言い伝え
その昔、妖精と人間が深い絆で結ばれていた時代に、グールと呼ばれる存在が人々の生命を脅かしていた。
人の悪意が蔓延するこの世界には邪気が立ち込め、彷徨える魂たちは冒され、呪われると死者の亡骸に憑依し、亡者となって地上に溢れた。
彼らは新鮮な血と肉を喰らうことによって生者になろうとし、生前に叶えられなかった未練を果たそうとしていたのだ。
あるとき妖精の王は、盟友である人間の王の同族たちのために、仲間の力を借りてあるものを作り出した。
それは現世を彷徨う魂を呼び寄せ、魔力によって生み出した新たな肉体を与える神秘の花……。
その花の名は〝リィンバース〟
己が未練を果たす機会を与えられた魂たちは、現世への呪縛から解放され、地上に蔓延っていた哀れな亡者たちも次第にその数を減らし、徐々にだが、人々に平穏な時が戻り始めた。
しかし、世界を覆うほどの穢れを生み出す人の欲望は果てしなく、長い歳月が過ぎ行く中で、いつしか人々は盟友との絆を忘れ、妖精狩りに手を染めた。
彼らの持つ強大な魔力を手に入れようと、住処となる森を切り払い、魔力を自在に扱う研究をするために、多くの妖精が人間たちに捕まった。
人間の行いに絶望した妖精の王は、自然界に存在する精霊たちの力を借り、生き残った仲間たちと共に幻の世界へと姿を消した。
……だが、人間の王は諦めていなかった。
かつて妖精が人族のために作り出した神秘の花。それはこの広い世界のどこかに、今も存在しているはずだったからだ。
──しかし、どんなに手を尽くし探しても、神秘の花などはどこにもなく、過ぎ行く月日の中で、傲慢と欲望に溺れた人間の王は息絶え、神秘の花の存在は伝承でのみ語られることとなった。