表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/27

プロローグ

 ゲームを始めたプレイヤーのスタート地点に設定された街《王都グランド・ラプト》から最も近い狩場には、スライムやゴブリンなど通称『雑魚モブ』と呼ばれる下級モンスターのみが生息している。

 初心者が戦闘の基礎を学べるように設定されている彼らは、呼び名の通りまさしく「雑魚」だ。攻撃力は最低数値なので初期装備で戦っても負ける可能性は0。希少なアイテムをドロップするわけでもなく、貰える経験値も並以下。

 上級者プレイヤーが配布している攻略ガイドに『スルー推奨』と書かれているせいもあってか、最近では初心者さえも寄り付かない狩場になっていた。


 だからこそ、そんな狩場の方へと歩いていくプレイヤーを見かけたルインは声をかけずにはいられなかった。


「なあ、あんた初心者だろう?」


 亜麻色のローブにつばの広い三角帽子を目深に被っているの姿を見れば、少女が魔法職のウィザードであると一目でわかった。


「…………」


 しかし、少女はルインの声に気づいていないように、きょろきょろと視線を彷徨わせている。

 

「おーい」

「…………っ!」


 何の気なしに肩を掴んで再び声をかけたところで、ようやく少女は気づいたようだ。華奢な体をびくりと震わせると、三角帽子が一瞬ふわりと浮き上がった。

 そしてルインは少女の頭上にある二つの突起に気が付いた。


「あ、猫耳」

「~~~~っ……」


 少女は慌てて三角帽子のつばに手をかけ、再び深く被りなおした。

 恐る恐る、といった様子で振り向く少女に、ルインは申し訳なさを覚えた。

 少し強引すぎたかもしれない、と。


 少女がつばに両手を添えたまま少し顔を上げると、ルインは少女の容姿にハッとさせられた。

 まん丸な薄紫の眼は健康的な白い肌にとても映え、赤みがかった茶色の三つ編みがふわりと揺れる。少し不満げな頬にはほんのりと朱色が差しており、少女の背丈も相まってか、名高い職人に作られた人形のような容姿だ。

 ……いや。

 あるいはそれが現実世界であったなら、ルインが抱いた通りまさしく人形という言葉がピッタリだろう。けれど、あくまでもこれは仮想世界のアバターである。なのでルインの口から自然と漏れたのはこんな言葉だった。


「あー……えーと、アバターの作りこみ、すごいスね……」


 ルインが照れ隠しで頬をかくと、少女はにへらと顔を緩めた。

 そしてルインから一歩だけ距離をとり、恭しく一礼した少女は、狩場へ繋がる道のほうへパタパタと駆けていった。


 その様子をぼけーと眺めていたルインだったが、少女が見えなくなったあたりでハッと我に返り……


「ああ、そっちの狩場は……ってもう遅いか」


 ふぅ、と小さなため息をつくと《王都グランド・ラプト》の中央通りへと歩いて行った。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ