無力な自分
そして、冒頭に至る。
「ッたく、無駄に手こずらせやがってこのガキ!!」
「ぐふぅッ……!!」
カイの時間稼ぎも空しく、追いつかれてしまったアカはフーニスの部下に蹴り飛ばされてしまう。
額から血が流れ、拭き取った右腕には血が付く。その血を見た途端、アカの全身にゾッとする冷たさが襲い掛かった。
思えば、自分が血を流すような怪我を負うことは余り無い。それは「いつも自分の兄が、カイが守ってくれたから」と今更ながら気づいたのだ。
しかし、その兄は自分を逃がす為に囮になって今は居ない。流れた血は「いつも守ってくれる兄が居ない」という残酷な現実をアカに叩きつけたのである。
アカは初めて「自分が死ぬかもしれない」と死の恐怖に支配されてしまった。
(死にたくない……)
それが無理なことはアカが一番分かっていた、分かってしまったのだ。
抗うことの出来ない事実が胸の中で怒りと悔しさと一緒にぐちゃぐちゃにかき乱している。言葉に出来ない感情は涙となって視界を歪ませた。
(助けて……ヒーロー……)
それは弱音だ。認めたくない現実を否定するための、アカが捻りだした言い訳だ。
「もしかして来るかもしれない」「もしかして助けて来るかもしれない」「もしかして」「もしかして」「もしかして」…………
誰 も 来 な か っ た。
当然と言えば当然のこと、1度も出会ったことのない「知らないヒーローとやら」がタイミング良く助けるなんて奇跡、普通に考えてありえない。
それでも縋るしかない、ありえない奇跡に、自分にはそれしか出来ないのだから。
「しかし……こんな間抜け、見捨てれば良かったのにホント馬鹿だよなぁ?」
「ッ……!!」
…………なんだって。
「あの甘ちゃんに出来る訳ねぇだろ。つか、さっきの見世物面白かったな」
「ああ。余裕ぶっこいて簡単にぶっ飛ばされやがって、もう少しで噴きそうになったわ」
「アヒャヒャ!! 違ぇねぇ!!」
「…………」
例え、自分を馬鹿にしたとしても怒ることは無いだろう。実際その通りだろうし、何よりこいつらに言い返せないからだ。
だが____自分の大好きな兄ちゃんを馬鹿にすることだけは絶対に許さない。
アカは目の前で兄を馬鹿にされ、胸の中の黒いドロドロしたものが一つの感情にまとまる。
それが、アカが初めて抱いた"殺意"であった。
アカは「兄ちゃんを馬鹿にしたあいつらを殺す道具」を無意識に握りしめる。
ゴミ山に埋もれていた金属製のソレは、何故か体に良く馴染む。
その姿はまるで聖剣を引き抜く英雄の如く、奇しくも自分が縋っていたヒーローと同じであった。
「ヒャヒャ……何だ、怒ったのか?」
「……兄ちゃんを」
「あぁ?」
「兄ちゃんをぉぉ馬鹿にするなぁぁぁ!!」
不思議だ、ボロボロだったはずの体から元気が溢れ出て来る。足を必死に動かしたら、あっという間に奴らの目の前まで来ていた。そして本能が「振れ!!!!」と絶叫し、アカは言う通りにソレを振る。アカの頭の中には殺すことしかないのだから。
「何ッぐはァ!!」
「お、おい!! てめぇ!!」
アカは力いっぱいに振り切ると一瞬の出来事にフーニスの部下は対応出来ず、横腹に鉄の棒がめり込み、そのまま吹き飛んだ。
「はァ……はァ……」
「今のは何だったのか」、そう考える前にアカはその場に力無く倒れ込んだ。限界以上の力を使ったのか、全身が筋肉痛になったかのように痛い。
しかし、絶望は終わらなかった。
「い、痛ぇ……あばらが何本か逝っちまった」
「ま、まさか適正道具か? コイツは無自覚者じゃなかったのか……!!」
「と、とにかく弱ってる今がチャンスだ。とっととコイツを殺しちまおうぜ」
「あぁ、そうだな」
「お前の抵抗など意味はない」とでも言いたいのか、フーニスの部下達はこちらに向かって来る。その姿はアカにとって「絶望の象徴」であった。
先程吹っ飛ばされた男は横腹を抑えながら腰の剣を引き抜き、アカに向ける。
(ちく、しょう……)
結局、全力を振り絞っても絶望を打ち砕くことは出来なかった。倦怠感に襲われ、動くことすらままならない。
「殺せなかった悔しさ」と「何も出来ない自分の惨めさ」にアカはただ、泣いた。
「クソガキが……死ねェ!!」
そして、剣はアカを切り裂き、アカは、死____
「____『やめろ』」
見てもらうにはコツコツ投稿していくしかありませんね
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