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第20話「黄金の猫①~森と洞窟~」

「にあにあが最後の相手になるなんて、これはどういう偶然なのかなッ」


 短剣を眼前に構え、アイシスはニアを視界の端に捉えたまま中空に浮かぶタイマーに目を向ける。

 イベント終了まで残り五分。

 アイシスにとってもこれが最後のチャンス。この機会を逃せば、イベント開始時に掲げた目標を達成することは叶わない。


「あああ、あのっ、私はアイシスさんとは戦いたくない……というかもう戦えないというか……」


 二人が向かい合う岩場には、まるで大きな化け物が暴れたような痕跡がいつくも点在していた。

 ぐるりと周囲を見渡したアイシスは視線をニアに戻すと、


「うん、知ってる。だから謝っとくね」


 わずかに笑みを浮かべ、駆けだした。


「――ごめんね、にあにあ」





 時を少し遡り、イベント開始直後。

 ニアは見知らぬ森の中に居た。

 陰鬱な空気が流れるラトゥル山麓とはまた違う雰囲気の森に、清爽な風が吹き抜ける。ハタハタとなびくローブを押さえながら空を仰げば、木々の隙間からオレンジ色の陽光が漏れていた。

 そんな雰囲気の中。


「良い天気だね、ルナ」

「そうだな」

「……気持ちいいね、ルナ」

「そうだな」


 話を聞いているのか聞いていないのか、曖昧で短い返事を繰り返す黒猫に、ニアは必死に言葉を絞り出していた。


「さっきのお茶会は楽し」

「そうだな」


 もはや言葉を言い切ることも出来ず、どうしたものかと思案するニアは、ナビゲーターのアシュリーが言っていた言葉を思い返す。


『イベント内容は単純なの。参加を希望するプレイヤー達を五十人づつのグループに分けて、アシュリーが用意したフィールドに転移させるの。そこで皆にはある生き物を探してもらうの』


 ぱんぱかぱーん、と気の抜ける音が鳴り、アシュリーは続けた。


『ある生き物とは、黄金の猫。見ればすぐに分かるはずなの。イベント終了時に黄金の猫を捕獲しているプレイヤーが勝利なの。これは次回アップデートの予行演習だからプレイヤー間での対人は有効。そこだけは注意するの。それでは、健闘を祈るの』


 そう言い残してウィンドウの消失と共に消えていったアシュリー。その直後に現れたのは、参加意思を問う選択肢だった。

 すぐさまイベントへの参加を表明し『YES』のボタンに触れるアイシスに、しばらく思案したのちに決意したニアが続けば、二人の視線は自然とオルコに向いた。


『僕は遠慮しておくよ』


 やや苦笑いを浮かべて告げたオルコは、二人に激励の言葉をかけると、ティーカップに残ったアーグレイを飲み干し、ニアの家を後にした。

 そうしてしばらくの待機時間を置き、転移させられたのが、この森の中である。

 つまりは。


「…………もしかして嫉妬してる?」


 恐る恐る、しかし確信を持って声をかける。

 するとルナは一瞬だけ身体を強張らせ、やがて口を開いた。


「……オイラという猫がありながら、他の猫にまで手を出すなんて嬢ちゃんは浮気者だ」


 ニアがイベントへの参加を決めた理由。

 それはもちろん、勝利条件『黄金の猫』である。


(不機嫌の理由はこれか……)


 どことなく察したニアは、つーんとそっぽを向くルナの身体を優しく抱きかかえ、黒い毛並みの上で指を走らせた。

 ニアの熟達した手付きに、ルナは恍惚の表情を浮かべる。


「にゃあ……しゃあねえ、嬢ちゃんに付き合ってやるよ」


 実にチョロい猫である。


「ふふ、ありがとう……うん?」


 その時、ピポーンというシステム音がニアの耳を打った。

 きょろきょろと視線を彷徨わせると、青々とした空の向こうに《03:00》と表示されたタイマーが出現していることに気が付いた。

 次の瞬間に《02:59》に変わったタイマーを眺め、ニアは得心したように言う。


「あれがアシュリーさんの言ってた制限時間かな」

「さあな。それより早く探しに行こうぜ、黄金の猫とやらを」


 その会話を最後に、二人は森の奥へと姿を消した。




 

「みんなのアイドル、アイシスちゃんだよッ! 今日は突発イベントってことで、その様子を配信したいと思いまーす!」


 ウインクした左目の前にピースサインを作り、ピンク色の髪を揺らすアイシスは、空中に浮かぶ球体に向かって喋りかけていた。

 イベント開始時にアイシスが転移したのは、薄暗い洞窟の中である。声が洞窟の奥で反響し、その声が掻き消えると同時に、球体の上に文字が浮かんだ。


『頑張って』


 視聴者からのコメントを告げる文字の横には、『2』と小さく表示されている。これは現在の視聴者数を表すものだ。

 その数字をちらりと流し見て、アイシスは口を開く。


「ありがとッ、頑張るね! そうそう、みんなイベント内容は知ってる? 黄金の猫を捕まえろ! ってことらしいんだけど、アイシスちゃんの経験からして、多分これってバトロワ的なやつだと思うんだよねー」


『初見です。イベント参加羨ましい』


「あ~、確かに告知当日にイベント開始! ってのはアイシスちゃんもどうかと思うなー。まあ参加報酬とか優勝賞品はないみたいだし?」


 次々と流れてくるコメントに返事をしつつ、やがて視聴者数が『7』にまで増えた時、アイシスは胸中で一人ほくそ笑んだ。


(ふふふ、やっぱりイベント配信は視聴者数が増えるね)


 ニアが黄金の猫見たさに参加したように、アイシスの参加理由もまた単純である。


(これでもし優勝しようものなら……!)


 配信者としての名が売れる。

 安直に思える理由だが、アイシスにとってはそれこそが最優先事項。

 何を以てしてもこのイベントで勝利する。

 そんな決意を胸に、イベントに参加していた。


「しばらくは様子見かなあ、みんな聞きたいことがあったらなんでも聞いてねッ!」


 コメントが止まったことを確認して、手元のコンソールに視線を落とすアイシスは、見慣れないアイコンの存在に気がついた。

 《マップ&リスト》

 そのアイコンに触れると、まずフィールド全体のマップが、次いで同じグループに振り分けられたであろうプレイヤーの名前がずらりと表示された。

 ひとまずフィールドの全体図を把握するべく、マップに視線を向ける。


(ふんふん……やっぱり結構広いね。それに、見たことがないエリアだ)


 円の形をしたマップの北側には山岳地帯、南には海岸が広がっており、それを分断するような森林地帯が中央に広がっている。

 マップの縦横それぞれに五本づつ引かれた線によって区分けされたエリアには、一つ一つ座標が設定されており、その座標の一つ――北側に連なる山岳地帯の一か所に赤く点滅するドットを見つけると、アイシスはそれが自分の現在地だとすぐに理解した。


(この広さ、猫一匹、制限時間は三時間……なるほどね)


 一人納得したように頷き、マップの横にある《リスト》に改めて目を向ける。

 五十人分のプレイヤーネームが並ぶリストを下にスクロールしている最中、一人の名前が暗転。それと同時に《50/50》の表示は《49/50》へと変わった。


(あらら、ご愁傷様)


 恐らくPK(プレイヤーキリング)されたのだろう。

 そう考えながら、引き続きリストをスクロールしていく。

 ようやく最下部へたどり着き、同じグループに振り分けられたプレイヤー全員の名前を確認すると、アイシスは胸を撫で下ろした。誰もが知っているような有名プレイヤーの名前がなかったからだ。


(優勝は頂きかな……ん?)


 そして気づく。

 誰もが知っているような有名プレイヤーでもない故に見落としていたその名前に。

 自然と口角が吊り上がっていくのを感じた。


(ふふん、手加減はしないよ。にあにあッ)


誤字脱字修正、大変助かっております。

ありがとうございます。

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