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ANTI HERO~悪が望む英雄譚~  作者:
反英雄の誕生
4/24

2人の夢

 日は既に暮れ、手元のランプが唯一の光源。

 2人は今、隣のスラム街に向かう準備をしていた。伯爵の件もあるが、同じ場所で素材集めをしていると今日みたいに面倒事に巻き込まれてしまう為、一定の期間で移動を繰り返しているのだ。


「…………」


 ふと、カイは手に持っている麻袋を神妙な顔つきで見つめる。


「ねぇ兄ちゃん、あとどれくらい?」


 そんな兄の様子をアカは察し、()()()()質問を出す。


「うーん……この調子なら後3ヶ月もしないで都市に行けるはず」

「3ヶ月……やっとだね、兄ちゃん」

「そうだね」


 そう呟くと、カイの顔はどこか夢を見る少年のような表情をしていた。


「僕は____"ヒーロー"になるんだ」


 適正道具(ソウル)を自覚した人間は大まかにヒーローとヴィランの2種類に分かれられる。


 ヴィランとは、この荒廃した世界を力によって支配している者の呼称だ。伯爵・子爵と階級があり、適正道具(ソウル)の強さや悪事の規模によって常に変動している。


 それに対し「弱きを助け強きを挫く」、正に正義の存在をヒーローと呼んだ。しかしこちらはヴィランと違い()()が必要である。保障されていない力など、民にとってはヴィランと大差ないからだ。


 ヒーロー試験は都市でのみ行われる。2人が金を稼いでいる訳は単に「生活費のため」だけではなく、「入都税を支払うため」というのも目的に含まれていたのである。


 「ヒーローになる」というカイの夢、その夢を応援するアカ。2人はその夢の為に今日ここまで生きて来たのだ。


「ごめんなアカ。兄ちゃんの我がままに付き合わせちゃって……」

「そんなことない!! 兄ちゃんがヒーローになったらぜってーかっけーぞ!!」

「はは、そうだと良いな」


 カイは笑いながらアカの髪をくしゃくしゃにし、空を見上げる。

 見上げた空は昼も夜も関係無く、いつも暗い。


「アカ、知ってる? 昔は空にはたくさんの"ほし"がいっぱいあって、とても綺麗だったんだって」

「兄ちゃん、それいつも言ってる」


 アカの呆れた物言いに微笑むカイ。


「僕はヒーローになって、この暗い空を"ほし"でいっぱいにするんだ……!!」

「うん!! 兄ちゃんなら出来るよ!!」

「……ありがとう。さ、明日は早いからもう寝ようか」

「はーい」


 そうして、二人は眠りについた。

 いつの日か、2人星空の下で眠れるのを信じて____




~~~~~




 逃げながらえたコーザとカバはスラム街の離れに住む"旦那"なる人物の下へ向かっていた。

 旦那の家は豪華な屋敷であり、自分達の住む世界との違いに多少抵抗感があったが扉を開け旦那の居る部屋に入る。


 2人の目に入ったのは街の住人と大きく違う、太く肥えた体。右手にはワイン、左手には縄、宝石を散りばめた服装は派手派手しい部屋の内装と良く似合っていた。

 この男こそ旦那『フーニス』、子爵級ヴィランである。


「だ、旦那ァ!! アイツ、生意気にも旦那の誘いを無視したんすよ!!」

「とっちめるでグス!!」

「……で、【鉄屑】は連れて来たのか?」

「え、だから、アイツは誘いを無視して」

「俺がお前達に望んだのはを鉄屑を連れて来ることだ。()()()()()()()()()()()じゃねぇ……!!」

「ひッ!! 許し、ぐぇ、じにだ、く……ッ!!」


 静かな怒気を孕みながら呟くと、フーニスの縄はコーザに向かって素早く伸び首を絞め上げる。


「言ったよな? 庇護下に入んのは勝手だが結果は持って来いって。信用は大切にしねぇとなぁ?」

「がッ、は…………」


 コーザは必死に許しを請うがフーニスは淡々と説教を続け、やがて力無く腕を垂らしてしまった。それを隣で見ていたカバの顔は酷く青ざめている。


「はぁ、兄貴の手土産にするつもりが台無しになっちまった。まぁ、はなから期待してなかったけどな」

(ば、化け物だ!! 殺さちまう!! どうすれば……そ、そうだ!!)

「待ってくだせぇ!! あ、ああアイツには弟がいるんでさァ。ソイツを使えばきっと!!」

「うるせぇなぁ。使えないゴミはとっとと死ね」

「し、死にだぐない!! 必ず、必ず連れてきやすから殺さないでぐださい!!」


 目の前で友が死んだ光景はまだ記憶に新しい、恐怖から額を勢い良く床にこすり付けるカバ。

 すると、あまりの必死さに興味が出たのか、フーニスはニヤリと口角を上げた。


「……そうだな、実は今度闇市に卸すっていう新商品を俺の兄貴からいくつか貰ってな。お前で試していいか? 断るなら絞め殺すが」

「や、やります。やらせてくだせぇ!!」

「そうか。おい、アレ持って来い」


 返事を聞いたフーニスの配下は奥の部屋から()()()()()を持って来た。


「コレはな"自爆首輪"って言ってな。スイッチ一つでドカン!! 奴隷管理にピッタリな代物よ。これをお前に付けて貰う」

「あ、あぁ……」

「それでコッチなんだが」


 自爆と聞き絶望の表情をしていたカバだが、水晶の説明を聞いていくうちにカバの目と口が大きく開いていった。


「は、はは。これがあれば、あのクソッたれを……!!」

「コレを使って今度こそ【鉄屑】を連れて来い。次失敗したら……」

「へ、へい旦那!!」


 薬を決めたかのようにカバの気持ちはハイになっている。その様子を尻目にフーニスはワインを揺らす。


「俺逆らうとどうなるか、身を以て思い知ると良い……【鉄屑】」


 カイとアカに闇が迫っている、そのことを2人が知る由も無かった。




おまけ(設定説明)

戦争のせいで住む場所が限定されてしまったので、例えばカイ達の国は「都市部だけ壁で囲い、他の土地をゴミ処理場(スラム街)にしている」のです。


因みに、フーニス→ラテン語で「縄」

ラテン語ってカッコいいよね。



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