第3話「痛みと羞恥心」
『レベルが10になったらまた来てにゃ』
それ以降、何を聞いても同じことしか言わないにゃん蔵を置いて噴水広場を飛び出したのは、周囲のプレイヤーの奇怪な目に気づいた時だった。
(はぅ……やってしまった……)
噴水広場での一幕を思い返しながら、とぼとぼと人通りの少ない道を歩くニアは、頭から湯気が出そうなほどに赤面していた。
『ほら! にゃん蔵と同じ猫耳だよ!』
と自分の頭上を指さして半日に及んだキャラクリの成果を披露すれば、それを見かねた親切なプレイヤーが、
『あの、それNPCだから……それ以上は何も言わないよ……?』
と教えてくれたのだ。
その時の哀れみに満ちた目と周囲の顔を思い出すと、赤面を通り越して青白くなっているのではないか、と我ながら心配になってくる程である。
「あ、ほら見ろよさっきの」
「ほんとだ、初心者かな? お前声かけてみろよ」
ニアが今歩いている通りには人通りがほとんどないが、時折人とすれ違う度にこのような会話が聞こえてくる。これで通算四回目になろうか。
(ぅぅう……)
いたたまれない気持ちになり、三角帽子を目深に被る。恐らくキャラクリの時につけた猫耳が目立つのだろう、と薄々感じていたからだ。思えば先ほどの噴水広場に猫耳をつけていたのはニアだけだった。
「……わわっ!」
これで私だと気づかれないといいけど……と再び歩き出すが、深く被りすぎたせいか思いのほか視界が悪い。数歩歩いた所で石畳の溝に躓いて転んでしまった。
「あ痛たた……あれ? 全然痛くない?」
反射的に擦りむいてそうな膝に手をやるが、痛みどころか傷一つなかった。
(そっか、ゲームだもんね)
噴水広場での出来事があまりに衝撃的すぎて、すっかり忘れていたが、これがゲームの中なのだ。いくら転ぼうと血は出ない。痛みがないなら恥ずかしさも無くならないかな、などと意味を分からない事を考えながら石畳に手をつき、立ち上がろうとした時、それは突然ニアの視界に現れた。
《ニア レベル1 ウィザード》
立ち上がる時、何かの拍子で開いてしまったのだろう。
現在のステータスがウィンドウで表示された。
ニアの脳内に、これなんだろう、や、ウィザードって何? など様々な疑問が浮かび上がる。理解できたのは『ニア』という自分で設定した名前、そしてもう一つ――
「そう、レベルよ、レベル!」
にゃん蔵は言っていた。
『レベルが10になったらまた来て』と。
これを見るに現在のレベルは1。ならば後9上げれば再びにゃん蔵と会話できる!
ニアは目の前が一気に明るくなっていくのを感じた。
そうと決まればレベルを上げなくては!
早速レベルを上げるべく足を速めるニアだったが、その勢いはすぐに止まる。
そして虚空に呟いた。
「あれ……? レベルって……何?」




