兄ちゃんだから
「アカ、下がってて」
「に、兄ちゃん……」
「大丈夫、兄ちゃんが守るから」
カイはアカに笑いかけ後ろに下がるように指示をする。
どうやらカバ以外に攻撃しないのは本当らしく、他の3人はその場で観戦していた。
「随分、余裕そうだなァ?」
「そうでもないさ……でも」
「あぁ??」
「可愛い弟の前で格好つけたいのが兄ちゃんってもんだろ……!!」
カイはカバを睨み付けながらニヤリと笑う。
実際、状況は最悪に近い……だがアカを安心させる為にも、そして自分自身を鼓舞する為にも無理矢理口角を上げた。
「浮遊……」
ここはゴミ山、百を優に超える錆びれた鉄釘が浮かび上がりカイを包み込む。それは正しく【鉄屑】の異名に相応しき姿であった。
「ははははは!! そのツラ、ボコボコにしてやんよぉぉ!!」
「方向、発射ォォ!!!!」
能力範囲内で加速した鉄釘はカバ目掛け一直線に飛んで行く。遠距離攻撃の出来るカイは先制を取り、懐に潜り込まれないように策を企てる。先程は不意を突かれたが、攻撃範囲を考えれば自分が有利に立てると考えていた…………が、策は失敗に終わった。
「無駄なんだよぉぉ!!」
発射した鉄釘は避ける事も出来ずカバに襲い掛かるはずであった。だが実際には鉄釘はまるで意思を持ってるかのようにメイス目掛け進路を変えたのである。
「ッ、どうし」
「おおらァァ!!」
「まずッぐはぁぁ!!」
「に、兄ちゃん!!」
肉体的にカバに劣るカイは突進を避けられず、簡単に吹っ飛んでしまった。心配したアカは直ぐにカイの下へ向かう。
「いったい、何が……ッ」
「磁石って知ってるかァ? お前みたいな鉄屑を引っ張るスゲーもんがあんだけどよォ?」
「そんな、都合の良い物が」
「あるんだなァこれが。このメイスは磁石で出来ててなァ……旦那にお前のことを言ったらたい、たい……」
「対策ですよカバ君」
「そう!! たいさくをもらったんだよォ!!」
「くッ……」
「なぁ【鉄屑】ゥ? わかるだろ? お前じゃ俺には勝てないんだよォォ!! ははははは!!!!」
よく見ると、メイスには発射した鉄釘が数本付いており、カバの言ったことが出鱈目じゃないことが分かる。
この廃れた世界では知識量が死と直結する。まさか、自分の適正道具を無効化出来る物質があるだなんて、カイは想像もしていなかったのだ。
(……まずいな。これじゃあ勝つどころか逃げるのも難しいかもしれない……一度諦めてついて行くか? いやそれだとアカはどうなる!? それだけは駄目だ!!)
カイは己の中で葛藤する。未知の存在に今すぐ対策出来るはずも無く、はっきり言って勝ち目は無い。
どうすれば良い? どうすれば生き残れる? どうすれば正解なんだ? どうすればどうすればどうすれば
「……」
アカが無言で自分を見つめて来る。
(そうだ……この場でどうすれば良いか一番分かっていないのは自分じゃない、アカだ。怖いだろうに、それでもこんな頼りない兄を頼ってくれるのだ…………なら、答えは最初から決まってたな)
「アカ」
「な、なに?」
戸惑うアカにカイは微笑む。
「逃げろ」
焦る気持ちを抑えアカに逃げろと言うカイ。
対するアカは突然の言葉に理解出来なかったが、徐々に「ありえない」とでも言いたげに顔を変えていった。
「!? そんな!! 兄ちゃんもいっしょに」
「僕は大丈夫だから、逃げて」
「で、でも」
「良いから逃げろォォ!! アカァ!!」
「ッ、うぅ……!!」
張り裂けんばかりに声を上げるカイ。初めての怒号と表情に、アカは涙目になりながらカバ達の反対方向へと走り出した。
「そうだ……それでいい」
この場を去って行くアカの背中を見て、カイは安堵の溜め息をつく。
「ふむ、弟の為に自分を囮にしましたか」
「ノークルさん、アイツどうしやしょうか?」
「私が指示されたのはカバ君の監視のみ……お好きにどうぞ」
「へへ、分かりやした。おい、暇つぶしに行ってみようぜぇ?」
「お、そうすっか!!」
「ッ!! させ」
「お前の相手は俺だァ!! 【鉄屑】ゥ!! 死ねェ!!!!」
「くッ、うぉぉぉぉ!!」
カバに妨害され囮作戦は半分失敗に終わるが、少しでもアカが逃げる時間を稼ぐ為にカイは戦い始めた。体格差では負け、しかも自分の攻撃を無力化するという圧倒的不利な状況。
もしかしたら、自分は死ぬかもしれない____だが、それでも、諦める訳にはいかない。
可愛い弟のために格好つけたいのが兄ちゃんなのだから。
カイ君体中1くらいだからね、そら大人4人は不利よ
おまけ
ノークル=片眼鏡を英語で「モ“ノークル”」
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