朝生暮死
坊ちゃん文学賞落選作品
彼女は物心ついた時から働き続けていた。
子供の時の遊んだ記憶もないだろうし、これからも働き続け休むことはないだろう。
彼女の父は彼女が産まれる前に死に、
母は今新しい父の子を身篭っている、
その新しい父も何故か死んでしまった、
彼女は父達の死の悲しみを思う暇もなく
働き続けてきたのだ。
たまたま短命だったのであろうと諦めてもいたのかもしれない。
その家には今姉妹しかいなく、
彼女等の家は薄暗い山の中にあり、
とても人など入って来れないような場所にあったが、
それでも貧乏な彼女等にとっては
家を建てる材料が落ちていたり、食べられる物がそこらじゅうにあることはこの上なくありがたいことであった。
その家は初め、母が1人でコツコツ建てていたものだったが、彼女達が大きくなると、みんなで協力して今の大きさの家となったものだった。
ある日の夕暮れ時の事だった、
家の家事をしていた彼女の耳に一瞬、虫の羽音が聞こえた、それと同時にドサッと家に倒れ込んできた者がいた。
よくよく見るとそれは彼女の姉妹で、足に怪我をしているようであった、いや、怪我どころの話では無い、彼女は目を見開いた、右足が1本無かったのだ、お腹からも血をながしている。
彼女はすぐさま姉妹に近づき何があったのか聞いた。
姉妹はか細い声で
「ハヤク…ソトニ…」とだけ言うと息絶えた
彼女が慌てて外にでてみると、そこには体長3メートルはあろうかという全身毛に覆われた生き物が家の周りを闊歩してるではないか。
姉妹は恐らくこの生き物に襲われたに違いない。
彼女は慌てて他の姉妹を呼ぶと、身重の母を守るために各々武器を持ち出し一斉に襲いかかった。
非力な姉妹達の攻撃は厚い毛と皮に覆われたその生き物に致命的な怪我を負わすことは出来なかったが、それでもその生き物は突然の攻撃に驚いたのか山の中に消えた。彼女は母の元に戻り、事の顛末を告げた。
彼女の母は涙を堪えながらも気丈に振る舞い、
厳しく辛い事しかない世の中だが、それでも家族で力を併せ生きていかなければならない事を語った。
このような事が起きても彼女達が働く事を止める理由にはならなかったし、誰かが助けてくれるわけでもなかった。
そしてそれはある夏の日
いつものように彼女は山の中で食べ物を探していた。
暑い日差しが容赦なく照り続け、思ったような収穫もなく、一度家へ戻ろうとしていた時の事。
背後から突然ガサガサっと草むらを掻き分ける音とともに、身体中に強い衝撃を受けた。
意識が薄まる中、「やめなさい!」と今まで聞いた事のない甲高い声を、確かに彼女は聞いた。
「たけのぶ!あぶないでしょ!」
「なにが?」
たけのぶと呼ばれた子は、悪びれた様子もなく母に口答えした。
「刺されたらどうするの!」
「倒したから大丈夫だって」
右手に木の枝を持った彼は納得のいかない様子で枝をブンブン振り回している。
彼女は薄れていく意識の中で「シヌノガハハデハナクジブンデヨカッタ」と思った。そして、彼の足元には身体が折れ曲がり、二度とは飛べなくなったであろう羽を携えた大きなスズメバチが死んでいるのであった。