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リィンバース 〜神秘の花の物語〜  作者: Hoppy5
1章 二人の姉弟
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プロローグ

 深く暗い森の中、夜の闇を月明かりが照らす広場の中心。草花(くさばな)が生い茂る中に、一人の少年が横たわっていた。


 少年の瞳は(うつ)ろで呼吸が浅く、引き裂かれた衣服の下からは血が滲み出ている。


(急がないと……)


 心の中で自分にそう言い聞かせ、身体に力を込めようとする。……だが、上手くいかなかった。


 手も、足も、指先も、金縛りにでもあったかのように動かすことができない。


(なんとかしないと……)


 そう思うほどに焦りが(つの)り、焦りは不安を掻き立てる。


 少年は視線の先を見つめる。汚れた手の中には、引き千切られた数本の花が握られている。


(これを届けないと……)


 ふたたび起き上がろうと力を込める。しかし、引き裂かれた傷の痛みに、(うめ)き声を発することしかできなかった。


(急がないと……あいつに追いつかれる前に)


 そのとき、森の茂みの向こう側から「グウルルルル」と、低い(うな)り声が聞こえた。


 『ドクンッ』と心臓が大きく高鳴り、ガサガサと草が揺れる音が近づいてくる。茂みの中から現れたのは、全身が灰色の深い体毛に覆われた、四足歩行の魔獣だった。


 魔獣は片目が潰れていて、(したた)る血で顔の半分が赤黒く染まっている。


(動けっ! 動けっ! 動けっ‼︎)


 心の中で何度もそう唱える。だが、どんなに強く念じても身体が動くことはなく、激痛のみが全身を駆け巡る。


「グウウウ……」


 威嚇するような低い唸り声とともに、魔獣がゆっくりと歩み寄る。


 恐怖、焦り、後悔、怒り……。さまざまな感情が心の中を埋め尽くし、涙が溢れて(こぼ)れ落ちる。


 魔獣は大きく口を開くと、鋭い牙を少年へと向けた。


(姉さん……)





 ◇ ◇ ◇





 ドクン……  ドクン……  ドクン……





 とある森の中、丸い帽子と深緑(しんりょく)のケープを身に(まと)った老人が、大木(たいぼく)の枝に座りのんびりとパイプをふかしている。すると、老人の長い耳がピクンッと小さく揺れた。


「キィッヒッヒッヒッ! 今のを感じたか、ファーよ?」


「……レプラか」


 とんがり帽子と真紅(しんく)のケープを身に(まと)った老人が、不気味な笑みを浮かべながら、パイプを(くわ)えた老人を下から見上げていた。


「若くて(おろ)かな人間の魂だ。久々にいい玩具(おもちゃ)が手に入るわい」


「フォッホッホッ、どうだかな。また無駄骨に終わるかも知れんぞ?」


「ヒッヒッヒッ、今にわかるわい」そう言ってレプラは(きびす)を返した。


「どこへ行く?」


「決まっとる。花の所じゃ」





 ◇ ◇ ◇





 ドクン……  ドクン……  ドクン……





「キィッヒッヒッ! 来とる来とる。森中(もりじゅう)の魔力が集まっとる!」


 半球状の空間の中央には、大きな花のようなものが()えており、その花の太い根が四方八方(しほうはっぽう)へと伸びている。


「どうじゃこの隆々たる脈動! 素晴らしいと思わんか?」


「いつもと同じだ。なにも変わらん」


「ヒッヒッ、んなことわかっとるわい偏屈(へんくつ)ジジイ!」


 レプラの口の悪さに、ファーは若干イラッとした様子を見せつつも、フンッと鼻息を鳴らすにとどめた。


「久しぶりの胎動(たいどう)じゃぞ? 待ち遠しいじゃないか!」


「相変わらず悪趣味な奴だ」


 肩を(すく)めるファーの横で、レプラは満面の不気味な笑みを浮かべている。


「さあ……哀れな魂よ、ワシのために早く生まれてこい‼︎」


 まるで嘲笑(あざわら)うかのような、甲高(かんだか)い笑いに引き寄せられるように、その日、一つの魂が神秘の花の(もと)へと舞い降りた。

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