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第一章 ユリシス、クビになる(2)

「いっやーー、助かっちゃった」

オリヴィアが言う。金色の髪にピンクのメッシュ。切り詰めミニスカート。よく学校で叱られないものである。

「わあ、何コレ。すっごい豪勢じゃない」

作りかけの夕食を見て声を上げる。

「大体私か後はリューゼとオスカーで交代で作ってんだけどサ、ついつい手抜きになっちゃうんだよねーーっ」

ぱくっ。飾りのミニトマトをつまみ食いする。

「食べちゃ駄目ーっ」

怒るルト。

「もうっユダンもスキもないんだからっ」

ルトは言ってボウルを脇へと動かした。

「ケ~チ。いいじゃん、一個や二個くらい」

「駄目~!!」

 食事の用意が出来、ルトが皆を呼び集める。

「後大学生がいたのだったな・・・」

「いっやーー、助かっちゃった」

オリヴィアが言う。金色の髪にピンクのメッシュ。切り詰めミニスカート。よく学校で叱られないものである。

「わあ、何コレ。すっごい豪勢じゃない」

作りかけの夕食を見て声を上げる。

「大体私か後はリューゼとオルクで交代で作ってんだけどサ、ついつい手抜きになっちゃうんだよねーーっ」

ぱくっ。飾りのミニトマトをつまみ食いする。

「食べちゃ駄目ーっ」

怒るルト。

「もうっユダンもスキもないんだからっ」

ルトは言ってボウルを脇へと動かした。

「ケ~チ。いいじゃん、一個や二個くらい」

「駄目~!!」

 食事の用意が出来、ルトが皆を呼び集める。

「後、大学生がいたのだったな・・・」

ユリシスの問いにオリヴィアがひらひらと手を振った。

「あ~、コンラッドはいつ帰ってくるか分からないから、置いておいたらいいよ。それより食べよ!もうお腹ぺこぺこ!」

オリヴィアが席に着き、他の連中もぞろぞろとやって来る。

「皆手はきちんと洗ったか?」

ユリシスの言葉にオルクが言い返した。ちょっとくらい洗わなくても死にはしないと。

「不衛生だろう。手洗いうがいだけでかなりの風邪は防げるのだぞ。ほら、まだの者は洗って来い」

はーい、と既に手を洗い終えているルトがいちばんに洗いに行き、それにアンディが続く。オルクも不承不承といった様子でそれに続いた。

「リューゼは?」

「私はもう洗いました」

つんとしてリューゼが言う。部外者が何故ここに我が物顔でいるのだろう?出版社の人間だという話だったが、それが何故こんな人の家の台所を勝手に使っているのか・・・

「ゼファ!お前も洗えよ!」

まだリビングの方で何やら部品らしきものをいじっているゼファにアンディが声をかける。が、聞こえているのか、いないのか、ゼファはうんともすんとも答えない。

「ゼファ!!」

苛立ったアンディは歩み寄るとゼファの耳元で叫んだ。

「うわっっ、何しやがる、アンディ野郎!」

驚いたゼファが怒る。

「早く手洗って来いよ。御飯だ」

「いらねー」

「いらねー、じゃないだろ。折角ユリシスさんが作ってくれたんだ。ほら、早く」

アンディが引っ張るのをゼファが邪険に振り払う。

「いらねーったらいらねーの。ほっといてくれよ」

「ゼファといったな」

見かねたユリシスが歩み寄る。

「そなたらは育ち盛りだ。栄養をきちんととらねば身体が持たぬぞ。さあ、早くしないと冷めてしまう」

「うっせーな、俺はいらねーから、誰か好きな奴食べろよ。カップ麺でいい」

「カップ麺では食事にならぬ」

「だーっ、オメー何様だよ。あん?人んちに勝手に上がり込んであれこれあれこれ命令してんじゃねーよ!」

「ゼファ!そんな言い方!」

アンディがたしなめ、なんだよ、とゼファが突っかかる。オリヴィアがやって来てユリシスの腕を取った。

「ほっときなって。そのコは何作ってもカップ麺とかスナックばっか食べてんの。言うだけ無駄無駄。いらないって言ってんだからほっといて食べよ食べよ」

「し、しかし・・・」

「いいから、いいから。ほら、アンディ!あんたも」

しぶしぶ、アンディが食卓へ戻る。

「後はダレスか」

ユリシスは小さく息をついて言った。人数が多い分、なかなか統制が取れない。

「ダレスは食べません」

リューゼが冷ややかとも取れる口調で言った。

「仕事中です」

「しかし、きちんと食事を取らねば身体を悪くしてしまうだろう」

構わずユリシスが呼びに行こうとする。

「来ないと言っているでしょう!」

鋭い声でリューゼが言った。これ以上この闖入者にかき回されたくない。

 あるものを適当にお腹の空いた時に食べるのがこの家のやり方である。ダレスは子どもたちに細かいことはあまり言わないし、仕事に熱中すると食べることも寝ることも放り出してかかりきりになる。

「リューゼ、何も怒ることはないだろう」

隣でオルクがたしなめた。

「別に怒ってなんかいません!」

「それが怒ってるって言うんだ」

「だから怒ってなんかいないと何度言えば分かるんです!」

ぎゃあぎゃあぎゃあ。喧嘩を始める二人に、オリヴィアがあ~あ、といった様子でため息をつき、アンディがはああ、ともう一つ息をつく。ユリシスが割って入ろうとした時、ルトがやめてよ!と叫んだ。半泣きである。

「もう、みんなやめてよ!喧嘩しないでよ!!」

「あ・・・ごめん」

オルクが謝り、リューゼもごめんなさいと小さく謝る。ユリシスはほっと息をつくとダレスを呼びに出かけた。


「食事・・・?」

呼びかけられたダレスは不機嫌極まりない顔をしてユリシスを振り返った。卓上ランプしかついていないので、余計にその表情は険しく見える。

「あ・・・その・・・」

ユリシスは邪魔をしてしまったようだ、と気がついてユリシスが詫び、踵を返す。はあ、大げさに一つため息をつくと、ダレスはゆらりと立ち上がった。

「良いのか・・・?」

ユリシスが尋ねるが、ダレスはむっつりと押し黙って答えない。

 食堂へ行くと、子どもたちが驚いた顔で二人を振り返った。仕事中のダレスが呼ばれて食事に出てくるとは、前代未聞である。黙ってダレスが席に着き、皆がぼそぼそと食べ始めた。

 余計なことをしてしまったか。ユリシスが思っていると、ルトがおじちゃん、食べないの、と声をかけてきた。子どもなりに必死に気を遣っているらしい。ユリシスは微笑むと、いや、いただくとも、とそう答えた。指を組み合わせ、食前の祈りを捧げる。

「おじちゃん、何してるの?」

「ん?お祈りだ」

「おいのり?」

「こうして食事を得ることができたことに、私たちの生命のために命を落としたもののために、感謝の気持ちをな」

「分かった!僕もお祈りする」

ルトがユリシスの真似をし、つられたようにアンディが食べる手を止め、同じく真似をする。

「馬鹿馬鹿しい」

口の中でオルクがつぶやいたが、それは皆には聞こえなかった。

「それでね、それでね」

ルトがユリシスと買い物に出た時のことを逐一皆に話して聞かせる。

「可愛いお子さんですねって言われちゃった!似てるかな!」

ルトの言葉にダレスが危うく口の中のものを吹き出しそうになる。

 確かに、ルトもユリシスと同じ金色の髪をしている。雰囲気としては似ていなくもない。

「あ~あ、ユリシスも可哀想にねぇ。ねえ、ユリシス、結婚まだでしょ」

とオリヴィア。

「あ、ああ、まだだが」

「んふふー、だろうと思った。そういう感じだもんね。ねねね、彼女とかいるの?」

女子高生必殺ゴシップモード発動。

「いや、それは・・・」

「いるんでしょ、いるんでしょ、どんな人?写真見せてよ!」

「いや、だから・・・」

完全にオリヴィアに気圧されてユリシスがどう返したものかといった顔をする。

「オリヴィア」

ダレスが割って入った。

「人のことにあれこれ頭を突っ込むな」

「えーーいいじゃない。別に初体験はいつですかーって聞いてるわけじゃなし」

オリヴィアの言葉に今度はユリシスが食べていたものを吹き出しそうになる。

「オ、オリヴィア!」

完全に真っ赤になったユリシスに、オリヴィアはきゃらきゃら笑って言った。

「あっらーー、赤くなってか~わいいんだから」

「いい加減にしておけ、オリヴィア」

低い地を這うような声音でダレスが言う。

「はいはいはい、分かりました、わかりましたよ」

オリヴィアは言うとやっと静かになった。


 皆を寝かせ、ぐずるルトを寝かしつけ。ざっとあらかた片付け終わったユリシスは額を拭うと小さく息をついた。全く嵐のような一日だった。一段落したところで今日のところは帰ろう、と鞄を手にする。と、そこへまた一人戻ってきた。残る今一人の住人、コンラッドである。

「おや、ええと・・・」

見知らぬ人間が家の中にいることに戸惑った様子でコンラッドが立ちつくす。ユリシスは自分は出版社の人間で・・・と挨拶をした。

「ああ、ダレスのお仕事の方でしたか~。遅くまでご苦労様です」

おっとりとしたしゃべり方。

「夕食が冷蔵庫に入っています。よければ温めて召し上がってください」

ユリシスが言うとコンラッドがいやあ、すみませんねぇ、と礼を述べて軽く頭を下げた。

「では私はこれで・・・」

ユリシスはコンラッドの前を去ると、ダレスの部屋に向かった。一応帰ると告げておいた方がいいだろう。

 ノックをして中に入る。相変わらず卓上ランプだけをつけたまま、ダレスは原稿を書いているようだった。声をかけてみるが、熱中しているダレスには聞こえないらしい。これ以上邪魔をしても、とユリシスは紙に帰る旨のメッセージを残すとそっとダレスの家を辞した。

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