『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品
雪山に入ってはいけないよ
「いいかい、雪山には絶対に入ってはいけないよ」
先生がこどもたちに語りかけます。
「せんせー、どうして雪山に入ってはいけないんですか?」
アキトくんが手をあげます。
「バカだなアキト、危ないからに決まっているだろ」
クラスメイトのユウトくんがとなりで笑います。
「うん、そうだね、ユウトくんが言うとおり雪山はとても危険だ。でもそれだけじゃないんだよ」
先生が真面目な顔をしたので、子どもたちは次の言葉を待ちます。
「去年先生がこの村に来たばかりのころなんだけどね。校長先生から雪山には入るなと言われていたのに、スキーをしに山に入ってしまったんだ」
「ああっ!! 先生いけないんだ~!!」
「そうだね、先生全国の山で二十年スキーをしてきたから大丈夫だと思っていたんだ」
「大丈夫じゃなかったの?」
ユウカちゃんが心配そうにたずねます。
「うん、途中で吹雪いてきてしまってね。気付いたら方向がわからなくなって動けなくなってしまった。食べるものもなくて暗くなってきてね、しかも雪で見えなくなっていた穴に落ちて足をケガしてしまったんだ。山に行くことは誰にも言ってなかったから助けも来ない。もう死んじゃうのかなって思った」
「で、でも、誰かが助けてくれたんでしょ?」
ユウカちゃんが泣きそうになります。
「うん、雪女がね、助けてくれたんだ」
「「「雪女っ!?」」」
こどもたちがさけびます。だって雪女って悪い妖怪ですからね。
「穴の中にハマって身動きできない先生を雪女はその怪力で持ち上げて助けてくれたんだ。しかもその細い体で、先生を背負って何時間もかけて山のふもとまで連れて行ってくれたんだ。あのすごい吹雪と深い新雪の中をだよ?」
「先生、なんで雪女はたすけてくれたんですか?」
アキトくんが質問します。
「そうだね、きっと先生がイケメンだったからじゃないかな」
「「「…………」」」
教室の空気が雪山のように冷たくなります。
「せ、先生、雪女さんはやっぱり美人でしたか?」
こごえそうな空気に耐えきれず、ユウカちゃんが手をあげます。
「ありがとうユウカちゃん。うん、そうだね、とっても美人さんだったよ」
「やっぱり髪は雪のように白くて和服なんですか?」
ユウトくんも手をあげます。
「いや……残念だけど茶髪で半袖Tシャツだった」
こどもたちもがっかりします。
「えっと、それで雪女と雪山に入ってはいけないのは関係があるんですか?」
「奥さんがご飯を作ってくれなくなるからね」