



「り、リシャという少女の村人たちが、定めを破って花嫁にしてしまったと申しておりまして……事実確認に」



「ほぅ?」


 参りました、と、交渉人がそう言い終わる前に、青年の龍神が鋭い眼光を向ける。



「定めを破ったのは、我らが長だと、人間どもが言ったのですな?」



 緊迫。それ以上に的確な表現がない、そんな空気の中、リシャがほんわかと口を開く。



「まぁ! 先に定めを破ろうとしたのは、あの人たちですのに。私の夫となる龍神様は、資質のない私を仮の花嫁として迎え入れることで、定めを守ってくださったのですよ?」


「資質のない……?」


「失礼ながら、ご令嬢。あなたのどこが資質がないのだろうか」


「ふふ、だって私、花嫁として差し出された時は、十になったばかりでしたもの」


 貴方も同じくらいの外見をしていたわね、と少年の龍神に微笑みを向ける少女は、美しい。しかし、交渉人たちにとっては、それどころではない。


「と、十ですと!?」


「りゅ、龍神の花嫁になれるのは、十五からではありませぬか!」


「えぇ。ですから、主人は私を仮の花嫁とする異例措置を取り、ここまで育ててくださいました」


 微笑みを向けるリシャに、少年の龍神は困り顔を浮かべる。


「僕は一緒に暮らしていただけで、リシャが全部してくれたんだよ」


「長、そんなことをおっしゃるな。花嫁殿とご一緒になるために、龍神の身でありながら人間と同じ歳の取り方をするという無謀を成し遂げたではありませぬか」



 龍神は人間よりも寿命がはるかに長い。そんな龍神が、人間と同じように歳を取ろうとするには、如何ほどの努力が必要だったのだろうか。少年の龍神の、花嫁への愛を悟った交渉人たちは、即座に謝罪し、事実関係を確認次第、里を離れようと心に決めた。


「ご迷惑をおかけして、大変申し訳ございませんでした」


「同じ人間として、謝罪いたします」


「まぁ」


 そう言って小首を傾げるリシャは、交渉人たちに好感を抱いてくれているようであった。


「あなたがたは、礼儀も作法も備わった方だわ。結婚式当日に水を刺すのは無作法かもしれませんが」


 そう微笑むリシャに対し、交渉人たちは顔を真っ青にする。


「まぁまぁ、リシャ。この人たちも今日事実関係を確認しないといけない立場なんだよ」


 許してあげな、ととりなすのは、なんと少年の龍神であった。


「そうですわね、貴方。交渉人様。里の者たちは、人間の里から追い出した私が綺麗に成長したから、返せとおっしゃるのですか? 何者かの捧げ物にするから、と」


「リシャを……?」


 リシャの言葉に、少年の龍神の顔色が変わった。慌てて、交渉人たちが言葉を重ねる。


「さ、捧げ物にするとまでは……言っていたかもしれません。人の世界でもこの里の者たちを裁かねばなりません……」


 ここからはもう、誰がどのように裁くか、奪い合いだ。どうにか取り分を得ようとする交渉人の一人を、別の交渉人が諦めたように首を振って止める。


「……この里を今まで守ってくださり、ありがとうございました」


 そうお礼を言い、頭を下げる交渉人たち。


「まぁ」再度、そう言って小首を傾げるリシャは、二度も自分を売ろうとした、里の人間を守るつもりはないようだった。


「ねぇ、貴方。里を守っている、龍神の守りから解くのは、私たちの結婚式が終わってからにいたしましょうか?」


「そうだね。リシャがそれでいいのなら、そうしようか」


 交渉人たちは、その言葉を最後に慌てて龍神の住処から都へと戻ったのだった。その後、その里を見た者はいないとか。

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