反英雄の一撃
お久しぶりです。バ先でコロナが出てしまい、その代理をしていたので投稿が遅れてしまいました(言い訳)。皆様も体調にはお気を付けください。。。
「何がヒーローだ……くだらねぇ」
ヒーロー……そう語ったアカにカバは失望の顏を浮かべた。
「アカ、お前はヒーローに会った事があるかァ? 俺はあるぜ……なんせ殺しに来たんだからなァ」
「……」
「確かに俺は旦那の護衛だァ……でもよ、ヒーローなら少しくらい助けようとすんじゃねぇのかァ?」
そう言ってカバは喉元の首輪を、フーニスの奴隷である紛れもない証拠をアカに見せつける。
4年前、奴隷になってからずっとフーニスから誘拐略奪殺戮などの命令を受けて来た。その中でも特に記憶に残っている仕事がヒーローとの"殺し合い"であった。
「でもアイツらは見向きもしなかった。この俺をヴィランとして殺しに来たんだ……ッ!!」
カバは失望した、奴隷である自分を助けない正義の味方に。
「ははッ、俺みたいなゴミは助ける価値もねェってか……ふざけんなァアアア!!」
怒りのままに地面を何度も叩く。その表情は何処か悲しそうだ。
「認めねぇ……俺がこんな目にあってるのに殺しに来るヒーローなんざ、俺ァヒーローとは認めねェ!!!! それでもお前は俺を殺しに来るのかァ!! えェ? ヒーローさんよォ!!」
「…………」
アカはカバの言葉を直ぐに返す事は出来なかった。
今までのアカならばヒーローは「正義の存在」だと信じて疑わなかった。それは兄の夢である事も影響しているが、そもそもの話アカはヒーローに会った事がなかったからだ。殺されそうになっても現れないヒーロー、囚われの身であるカバを殺そうとするヒーロー…………果たして、それは"正義の味方"と言えるのだろうか?
「……お前がその首輪で脅されてたのは分かった。けど、お前は兄ちゃんを殺した事に変わりない」
一瞬だけ「カバは被害者だ」という考えが脳裏を横切ったが、それ以上にアカにとってカバは兄を殺した復讐対象。今更許せるはずがなかった。
「ッチ……結局お前もアイツらと同じ」
「だから……俺はカバとしてお前を倒すッ!!」
「あ? お前、何言って」
「カバ!! 俺はもう限界だ!! だから一撃だ!! この一撃で終わりにしようぜェ!!」
アカは"ニイッ"とカバを見て笑う。
「まさか、あの"カバさん"が逃げる訳ねぇよなぁ?」
「……はは、ははははは!! やっぱりアカァ!! お前は最高だァア!!!!」
カバにとってアカは殺した男の弟、手を取り合う事は出来ない____が、アカは「ヴィラン」ではなく「ただのカバ」として戦おうとしている。この感情が歪んでいるのは理解している……しかし、その事実がただただ嬉しかった。
無論、体力はまだ余裕がある。長期戦に持ち込めば間違いなく勝てるだろう…………が、"カバ"として戦えるチャンスをカバが無為にするはずがない。
「トォンバスタァアアアア!!!!」
カバは残りの体力など考えず、腕が耐えきれなくなる程メイスを重くし全力の一撃を繰り出す。そんな一撃にアカは何処か嬉しく感じ、同時に死の危機を覚える。気力だけで立っている今、バットを振るどころかメイスを受け止める事さえ厳しいだろう……だがしかし、それでもこの一撃にだけは"アカ"として答える必要があった____自分が自分で在る為に。
(ぐ、うぁ……負けてたまるかァアアアアア!!!!)
降り落とされたメイスを受け止めるように金属バットがかち合う。それは策も何も無い、愚劣で愚直な一振り。故に両者、意義と意地を賭け死に挑む。
「がぁああぁッ!!」
「うァアアアア!!!!」
賭けに勝ったのは、声に応えたのは____
「反英雄の一撃ォオオオオオ!!!!!!」
アカだ。
それは殺意か、それとも団長が与えた力か。アカの魂の叫びに"黒いナニカ"が応えた。
黒いナニカはオーラとして表れ金属バットを包み込む。そしてカバの体ごと打ち上げる。アカの限界を超えた圧倒的な力はカバを天井にぶち当て、遥か遠くへと吹き飛ばしてしまうのであった。
「へっ、俺の勝ち……だ……」
「お疲れ様です、アカ様」
「しよ…に…さん…………」
力を使い果たしたアカは倒れ込むが、一瞬にして現れた使用人がアカを優しく受け止めた。
「!? ア、アンタ誰!?」
「私は使用人、アカ様の関係者ですのでご心配無く」
「そ、そう……」
一方、突然現れた見知らぬメイドに少女は度肝を抜かれ若干引いていた。
対して、アカを抱えた使用人は傷だらけの体を見て心苦し気に溜め息をつく。
「まったく、こんなに傷だらけになって……心配したんですからね?」
「しょうがない」と言いたげに表情を緩め頬を撫でる。この4年間、アカの近くで成長を見守って来た使用人にとって、今日の出来事は一生忘れないだろう。ようやく家族の才能が開花したのだ、こんなに嬉しい事など他にない。
「団長様は【反英雄】としてしか認めないかもしれませんが…………私にとってアカ様は間違いなく【英雄】でしたよ」
こうして、後にその名を世界に轟かせる【反英雄】の初陣はここに終結したのであった。
「やっと終わった、か」
屍の山の上で煙草を嗜む傭兵。両目は塞がっているが超人的な感覚により戦闘を観察しており、今は一人結果を分析していた。
「死にかけだが"あの力"に飲まれず自我を保っている。まぁ初戦にしてはギリギリ及第点ってとこだな……ケケッ!!」
零れるようにケラケラと笑い出す傭兵。まさかアカが期待以上の結果を叩き出すとは思いもしていなかったのだ。
(何故あの時団長が拾ったのか理解出来なかったが……たった今理解した。確かにコレは器足りえるッ!!)
傭兵は確信する__アカは自分を殺せる程の実力者に、我が退屈を潤す好敵手になると。
「__様」
興奮を隠しきれずにいると、ふと使用人の声が聞こえて来た。傷だらけのアカにこれ以上耐えきれなかったのだろう。決着がついた瞬間には既にステージへと駆けていたのだ。その様子に傭兵は深々と溜め息をつく。
「はぁ。にしても"アレ"に気付かないなんてまだまだ爪が甘ェなァ…………ホラ、良い加減出て来いよ」
傭兵が呼びかけるが周りには誰も居ない……否、その姿が見えないだけであった。呼びかけた次の瞬間、まるで声に答えるようかのに景色の一部が歪み、変わり、やがて1人の老紳士がそこに現れたのである。
「まさか私の変装を見破るとは……恐れ入りました」
「ケケ、生憎耳は良いんでな。俺相手に隠れたきゃ心臓でも潰してろ」
「それはお厳しいお言葉で。流石は《サナダの一族》と言った所でしょうか」
「ほざけ……で、お前は何処の誰なんだ?」
「おっと、これは失礼。自己紹介がまだでしたな」
そう言って老紳士は優雅に一礼を振舞う。
「私は"カイ"様専属執事ノクール…………以後お見知りおきを」
何だかんだでANTI HIROは一周年(投稿してない期間含め)です。それでようやく1章終わりだと言う事実に戦慄を覚えています。もっと投稿スピードを上げられるよう精進していきますので、これからも応援の程よろしくお願いします。。。
あ、2章はある程度書いてから投稿する予定なので首を長くしてお待ちください()
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